山形花笠まつりが「花笠」不足で存続の危機…ベトナム「葉笠」職人に1500個注文
2025年5月25日(日)17時42分 読売新聞
「ヤッショ、マカショ」のかけ声が沿道に響く山形市の夏の風物詩「山形
昨年1000個準備できず
山形県内で唯一花笠を作っている民芸品卸販売業「尚美堂」(山形市)の
昨年、踊り手たちから入った笠の注文は、計4000個。だが、約1000個準備できなかった。他の人のものを借りてもらったり、骨組みに花飾りを再現したカバーをつけたりして何とか乗り切ったが、笠が踊り手に行き渡らないのが心苦しかった。
助け舟となったのは、日本貿易振興機構(ジェトロ)。翌年の笠生産に頭を悩ませていた逸見社長の相談を受けたジェトロ山形貿易情報センターの古賀健司所長(44)が、笠をベトナムで生産することを提案した。同国に駐在経験のある古賀所長は、話を聞いてすぐ葉笠「ノンラー」を思い浮かべた。ベトナムで農作業や日常生活のときに用いる、日よけや雨よけの笠で、「その技術を応用すれば花笠に生かせると思った」。県内には在日ベトナム人も多く、親和性も高い。
一晩で作製、熱意うれしく
2人は昨年末、笠職人が200人ほどいるという首都ハノイ郊外のザイタイ村を訪れた。職人と話し合い山形の花笠を渡した翌日、一晩で作った笠を見せられた。型がなかったため、形こそ若干異なっていたが、糸の縫い目もきれいで高い技術を感じさせ、なによりも一晩で作ってくれた熱意がうれしかった。「これはやってくれるな」。確信を持って、今年の分の1500個の笠を注文した。
従来のものは骨組みに竹を使い、スゲで編む。ベトナムの笠は、ヤシの葉などで編むため、少し白く見える。雨をはじく効果は変わらず、丁寧に編み込まれている。逸見社長は「日に当てればあまり色は変わらないし、強度もある」と質の高さに太鼓判を押す。
注文した分は4月下旬に完成したという。今後、山形に届いた笠に花を取り付け、花笠として完成させる。今年のまつりに参加を予定している団体などから、800個以上もベトナム製のものへの注文が入っており、ベトナムの伝統技術への期待も高い。
逸見社長は「花笠は山形を代表する文化。途絶えさせるわけにはいかない」と強い決意を見せる。また、「これをきっかけに、ベトナムとの様々な交流が深まればいい」と期待を寄せた。