万博での「ユスリカ」大量発生の原因と対策 「いのち」に配慮の防虫徹底も...対策担当の専門家「やむを得ない事象では」
2025年5月22日(木)12時39分 J-CASTニュース
大阪・関西万博の会場で、虫が大量発生する事態となっている。SNSで「大屋根リング」の柱に虫が大量に止まっている画像などが複数投稿され、話題になった。日本国際博覧会協会(万博協会)は、殺虫剤を撒くなど対策をしているほか、専門業者へも相談していると説明している。
なぜ、こんなにも虫が大量発生することになったのか。万博会場内にある森の防虫対策を担当した専門家は、万博では防虫対策にあたっても「いのち」を大切にするとのコンセプトを貫いていたが、会場の立地などから「やむを得ない事象」だったのではないかとみている。
「静けさの森」ではトンボなどに影響のない装置を提案
万博協会の広報報道課によると、大量発生しているのは「ユスリカ」。20日時点では、現在も発生している状態だといい、担当者は「主にウォータープラザ周辺ですとか、広い範囲に飛んでいます」と話す。対策としては、殺虫剤や幼虫の脱皮を妨げる「成長阻害剤」を散布しているほか、殺虫ライトを設置。専門業者へも相談しているという。
万博会場内にある「静けさの森」で蚊の対策を担当しているオオヨドコーポレーションPテックス社(大阪府守口市)の防虫コンサルタント・奥村敏夫氏は、他の専門家と同様、発生しているのは海水と淡水が混じる汽水域に発生する「シオユスリカ」で、海に隣接したウォータープラザが発生源だとみる。
SNSでは、大屋根リングの柱に止まったユスリカのほか、ユスリカが大群を作って飛んでいる画像や、パビリオン内にも入り込んでいる様子の画像や動画も投稿されている。なぜここまで大量に発生する事態となったのか。奥村氏は、「会場の立地からやむを得ない事象」ではないかと話す。
奥村氏によると、殺虫剤を定期的に散布したり水辺を塩素消毒した人工の海や池にしたりすれば虫は湧かず人は快適に過ごせるが、殺虫剤には魚や甲殻類など水産生物に影響を及ぼす「魚毒性」があるため、海に面した万博会場では不用意に殺虫剤を撒くと対象害虫のみならず海の生物にもダイレクトに影響を及ぼしてしまう。
また、今回の万博では「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げており、それに紐付いた8つのテーマ事業も、「いのち」に関連するものだ。そのため万博ではあらゆる「いのち」を大切にするというコンセプトを貫いており、会場内の防虫対策もそれに沿って細心の注意を払って実施されているとしている。
これらを踏まえ、海に面した会場の立地と殺虫剤による防虫対策の難しさなどから、ユスリカの大量発生はやむを得ない事象でないかと、奥村氏はみている。
なお、オオヨドコーポレーションPテックス社では「静けさの森」における蚊の対策として、「臭気誘因トラップ」を提案している。特殊な臭いで蚊をおびき寄せて電動ファンで捕獲する装置で、そこに生息しているトンボなどのほかの生物には影響がないという。しかし、これはユスリカにも効果がないものだと説明した。
ユスリカは「ユスリカアレルギー」のアレルゲン
ユスリカの人への害について、蚊のように感染症を媒介することはないが、「ユスリカアレルギー」のアレルゲンになると奥村氏は説明する。このためアレルギー症状のある人にはマスクを着用することを推奨した。
また、喘息疾患を患っている人やその他アレルギー体質の人も要注意だ。ユスリカは死ぬとばらばらになり粉塵化して吸い込みやすくなってしまう。そのため、喘息疾患を悪化させると言われているという。奥村氏は、「喘息発作を抑える緊急時の薬を忘れず持参していただくことも大切です」と話した。
万博側ができる対策は...「池の水を完全に海水とする」こと?
では、万博側ができる対策としてはどのようなものがあるのだろうか。
奥村氏は可能であればと前置きした上で「現在、汽水域となっている池に海水を引き入れて池の水を完全に海水とすること。これが抜本的な解決策です」と話す。シオユスリカは汽水域に発生するという特異な生態をもつため、この生息環境を人為的につくり変えることで繁殖を阻止するというものだ。
取り急ぎ、すぐにでも実施可能な対策としては、「炭酸ガス製剤」の散布を挙げる。水産生物に影響を及ぼす「魚毒性」はあるものの、噴射しても有効成分が空気中に漂い地上に降り注がないため、「数ある殺虫剤の中ではもっとも環境に与える影響の少ない殺虫剤と言えます」と説明する。ただし、一過性の対処にしかならず「抜本的解決にはならない」と言う。
また、「非現実的」としつつ、環境に配慮したシンプルな対策として「人海戦術で、蚊柱を補虫網でコツコツと取り除く」方法も挙げる。ただし、万博の開催期間中の実施は難しいとみている。
その他、ユスリカの屋内への侵入防止策として、「工場扇」と呼ばれる屋外用の大きな扇風機をパビリオン出入口の内側から外側へ向けて送風しておく方法があるという。山間部のコンビニなどに見られる対策方法で、「ユスリカは決して飛翔力の強い昆虫ではないので、大型の扇風機の風量があれば十分吹き飛びます」と説明。「安全かつ周辺の生物にも影響しない方法」としてはもっとも現実的ではないか、と話した。
最後に奥村氏は、「万博会場が『いのち』をテーマに、会場内の防虫対策にもいのち(生物の多様性)を守る方法を模索して真剣に取り組んでいる事を少しでも多くの方に知って頂けたら嬉しいです」と話した。