「木を見て森を見ず」に陥ってはいけない、人生の中でアクシデントや苦難が生じた時に参考にしていること
2025年3月14日(金)6時0分 ダイヤモンドオンライン
「木を見て森を見ず」に陥ってはいけない、人生の中でアクシデントや苦難が生じた時に参考にしていること
Photo:Amith Nag Photography / iStock / Getty Images Plus
病院にアートの手法を応用するなど、多方面での活動が注目を集める医師・稲葉俊郎氏は、「生きていくうえで大切なこと、かけがえのないことのすべてを山から学んだ」と語る。哲学者であり随筆家でもある串田孫一氏の名著『山のパンセ』の現代版ともいえる稲葉氏の著書『山のメディスン 弱さをゆるし、生きる力をつむぐ』より、日々忙しいビジネスパーソンがふと立ち止まってふれるべき稲葉氏の思索を、4回に分けて紹介する。第3回は、人生の中でアクシデントや苦難が生じた時に参考にしていることや、登山と人生の類似点などについて語る。
登山の比喩で考える
人生をどう生きるべきかについて日々思いを巡らすのは、とても大切な営みだと思います。
稲葉俊郎(いなば・としろう)1979年、熊本生まれ。医師。東京大学医学部付属病院循環器内科助教を経て、2020年4月より軽井沢へ移住。現在は軽井沢病院院長・総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授に就任。「山形ビエンナーレ2020、2022」では芸術監督も務める。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。芸術、音楽、伝統芸能、民俗学、農業など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行う。共著に『見えないものに、耳をすます』(アノニマ・スタジオ)、著書に『いのちは のちの いのちへ — 新しい医療のかたち—』(アノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)、『からだとこころの健康学』(NHK出版)、『いのちの居場所』(扶桑社)、『ことばのくすり』(大和書房) など。
なぜかというと、わたしたちは、一つひとつの思考の積み重ねによって、毎日通過しているY字路の分岐点の進むべき方向を決断しているからです。
しかし、わたしたちは、物事がスムーズに進んでいる時ほど、過去を振り返ることはありません。多くの場合、過去の決断を振り返るようになるのは、人生の中でアクシデントや苦難が生じた時ではないでしょうか。そうした時にわたしが参考にしていることがあります。それが登山中に遭遇する「自然現象の比喩」です。
例えば、わたしたちは、将来の見通しが立たない時には「霧のようだ」と言い、さまざまなアクシデントに見舞われた場合には「嵐のようだ」などと表現することがあります。しかし、登山をしていると、当たり前のようにこうした状況に遭遇します。
山では準備をしていても急な天候や気温の変化に見舞われます。この時に誤った判断をしたり、軌道修正ができなかったりすると、遭難し、最悪の場合はいのちを落とすことになりかねません。したがって、登山では絶えず自分の中の固定観念を見直す必要があります。固定観念とは、当たり前だと思っていた全体の枠組みのことです。
実は、その枠組みに気づくためには、視点を移動させるしかありません。