「タクシー業界と自民党がタクシー待ちの行列を作っている」ライドシェア産業の芽を摘む"献金と利権"の卑しさ
2024年6月14日(金)10時15分 プレジデント社
写真=iStock.com/TommL
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■子供でもわかる…自民党がタクシー業界に忖度する理由
政府は6月内にまとめる経済政策の基本方針を定める「骨太の方針」に、「日本版ライドシェア」を全国に広げる方針を盛り込むと見られている。
これは一般ドライバーが有料で乗客を運ぶ仕組みだが、それがタクシー会社の独占的な管理下におかれることが決められた。これはデジタル技術を用いた多様な事業主体が競争する、主要国のライドシェアとは根本的に違う。
日本でも、本年4月からライドシェアを導入するための本格的な議論を始めた際に、タクシー会社だけでなく、それ以外の多様な事業体についても、ライドシェアの安全管理の仕組みを競わせるべきであった。
それが、なぜタクシー会社だけに運営を限定するという、世界に例のない「日本型ライドシェア」を先行して行ったのか。
これは、タクシー会社が切望している、当面の運転手不足を緩和する一方で、「日本型ライドシェアの効果も分からないうちに、本格的な解禁の議論を行うのは拙速」という、改革先送りの口実を導くための周到な布石であった。要は、他の主要国のような新しい産業としてのライドシェアを断固拒みたいわけだ。
もともと、この「タクシー会社が独占する自家用運転者の活用」の構想は、2023年に全国ハイヤー・タクシー協会の川鍋一朗会長が示した「アプリ配車に限った一種免許保有者によるタクシー乗務」という私案が、その原型となっている。これならタクシー会社も反対しない、「政治的に実現が容易なライドシェア」を日本にも導入できるとして国交省に速やかに採用された。
この自家用運転者の活用方式は、本来の「交通難民の解消」という利用者主体の考え方からはほど遠い内容といえる。現に、運転手不足を補うために4月から始まった、自家用車活用事業のドライバー数は1282人(5月6日の週まで)に過ぎない。これでは、首都圏を含む全国の過去5年間で6万人も減少したタクシードライバーの不足に対して、焼け石に水の状況だ。都内中心部の住人などは、タクシー不足を実感できないかもしれないが、少し地方にいけば圧倒的に足りないのだ。
資料=国土交通省自動車部会・国峯委員提出
本来、ライドシェアとタクシービジネスは、基本的に別の形態の輸送サービスである。後者のタクシーは専業の運転手による会社の乗用車を用いた準公的なサービスで、流しで拾ったお客の乗車拒否はできない。
今回、タクシー会社が募集したものは、二種免許(バスやタクシーなどの旅客自動車の運転手の免許)は持たないものの、あくまでもタクシー会社に雇われたパートタイム雇用契約の「職業運転手」である。働く区域や勤務時間も週に何日、何時から何時までと事前に拘束されるため、本業との両立は困難となろう。
他方、本来のライドシェアは、利用者も運転者も、事前に登録して審査を受ける「会員制クラブ」のようなものである。契約先のプラットフォーム会社との働き方は自由で、どんな仕事を本業にしていたとしても、その合間に、兼業で同じ方面に行きたい利用者を便乗させることもできる。
タクシー運転手のように駅前やタクシー乗り場などでの長時間の待ち時間もなく、社会全体でガソリン消費も節約できる、省エネ型の効率的なサービスである。ドライバーにとっては、会社に制約されずに、自分の都合の良い時間と場所で働けることが魅力だ。海外の調査では、このメリットがなければライドシェアは行わないという人が多い結果になっている。
今回の歪んだ「日本型ライドシェア」を全国的に解禁しても、どれだけの効果が期待できるかは明確ではない。仮に、タクシー会社との雇用契約に応じる一般のドライバーが少なければ、日本ではライドシェアは馴染まないといえる。逆に十分多くのドライバーが集まれば、現行方式のままでよい。どちらにしてもタクシー会社の利益となる。表現を選ばずに言えば“胴元”の勝ちがあらかじめ決まっている。もっと言えば“イカサマ賭博”のようなものとも言える。
■ライドシェアは構造的な人手不足解消の手段
タクシー運転手が減少し、足りないというのなら賃金をあげれば人材は簡単に確保できるはず、という向きもあるが、それは若年労働力が豊富にあった過去の時代のことだ。不足しているのは職業運転手“全体”であり、タクシー賃金が上がれば公営バスや大型トラックの運転手がタクシーに流れて、いっそう不足することになる。
またタクシー運転手には60歳以上が4割で、70歳以上が2割強を占めるという高齢化も深刻だ。「コロナによるタクシー運転手の一時的な不足」というのは印象操作に過ぎない。高齢による引退で、2022年までの10年間で、年平均1万3000人の減少が続いている構造問題である。
今後も、高齢運転手による事故のリスクだけでなく、大量の引退は避けられない。そうなればタクシーだけでは、十分な運行サービスを供給できない、全国の交通空白地が広がるだけだ。また都市部においても、観光客の増加で交通難民がいっそう増えるだろう。
タクシーは、バスやトラックと比べて、働く時間によって稼働率に差が大きく、それだけ無駄な待ち時間が避けられない。このため運転手の収入を確保するために、地域ごとのタクシー台数を抑制し、乗客の増える深夜などの時間帯には客に長い列を作らせることで利用者に負担を強いてきた。都内のビジネスパーソンもきっと心当たりがあるに違いない。
この点で、本来の業務などの傍ら、副業で行うライドシェアは、潜在的に大幅な供給余力を持っている。また、遊休時間がない点で時間当たりの生産性も高い。今後の労働力不足が深刻となる日本社会では、副業・兼業による人材の有効利用を図らなければ必要な労働力は確保できない。
写真=iStock.com/andresr
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■ライドシェア法制の早期制定を
現行の日本型ライドシェアは、競争を制限するタクシー制度と一体的で、「公共の福祉の確保のためやむを得ない」場合に、個別に許可を得る制度である。いくら制度を全国化しても、地元のタクシー会社の了解が必要とされるなど、制度を運営する個々の市長(首長)などの熱意に依存するため、交通空白地の解消にはほど遠いだろう。
そのため、全国的なデジタルネットワークを持つプラットフォーム会社が、潜在的なドライバーを組織化しつつ、事故などの際にも責任をもって対処できる法的な仕組みが必要とされる。
また、現行では必要なルールが、ほとんど通達で定められているのも“障壁”となっている。通達式は国土交通省には都合がよいが、タクシー業界からの圧力にさらされやすい。新たな交通主体であるライドシェアには、デジタルによる遠隔管理や乗客の安全管理など、現行のタクシーとは異なる別途の安全規制が必要である。革新的なライドシェアには「法律による行政の原理」からも、通達でなく新たな法律で速やかに定めなければならない。
■政治改革の焦点は、裏金問題だけではない
結局のところ、日本型ライドシェアは、「タクシー会社の、タクシー会社による、タクシー会社のため」の方式だ。なぜ、そうなっているかといえば、政治家が業界に忖度しているからである。タクシー業界から政治家・政党などへ流れる膨大な政治献金の影響なしには考えがたい。日本の政治はタクシー業界にNOと言えない立場というわけだ。
読売新聞が衆参の国会議員が代表を務める資金管理団体と政党支部の政治資金収支報告書を集めたデータベース「政治資金システム」で、寄付者名に「タクシー」と入力して検索してみると、60件が表示された(2021年分)。寄付者はタクシー会社や業界団体のほか、地方で業界団体が作る自民党の職域支部だった。
そして寄付先は、ほとんどすべてが自民党国会議員の政党支部。総額は900万円あまりに上った、と報じている。さらに同紙は、「タクシー業界と政治の結びつきは、政治献金だけにとどまらない」として、昨年10月、永田町の自民党本部で開かれた自民党タクシー・ハイヤー議員連盟の総会で、会長の渡辺博道衆院議員が「タクシー業界をしっかりささえていく、我々の使命だ」と語り、幹事長の盛山正仁文部科学相が「安易なライドシェアは認めるわけにはいかない」と述べたことも記事にしている(読売新聞オンライン、2023年11月10日配信『深刻化するタクシー不足、「ライドシェア」導入に反対する事業者と政治家の関係』より)。
岸田文雄政権において今、政治資金規正法の改正が喫緊の課題だが、政治家の実質的な脱税行為だけでなく、タクシー協会などの政治団体が既得権を守るために、与党に多額の献金やパーティー券を購入している実態をさらに明らかにすることも重要である。あらゆる政治団体への寄付には、その金額を問わず現金を禁止し、記録の残る電子的な手段のみとすることが必要である。
なお、本稿は、制度・規制改革学会の提言にもとづいたもので、そちらも参照されたい。
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八代 尚宏(やしろ・なおひろ)
経済学者/昭和女子大学特命教授
経済企画庁、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授、昭和女子大学副学長等を経て現職。最近の著書に、『脱ポピュリズム国家』(日本経済新聞社)、『働き方改革の経済学』(日本評論社)、『シルバー民主主義』(中公新書)がある。
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(経済学者/昭和女子大学特命教授 八代 尚宏)
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