自分の子どもはいくら甘やかしてもいい…「自己肯定感の高い子」が持っている"幼少期のある記憶"
2025年2月20日(木)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki
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■子どもはいくらでも抱っこしてあげればいい
国によっても子育ての習慣はさまざまです。日本とよく比較されるのは欧米ですね。たとえば欧米のお母さんは夜赤ちゃんが泣いても添い寝をしない、早くから子ども部屋でひとりで寝かせる、といったものです。
世代によっても考え方に違いがあります。若い世代のお母さんが、孫が泣くとすぐに抱っこをするおばあちゃんに「抱きぐせがつくから困るわ」と苦情を言うこともあるかもしれません。
けれど、こうしたことにあまりとらわれる必要はないと思います。
抱きぐせというのは、どういうものをいうのかよくわからないけれど、だいたいは「甘えて抱っこをせがむ回数が増える」「抱っこしつづけていないと泣く」それによって、親が困るというようなことでしょう。
でも可能な範囲でいくらでも抱っこしてあげればいいと思います。おばあちゃん、おじいちゃんに抱いてもらって喜んでいるのなら、むりにやめさせることはありません。
■おばあちゃん子、おじいちゃん子でも心配無用
そもそも「おばあちゃん子、おじいちゃん子」というのは、抱っこされたり、かまってもらったりする回数が父母だけに育てられた場合よりずっと多くなります。親も祖父母も手をかけて育てた子どもというのは、間違いなく、人間関係のコミュニケーションに困難を感じることが少ない。
「おばあちゃん子は三文安い」などと言われたことがあります。親よりも祖父母は孫を甘やかすからわがままになる、といったような意味ですが、乳幼児期におばあちゃん、おじいちゃんにたくさんかまってもらって、抱っこをしてもらうことを「わがままになる」とか「抱きぐせがつく」と心配する必要はまったくありません。
■過保護にすることが祖父母の喜びだった
私の家には男の子が3人います。もうとうにみんな大人になって自立していますが、私たち夫婦は、長男が生まれる前に私の両親を招いて同居することにしました。子どもたちは3人とも、生まれてみたら両親もいるし祖父母もいる、という家庭で育ちました。
祖父母というのはとにかく孫から目を離さない。もちろん親もあるていどはそうしているわけですが、祖父母はそれ以上に目も心も離しません。孫が喜ぶことをしてやることこそ、祖父母にとっては最大の喜びでした。
これはもちろんある種の過保護です。ときにはしつけとしては望ましくないようなことでも「孫が喜ぶから」とやってあげる。けれどそれが同時に自分の喜びなのです。毎日、これが「喜びを分かち合う」ことの原形なのだな、と思うような場面ばかりでした。
■高校生への調査で分かった「問題行動の原因」
ちょっと興味深い研究をご紹介します。
京都大学大学院の木原雅子先生という方の研究です。木原先生は長年にわたって数十万人の青少年を対象にした調査を行い、子どもたちがいま抱えている問題の根がどこにあるのかを知ろうとしておられます。いじめ、性の問題、万引きや自傷行為といった問題点の原因はなんなのかを知ることによって、予防することを目的とした調査研究です。
木原先生は毎年全国各地の高校を訪問して、調査を行っておられますが、そのなかにこんな質問がありました。
「あなたは自分の親から大事に育てられてきたと思いますか」「いまあなたを大切にしてくれる大人はいますか」。こうした多くの問いに、「はい」か「いいえ」で答えていくというアンケート調査です。
質問項目は数多く「異性の好きな友達ができたら、高校時代に性的な関係を持つことはかまわないと思いますか」「すでに異性と性的な関係を持った経験がありますか」「万引きをした経験がありますか」といったことにも質問は及びます。
すると、はっきりした傾向が見えました。
「自分は親に大切に育てられたと思うか」
「自分を大切にしてくれる大人がいるか」
という問いに「はい」と答えたグループ、「いいえ」と答えたグループで、他の質問に対する答えが大きく違ってきたのです。
■親に大切にされた子は自分自身を大切にする
「自分は親に大切に育てられたと思わない」「自分を大切にしてくれる大人がいない」と答えた生徒は、「高校時代に異性との性的な関係を持つことはかまわない」と答えている割合が非常に高い。「親に大切にしてもらった」「自分を大切にしてくれる大人がいる」と答えた生徒の2〜3倍に上りました。
「万引きの経験がある」と答えた生徒は4倍、自傷行動があった生徒は3倍です。
「大切にしてもらった」「大切にされている」経験が、自分自身を大切にしようとする気持ちにもつながっていくのだろう、と考えられます。
子どもたちがなにをもって「大切にされた」と感じるのかは、人によって違うと思います。母親に限ったことではないかもしれないし、一緒にいた時間が長ければいい、ということではないでしょう。だって、長時間いやな育てられ方をされたら、子どもはたまりませんからね。
いずれにせよ、子ども自身が「大切にしてもらった」「大切にされている」と感じている場合に、大きな問題が起きることは少ないのは確かです。
写真=iStock.com/damircudic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/damircudic
■お母さんのにおい、声を覚えているか?
大学の博士課程のとき、シュタイナー教育を専門にしている方と知り合いました。この方はすでに大学の先生だったのですが、私と同じ大学で博士号をとるための研究をされていて、主に日本と中国の大学生の比較調査研究をしておられました。
正確にすべてを覚えているわけではないのですが、たとえば「あなたは赤ちゃんのころのお母さんのにおいを覚えていますか」という質問があり、日中の大学生に5段階で回答させるんです。「まったく覚えていない」「覚えていない気がする」「どちらともいえない」「覚えている気がする」「よく覚えている」というような5段階です。
また、同じように「赤ちゃんのころに聞いたお母さんの声を覚えていますか」「お母さんに添い寝をしてもらった記憶がありますか」といった設問などがあります。中国人の大学生、日本人の大学生が無記名でこうした問いに答えていく、という調査です。
■覚えている人=自己肯定感の強い人
設問はたくさんあります。後半には「あなたには自尊心がありますか」「自己肯定感はありますか」「あなたはなにか夢を持っていますか」「将来に対する希望がありますか」「自分を創造性豊かな人間だと思いますか」といった項目がならんでいる。
この集計結果は、驚くべきものでした。日本人も中国人も、その回答のパターンはほとんど同じでした。
「お母さんのにおいを覚えている」と答えた学生は、自尊心が高く、自己肯定感も強い。同時に夢や希望を持っていると答えている場合が多く、自分自身を意欲的で創造性も豊かだと思う、と感じていました。
本当に母親のにおいの記憶があるのかどうかは、なんともいえません。けれど「覚えている」と感じている人が、自己肯定感などを強く持っているということなのですね。
この傾向は、日本も中国も変わりません。
■自尊心も夢も持てない日本の大学生
しかし、この調査で私が日本人としてとても悲しく思ったのは、「母親のにおいを覚えている」と答えた日本人が、中国人に比べて決定的に少なかったことです。同時に「自己肯定感がある」「夢がある」「自尊心がある」と答えた人も少なかった。
母親のにおいの記憶や添い寝経験の有無は、あきらかに、大学生の自尊心などの持ち方に関連があるということです。どんなにおいなのか、どのくらい添い寝をしたらどうなるのか、といったことはわかりません。ほかにも調査項目以外の要素もあるかもしれません。
けれど、この結果は注目に値するものだと思います。とても大きな意味を持った調査だと感じました。
いま日本の大学生はいっしょうけんめい就職活動をして、やっと就職してもじきに辞めてしまう人が多いようです。自尊心が持てない、組織内でうまくやっていけない、プレッシャーが大きい、などさまざまな理由はあると思います。終身雇用制がくずれ、不況による新卒採用の枠が減るなどして、いまの大学生はとても大変だとは思います。
けれど、会社をじきに辞めてしまう若者の多くが、辞めた理由として社内の人間関係をあげています。人間関係がうまくいかずに、結果的に夢や希望、自己肯定感を感じられずに自尊心をも失ってしまう。
■やはり子育ては「過保護」でいい
こうした現実を見るにつけ、なにか、乳幼児期の育てられ方と、大人になってからの自尊心、将来への夢や、自己肯定感、健全な人間関係はやはり大きなつながりがあると思わずにはいられないのです。
佐々木正美『子育てのきほん 新装版』(ポプラ社)
現代の若者が抱える問題をすべて「親の育て方」のせいにするつもりはまったくありません。母親がいない家庭もあれば、父親がいない家庭もめずらしくないし、両親の都合で祖父母の家で育つ人もいます。両親そろっていつも子どものそばにいられなかったとしても、なにひとつ問題なく育つ子どもはたくさんいます。
しかし、こうした調査結果を見て、現代の青少年、青年たちを見ていると、やはり私はお母さん、お父さんに「できるだけ、子どもに手をかけてあげなさい」「いくらでも子どもが喜ぶことをしてあげなさい」「関わりすぎていけないことはなにもないですよ」と申し上げたいのです。
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佐々木 正美(ささき・まさみ)
児童精神科医
1935年、群馬県生まれ。2017年没。新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、小児療育相談センターなどを経て、川崎医療福祉大学特任教授。臨床医としての活動のみならず、地域の親子との学び合いにも力を注いだ。専門は児童青年精神医学、ライフサイクル精神保健、自閉症治療教育プログラム「TEACCH」研究。糸賀一雄記念賞、保健文化賞、朝日社会福祉賞、エリック・ショプラー生涯業績賞などを受賞。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『子どもが喜ぶことだけすればいい』『子どもの心はどう育つのか』(以上、ポプラ社)など育児、障害児療育に関する著書多数。
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(児童精神科医 佐々木 正美)