「自転車通勤率」全国1位の大阪と2位の京都で、事故率が驚くほど違う…京都の「自転車政策」のすごい効果
2024年5月22日(水)9時15分 プレジデント社
■観光客と同じくらい多い自転車ピクトグラム
昨今の京都に行くと、これはもう誰もが気づく通り、外国人観光客だらけだ。京都駅に降り立ったときから、もう外国人密度がスゴい。清水寺に行くまでのあの小道なんて英語や中国語にかき消されて日本語が聞こえない。
とまあ、観光客が多いのは、もう誰もが知っている。で、ご存じだろうか、もうひとつ多いものがある。
京都を知る人であればあるほど知っているのが、路面に描かれた自転車ピクトグラムだ。
筆者撮影
京都市内の道路に描かれた自転車ピクトグラム - 筆者撮影
そして、駐輪場。さらに言うなら、バスの中吊り広告などの政策アピール「自転車みえる化計画by京都市」の手合い。この街は、昨今、なんだか自転車プレゼンスがやたらに目立つのである。
■道路1本、2本ではなく「面」で広める
京都市の「自転車総合計画」は今からもう14年前、2010年に始まった。
最初に策定したポリシーが「自転車の通行空間を示すこと」。要するに自転車の左側通行を徹底させることだった。これはまあどこの自治体でもやっている。
ただ京都の違うところは「自転車はエリア単位で考えなくては」という考え方だった。道路1本、道路2本という単位でやっても仕方がない。生活者目線では、自転車で行く範囲は、常に「面」だ。
だから最初の自転車ピクトグラムと、矢羽根(方向を示す矢印のようなマーク)は、京都市役所前の1ブロック、2ブロック、という単位で描かれていった。それを「今年はどこエリア、来年はどこエリア、再来年は……」と続けていったわけだ。
筆者提供
京都市の「自転車ピクトグラムエリア」のイメージ - 筆者提供
つまり該当エリアなら、縦通りにも横通りにも自転車マーク。京都中心部の細街路には、これでもかとばかり縦横に敷かれ、今ではどんなに狭い通りでもピクトグラムを見ないところがないくらいだ。
筆者提供
こんなに狭い路地にも「自転車は左側通行」のピクトグラム - 筆者提供
■クルマの「ドケドケ運転」にも効果あり
その結果、自転車が左側通行を守るようになった。これまでは左右デタラメに走っていたのが、矢羽根通りに左側通行。これで出会い頭の事故が減った。右側通行する逆走自転車が事故の原因であることは前回記事で解説した通りだ。
もうひとつ画期的だったのが、これら路面のピクトグラムを整備したら、クルマの平均スピードが落ちたことだ。
これは歩行者にも非常に評判がよく、これまで「ドケドケ運転」をしていたクルマがおとなしくなったという(京都市の担当者の話)。
その結果、どうなったか。今回の記事の主旨はここにある。
目に見える結果が出たのである。
■ライバル大阪市と明暗分かれる
図表1をごらんいただきたい。京都市が自転車総合政策をスタートさせたのが前述したように平成22年(2010年)のことだ。
「京都市自転車政策審議会」2019年3月13日資料より
まずは自転車事故の総数。平成22年の翌々年から、事故数がぐっと減っていく。翌々年からというタイムラグは当然で、スタート年はコンセプトと施策案を決めるばかりだったからだ。翌年に工程表に従って実際の施工を行う。結果が出るのが最短でも翌々年というわけだ。
全国平均と一緒に大阪市を並べているのが「すぐ近くのライバル都市」みたいな対抗意識を感じるのだが、公式的に言うと「最も自転車分担率の高い大阪と比較して」ということらしい。
そんなことは置いておいて、この減り方に驚かないだろうか。京都の自転車政策は、明らかに「吉」と出たのである。
事故件数がピークだった平成16年から比較すると、よりその効果がわかるだろう。
「京都市自転車総合計画2025」より
■自転車に限らず、全交通事故も減った
そればかりではない。
全交通事故の総数を比較しても、図表3のとおりで、これまた平成24年から目に見えて減っている。
「京都市自転車政策審議会」2019年3月13日資料より
私の推測では、たとえ視覚的な分離だけと言えど、歩行者と自転車とクルマに、なんとなくの場所指定をすることで、クルマのスピードが落ち、全交通事故が減ったのである。
その結果が、次の図表4だ。
「京都市自転車政策審議会」2019年3月13日資料より
■事故の少ない「自転車天国」に
全国20の政令指定都市の自転車分担率(全交通の中でどれだけ自転車を使うか)と自転車事故率を座標図にしたのがこれだ。
京都の位置が、右下に鎮座しているのが分かるだろう。この第4象限にあたる部分は「自転車をたくさん使うのに、自転車事故は少ない」という最も優秀な状態を表している。岡山市、広島市、熊本市も優秀なのだが、中でも突出して京都市がスゴいことが分かっていただけると思う。
つまり、この約10年の中で、京都という街は日本で一番「自転車が最も頻繁かつ安全に使われている大都市」という称号を手にしたのである。
私はもっと京都市は自慢してもいいと思う。
自転車事故が減った! という形の自慢でもいいんだが、それより市が手がけたものが、目に見えて成功した! という自慢でいいと思う。
ある政策を手がけた→その結果を得た→その結果は、明らかに市民の幸福に繋がるものだった。
これ以上の「実績」があるだろうか。
筆者撮影
自転車ピクトグラムに従って道路を走行する自転車 - 筆者撮影
■放置自転車を減らす取り組みも
もうひとつ言うと、この街は、昨今、異様に駐輪場が増えた。市役所前などの歩道上の駐輪場もそうだが、たとえば京都の最中心街のひとつ、四条烏丸にも地下駐輪場「御射山自転車等駐輪場」が設けられている。ここの駐輪キャパは571台、24時間利用可能。最初の1時間が無料で、10時間150円、1日中駐めても200円だ。
筆者撮影
京都市の中心エリアにできた御射山自転車等駐輪場 - 筆者撮影
入ってみたら、清潔で、車間に余裕があって、ふと見ると自動販売機で雨合羽まで売っている。雨合羽ひとつ100円。これは傘差し運転を減らすためで、じつにいいと思う。100円なら危ない傘差しよりもこっちを選ぶじゃないか。
筆者撮影
傘差し運転を減らすための雨合羽自動販売機 - 筆者撮影
同じような「自転車等駐車場」が都心部だけで数えて16も設置された。さらにいうなら、大きな交差点には右折用のバイクボックスまでできた。京都大の近くなどは、もう若い自転車乗りだらけ。
筆者撮影
右折用のバイクボックス - 筆者撮影
一歩一歩進んできた末に、京都の自転車ランドスケープは、間違いなく変わりつつある。
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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。
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(自転車評論家 疋田 智)
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