「なぜ待たされるんだ」怒声浴びせた患者はさらなる行動に 医療現場に広がる「カスハラ」当事者の嘆き
2025年5月2日(金)17時0分 J-CASTニュース
顧客から従業員への過剰な要求や侮辱的な言葉を指す「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。俳優の広末涼子さん(44)が看護師に対して暴力的な行為をしたことで注目を浴びた。
「カスハラが医療業界にも広がりつつある」。そう警鐘を鳴らすのは、医療従事者の野田明さん(仮名・30代)だ。実際、こんな場面に直面したことがあった。
「語気はどんどん強くなっていきました」
「予約しているのに、なぜ待たされるんだ!」
その患者は、外来受付に足を踏み入れた瞬間から明らかにいら立っていたという。腕を組みながら眉間にしわを寄せ、受付の前に来るなり不機嫌な口調でまくし立ててきたそうだ。
「こっちは時間ないんだよ」「なんのための予約なんだ」
受付スタッフが丁寧に説明し始めても、それを遮るようにして声を荒げた。
「語気はどんどん強くなっていきました。待合室にいる他の患者さんたちが、思わず振り返るほどの緊迫感でしたね」(野田さん)
スタッフは冷静に対応しようと必死だったが、その空気は重く張りつめていた。
「もちろん、病院側にも改善すべき点がなかったわけではありません。しかし、診察や会計など並行して行う受付業務のなかで、できる限りの説明と対応を行っていたのも事実です」(野田さん)
それでも、その患者は納得せず、怒りを露わにしたまま受付を立ち去った。
そして数日後......。野田さんは思いもよらぬ事実に直面することになる。
ウェブ上で一方的な批判書き込む
ある日、野田さんはウェブ上で、自身が勤務している病院名を検索。目に飛び込んできたのは、その患者と思われる人物からの口コミだった。
「スタッフの応対が不親切だった。事前に予約していたにもかかわらず、かなりの時間待たされた」
「説明も不十分で、質問をしてもはっきりとした回答が得られなかった」
「時間が無駄だった。再度訪れることはない」
現場での暴力に加え、ウェブ上に投稿された口コミもまた、医療従事者の心に深い傷を残す「目に見えない暴力」だと野田さんは話す。
「口コミには、一方的な批判しか書かれていませんでした。現場で何が起きていたのか、スタッフがどれだけ努力したかについては全く触れられていませんでした。それは仕方ないことかもしれませんが、私たちが誠実に積み上げた時間は、たった数行の否定で切り捨てられてしまったんです」
医療現場では、患者に対して「それは困ります」と伝えることさえ難しいそうだ。「患者=弱者」という固定観念が根強く、スタッフは自分の言葉を抑え、ただ耐えるしかないという。
野田さんは、「医療現場ではカスハラへの対策が遅れていると感じています」と吐露。そして、「ハラスメントに対する相談窓口や、患者向けへの啓発活動が必要だと思います」とも訴える。
スタッフを守るための制度や、カスハラを可視化する仕組みが求められている——。そう強調した野田さんは、病院に行く際は、「この人たち(スタッフ)も日々努力していることを心に留めておいてほしい。少しの思いやりが、医療現場を支える力となります」と話した。