カシミール情勢 印パは自制し報復の連鎖防げ
2025年5月9日(金)5時0分 読売新聞
繰り返し戦火を交えてきたインドとパキスタンの間で、再び軍事衝突が拡大しつつある。
核兵器を保有する両国が報復の連鎖に陥り、全面衝突に発展する事態は何としても避けねばならない。双方に最大限の自制を求める。
インド軍が、パキスタンと帰属を争うカシミール地方のパキスタン支配地域などを攻撃した。カシミール地方のインド支配地域で4月下旬、インド人観光客ら26人が武装集団に殺害された銃撃テロに対する「報復」だとしている。
インド政府は、テロはパキスタンのイスラム過激派組織の分派による犯行だと断定している。今回のインド軍の攻撃は「テロ組織の拠点」など計9か所を狙ったもので、民間人は標的にしていないと主張している。
だが、パキスタンは、モスクなどが狙われて子供を含む80人以上が死傷したと反論している。シャリフ首相は「
本格的な交戦に発展すれば、さらに多くの犠牲は避けられない。インドのモディ首相とシャリフ氏は緊張緩和に向け、早急に対話に乗り出さねばならない。
モディ政権は今秋に地方選挙を控え、パキスタンへの強硬姿勢で支持拡大を狙うが、経済に打撃となる全面衝突は望んでいない。パキスタンも、通常戦力で優位に立つインドとの大規模な戦闘は避けたいのが本音だろう。
だが、印パは1947年の英国植民地からの分離・独立以降、3度の戦争を含め衝突が絶えず、両国民の相互不信は根強い。
両国が保有する核弾頭はそれぞれ170発前後に及ぶ。テロなどがきっかけで当事国同士が制御できない事態に陥る可能性も排除できず、そうなれば、核兵器使用の危険性も高まる。
インドとパキスタンの対立を巡り、これまで仲介役を担ってきた米国が今回、積極的に動いていないことが気がかりだ。
トランプ大統領は「終息を望んでいる。私にできることがあれば協力する」と述べた。しかし、ロシアによるウクライナ侵略やパレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡る和平交渉に追われ、新たな紛争に対処する余裕がないのだろう。
日本は印パ双方と良好な関係を築いてきた。欧州諸国や、パキスタンへの影響力を誇る中国とも連携し、対話による事態の沈静化を両国に強く働きかけるべきだ。