「…あの人誰?」斎藤元彦知事(47)がメルチュ折田楓社長(33)に怪訝な顔でもらした“一言”《兵庫県・公選法違反問題》
2025年5月23日(金)12時0分 文春オンライン
兵庫県・ 斎藤元彦 知事(47)らの7項目にわたる疑惑を、西播磨県民局長の男性が告発し、その後死亡した問題。「週刊文春」取材班が、全取材メモと未公開の物証を紐解き、斎藤知事の“正体”に迫った連載『冷血の知事』より、第1回を特別に全文公開する。
昨年11月の兵庫県知事選を巡って、再選した斎藤知事とPR会社「merchu(メルチュ)」の折田楓社長(33)が公職選挙法違反(買収、被買収)の容疑で刑事告発された。事態が表面化して以降、雲隠れを続けてきた折田氏だが——。
(初出:「週刊文春」2025年2月27日号。年齢、肩書は当時のまま。)
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彼女は青にこだわっていた。残された記録には、それを、オリジナルの「さいとうブルー」と呼んだことが綴られている。今ではあまりに有名になった1枚のツーショット写真では、自らも鮮やかな青いセットアップで着飾っていた。

西宮市の神社を参拝
兵庫県西宮市、澄み切った青空が広がっていた2025年2月15日、土曜日の昼。少し早い春を思わせる穏やかな木漏れ日の下、彼女は境内をのんびりと歩いていた。
関西を代表する高級住宅街に佇む越木岩神社。子宝や安産、商売繁盛の御利益があるとされ、ご神体として周囲約40メートル・高さ10メートルの大怪石(花崗岩)である一大霊岩「甑(こしき)岩」を擁する。西宮育ちの彼女は、幼い頃から何度も地元のパワースポットを参拝してきたという。
ただ、この日、身を包んだファッションは、キラキラとした青とはかけ離れていた。ベージュのダウンコートに黒のパンツ、足元には黒のスニーカー。黒いバケットハットを目深に被り、黒縁眼鏡と白いマスクで顔は覆われ、表情をほとんど窺うことができない。
彼女が8日前に神戸地検と兵庫県警による強制捜査を受けた渦中の人物であることは、周囲にいる誰もが気付かない様子だ。
PR会社「merchu(メルチユ)」社長、折田楓(33)。そこにいたのは、あの日以来、行方をくらまし、口を閉ざし続けてきた女性だった。
彼女の人生を大きく狂わせたのは、斎藤元彦(47)。「冷血の知事」である。
違法告発に対し異例の対応
斎藤が舵取りする兵庫県で異常な事態が立て続けに起きるようになって、まもなく1年が経つ。
始まりは昨年3月12日、西播磨県民局長(以下、肩書は基本的に当時)の中村良介(仮名)が告発文書を作成したことだった。〈齋藤元彦兵庫県知事の違法行為等について〉と題した文書で、7項目の問題点を列挙。ただ、県政批判の文書が出回ること自体は珍しくなく、取り合わないのが一般的だ。しかしその時に限り、斎藤らは異様な速さで作成者を特定。「嘘八百」と断定した上で公用パソコンまで押収し、中村に停職3カ月の処分を下した。
〈死をもって抗議する〉
だが、その後の展開を斎藤はどう見ていたのか。中村が文書で告発していた疑惑の1つが、阪神・オリックスの優勝パレード(2023年11月)を巡り、寄付金集めに苦労していた担当課長が療養していた問題だった。この課長は昨年4月20日、命を絶つ。さらに7月7日には、中村が〈死をもって抗議する〉とのメッセージを遺して自死した。
命を絶った県議からのLINE
僅か2カ月半の間に、県の課長、県民局長が相次いで自死した事実。それでも斎藤は能面のような表情で「大変残念でならない」「お悔み申し上げる」と繰り返し、「告発は事実と異なる」「処分は法的にも問題ない」と主張し続けた。
だが、報道の扱いは日に日に大きくなっていく。やがて県議会は不信任決議を突きつけ、斎藤は昨年9月30日付で失職。出直し知事選の道を選択する。
当初は劣勢とされた斎藤に「2馬力選挙」で加勢したのが、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志だ。選挙演説やYouTubeで中村の個人情報を暴露。逆に「メディアが批判していた斎藤こそ本当は誠実な人間だ」とする言説を繰り出した。そして昨年11月17日、斎藤は前評判を覆して再選を決める。立花の発信については「承知していない」と答え続けた。
中村が告発した疑惑について百条委員会の委員として人一倍詳しく調査し、立花の言動にも強い憤りを抱いていたのが、県議の竹内英明だった。小誌記者も知事選前に竹内から、
〈故人(中村)が死んでいることをいいことになんでもありの姿勢に許せません〉
と綴ったLINEを受け取っていた。だが、一部の斎藤支持者らに目を付けられ、根拠不明の情報を元に「斎藤失職の黒幕」と批判を浴びてしまう。斎藤が再選を果たした翌日、竹内は「負けたんや」とこぼして県議の職を辞した。その後も誹謗中傷は重なり、1月18日、50歳の若さで自ら命を絶ったのだ。
斎藤は2日後の1月20日、県庁で囲み取材に応じた。記者から「『承知していない』と他人事のように繰り返して放置した結果がこれなのでは」と問われても、いつもの表情で「今回は本当に痛ましい残念なことだと思っている」と応じるばかりだった。
なぜ、“負の連鎖”を巻き起こすのか
竹内の自死からおよそ2週間後の2月7日、今度はメルチュ社長、折田の関係先に強制捜査が入った。容疑は公職選挙法違反(被買収)。斎藤も買収の容疑で刑事告発されているが、この日も記者団に対し、淡々と「公職選挙法に違反していないという認識に変わりはない」と答えていた。
それにしても——。
なぜ、1年足らずの間に3人もの県関係者が自死を選ばざるを得なかったのか。なぜ、県知事選を支えたはずの女性に強制捜査のメスが入ったのか。なぜ、斎藤は“負の連鎖”を巻き起こすのか。なぜ、常に無表情で他人事のような論評に終始するのか。
斎藤とは一体、何者なのか。まずは折田との蜜月から、その能面を剥ぐ。
殺気立つ聴衆
昨年11月17日の夜8時、民放番組の画面には赤いテロップが躍っていた。
〈当選確実〉
出口調査などの情勢を元に、もはや開票結果を大人しく待つ必要もないほどの圧倒的な大差で勝敗が決したのだ。
「サ・イ・トー! サ・イ・トー!」
誰からともなく大合唱が湧き上がる。集まった人々はまるで我が事のように泣き叫び、抱き合って喜びを分かち合った。やがて本人が登場する。人々はその姿を自らの目に焼き付けるのではなくスマートフォンのカメラを通して記録し、我先にと世界中に向けて発信した。報道各社がインタビューを始めようとすると、
「謝るのが先だろ!」
「あーやまれ! あーやまれ! あーやまれ!」
殺気立つ聴衆は、これまで何度も彼にカメラを向けてきた報道クルーへ怒声を浴びせた。勝利の喜びは、目の前にいる手頃な邪魔者を敗者に仕立て上げた。あふれ出す感情が渦を巻いて熱狂と化したころ、対照的な冷静さを身に纏う斎藤は淡々と口を開いた。
「SNSのプラスの面を感じた」
「元々SNSはコメントが厳しかったりとか、色々ありましたので好きではなかったんですけれども、やっぱり今回はSNSを通じて、『見て頂いている方がこんなに沢山おられるんだ』『応援してくれる方がSNSを通じて広がるんだ』という、SNSのプラスの面を感じました」
群衆の最前列で、ブルーのネクタイを締めた彼にスマホを向けていた女性。それが、“SNSのプロ”である折田だった。
3年半前の2人の“出会い”
2人の接点は、総務官僚出身の斎藤が1期目の当選を果たした3年半ほど前に遡る。斎藤が正式に県知事に就いたのは、2021年8月1日付。その直後の8月17日、折田は「兵庫県地域創生戦略会議企画委員会」の委員に就任し、最初の会議に臨んでいた。
彼女は慶応義塾大学を卒業後、仏BNPパリバ銀行を経て、2017年にメルチュを創業。民間企業や自治体向けに、SNS戦略を活用したプロモーションなどを手掛けてきた。第1回の委員会では「女性目線と若者目線から感じることを積極的に発言していきたい」などと抱負を述べている。
翌22年度は同会議の委員に選任された折田。12月の会議では、各部局が行うSNS戦略についてこんな意見をぶつけていた。
「県としての統一感がないことや、県としての統一的なブランディングを実践できていない」
「あの人誰? なんであの人委員にしたの?」
会議には斎藤自らも出席していた。だが、忌憚のない意見に不満があったのだろうか。ムスッとした様子で締めの挨拶をし、その後怪訝な表情で洩らした。
「……あの人誰? なんであの人委員にしたの?」
この時点では折田のことを、認識していなかったと見られる。ただ、県職員からの評判は概ね良好で、以降も様々な県の会議で委員として名を連ねるようになった。2022年に「兵庫県eスポーツ推進検討会」、翌2023年には「次世代空モビリティひょうご会議」の委員にも就任。いずれも斎藤肝煎りの会議で、計12回出席し、15万円の謝礼が支払われていた。地元出身の若手女性経営者として、県庁内で存在感を高めていった様子が窺える。
そんな彼女の運命を大きく変えることになったのが、昨年9月に失職した斎藤の出直し知事選だった。
現在、刑事告発されているのは、主に以下のような内容だ。
〈“折田のnoteによれば、メルチュが「ボランティア」ではなく「業務」として、「主体的・裁量的」に斎藤のSNS戦略を担っていたと読める。斎藤側からメルチュ側に71万5000円が支払われているが、これが「インターネットを利用した選挙運動の対価としての報酬支払い」に該当し、公選法違反の疑いが強い”〉
(文中敬称略)
〈 夫と神社で…斎藤元彦氏と刑事告発されたメルチュ折田楓社長(33)、週刊文春が捉えていた“騒動後の姿”《兵庫・公選法違反問題の当事者》 〉へ続く
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年2月27日号)