飲食店員の「ビニール手袋」を見ると不安になる…「現金を触った手で調理」サンドイッチ店で抱いた強烈な違和感
2025年3月30日(日)10時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elico-Gaia
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■飲食店で繰り返される集団食中毒
最近、飲食店での食中毒のニュースが目に付く。厚生労働省の「令和7年食中毒発生事例(速報)」によると、2025年1月から3月5日までの間に64件の食中毒事例が発生。うち39件が飲食店で発生している。24年は1038件、うち548件が飲食店だった(速報値)。
2023年以前は確定値がまとまっている。飲食店での事例は、23年は489件、22年は380件、21年は283件、20年は375件、19年は580件と推移してきた。21年以降、再び増加する傾向がみられる。
食中毒は高温になる夏に起こりやすいと思っている人は多いだろう。しかし、この冬も飲食店で発生した食中毒のニュースを多く耳にしたし、ノロウイルスなどのウイルスが原因ということもよく聞く。どういうことだろうか。
農水省のホームページによると、ノロウイルスによる食中毒は11月〜3月の寒い時期がもっとも流行しやすく、そのほとんどがノロウイルスに汚染された食品を食べることによるものだという。特に生の牡蠣などの貝類や洗浄されていない野菜・果物などに付着していることがある。温度が低くても比較的長期間生存することができ、空気中のウイルス粒子を吸い込むことで感染するリスクもある。
厄介なのは、非常に感染力が強く、感染者の嘔吐物や便からウイルスが広がることだ。感染者が調理をすることでウイルスが食品や調理器具に付着し、他の人に感染することがある。ドアノブや手すり、トイレなどを触った手で口に触れることでも感染する。感染すると通常は24〜48時間ほどで症状が現れ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こす。
■感染防止には「手洗い」が不可欠だが…
感染を防ぐためには、手洗いなど食品の衛生管理が非常に重要だ。しかし、最近、飲食店での衛生管理に不安を覚えることが何度もあった。大規模な店舗や宿泊施設の厨房などはうかがいしれないが、ファストフード店での経験例を紹介しよう。
2025年2月、筆者が都内のファストフード店を訪れた時のことだ。その店は注文したサンドイッチを選ぶと店員がパンにハムや野菜、調味料などの具材を順々に入れて最後にレジで会計をする。店員はビニールの手袋をして食材を扱っていた。
それはよいのだが、問題はそのあとにある。
ラインに沿って注通りに具材をパンに詰めていき、紙袋に包んで、会計となる。レジにはほかの店員はおらず、調理を担当した店員がそのままレジに移った。調理の際にしていた手袋を外さず、そのまま現金を扱う光景に、筆者は「ありえない」と思った。
店員はその後どうするのだろうか。筆者はそれを見ていた。調理作業のラインに戻った店員は、消毒液と思われるスプレーを2、3回手袋のまま手にかけて、また次の客の注文を聞いてサンドイッチを作り始めた。一体なんのための手袋なのだろうか。
私が注文したサンドイッチがレジで現金を扱った後の手袋で作られたものかは分からなかったのでその場ではクレームを言わず、テイクアウトしたそのサンドイッチを食したが、不安が残った。客の目の前で平気でこうしたことをするのだから、見えないところで何をしているのかと感じた。この店では今後買うのはやめようと思った。
写真=iStock.com/AdShooter
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■雑菌だらけの手袋に意味はない
上述したサンドイッチ店での光景は決して珍しい問題ではない。他の飲食店でも頻繁にある「見落とされてきた身近な衛生問題」と言える。
だいぶ前だが、多摩地区のラーメンのチェーン店でも会計のときに、レジに誰もおらず、手袋をして調理していた店員がレジに来てくれた。それは気が利いていると思ったが、やはり手袋のまま現金を扱っていたことがある(この時は、その後のことはわからなかった)。
両店とも、チェーン店の本社の問い合わせ窓口に問い合わせたところ、手袋をしたままレジで現金を扱うのは社内ルール違反ということだった。ファストフード店については本社の幹部社員からメールで回答と謝罪があった。
その回答によると、本来、会計時のレジ操作はビニール手袋を外して行っているという。レジを操作した後に調理をする場合は①手洗いをしたうえで、②新しい手袋を装着して調理する。
筆者は以下の質問をした。
「ルールの徹底以前に、常識で考えて、汚いでしょう。何のための手袋かを店員が理解していない行為です。常態化している感じで研修も教育もまったくない感じです。いつからこのように不潔な調理をしてきたのか調べてお知らせください」
幹部社員は店舗に確認したうえで、「商品提供を急ぐあまりに、このような対応を行っていた」と説明。店のオーナー、店長を含む全従業員に手袋と手洗いのルールを指導し、全店に対し再度マニュアルを遵守するよう求めたという。
たしかに、筆者の来店時はアルバイトと思しき店員2人しかおらず、ひっきりなしに客が来ている状況ではあった。忙しいことを理由に衛生管理を怠るのは論外だが、そもそも店員が少なすぎると思うことはたびたびある。アルバイト店員にだけ責任を押し付けてよい話ではない。
■衛生の問題は、労働環境の問題である
もちろん、今回の例でも教育指導が十分ではなかったことを会社側は詫びていたが、そもそも店員の数が十分でなく、またアルバイト店員のみで店を切り盛りするなど店舗の運営・労働環境の問題があるように感じる。
これも最近のことだが、都内の自宅の最寄り駅近くのコーヒーショップのチェーン店に午前11時ごろに行った。住宅街なので、この時間は空いている時間とされているのかもしれないが、アルバイト店員が一人だけ、すなわち「ワンオペ」だった。
しかし、この日は客の流れが切れることはなく、またコーヒーだけでなく、食事のメニューを頼む客が複数いたため、10分近くオーダーを取るのに待たされた。40席ほどある比較的大きな店舗で、店員一人で接客、調理をするのは無理だろうし、その学生と思しき店員が気の毒だった。これもチェーン店本社に言ったところ、適切な店員配置をするという回答が来たが、その後も店員が一人だけの時に出くわした。
写真=iStock.com/mapo
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かつて、深夜の飲食店やコンビニでワンオペ中に刃物などを持った強盗が押し入る事件が相次いで、業界でワンオペを止めるとの方針を打ち出したというようなことを耳にしたことがあったが、近年人手不足が原因なのか、コスト削減が理由なのか、ワンオペもよく見かける。
■「アルバイト任せ」という企業の無責任
以前、学生から、居酒屋でアルバイトをしているが、アルバイト学生数名だけで店を開けて準備し、調理・接客をし、閉店作業、金銭の管理もすべて行い、通常、正規社員はだれもいない状況で店を回していると聞いて、唖然としたことがある。
私が学生だったころは、アルバイトとは「補助員」であり、社員から指図を受けて仕事をするものだった。あまりにもアルバイトに頼りすぎているように思う。もちろん、アルバイトだから悪いという訳でもなく、しっかり衛生管理の重要性を認識している人もいるだろうし、社員でも分かっていない人はいるだろう。
しかし、無責任な衛生管理体制がはびこっているように思う。あるうどんチェーン店の店舗では、レジ周りが汚れだらけで、クレジットカードリーダーを触るのも嫌なほどだった。これも本社に問い合わせると、さっそく店長と名乗る人物から連絡があり、レジ周りは清掃が必要な領域と思っていなかったと話した。レジ周りは消費者が一番目にするところだ。それに気づかないほど激務で余裕がないのだろうかと思った。
かなり前の話になるが、チェーンの和食レストランで、漬物の小鉢に小さいゴキブリが入っていたこともあるし、東北の紅葉の名所の飲食店で、生の肉が調理場に放置されていてハエがたかっていたこともある。
たとえ、衛生管理ルールを定めていたとしても、それが日々の現場で生かされていなければ何もならない。特に忙しくなると面倒な手洗いなどを省略してしまうこともあるだろう。
■「マニュアル任せ」の弊害
ニュースになるのは集団で飲食した場合がほとんどだ。ホテルの宴会場や団体客を受け付ける飲食店などでは、団体の複数のメンバーに食中毒症状があれば、保健所に連絡するなどして問題が発覚しやすいが、ファストフード店等だと、利用者はばらばらに存在しているので、個々の客が嘔吐や下痢などの症状に見舞われても、原因究明がされない場合も多い。もしかしたら潜在的な飲食店食中毒被害者がたくさんいるかもしれない。
私自身、この冬、腹痛とひどい下痢を経験したが、数日安静にして体調が戻ったので、それですませた。店舗での食中毒は疑わなかったが、もしかしたらとも思う。
近年、個人商店が減り、フランチャイズなどのチェーン店の飲食店が増えた。そこでの労働力はアルバイトに頼るケースは多い。マニュアルを作り、研修しても、慣れてくると安易な方向に流れることは予想できる。店長職はいても数店を兼務しているとか、地域マネージャーが管理しているだけという場合もある。マニュアルさえ作れば、あとは性善説でその通り作業するだろうという発想は問題がある。
先日、大規模チェーン飲食店の創業者社長の話を聞く機会があったが、社長の理想と、現場での行いがかなり違うと感じた。その店舗の食器返却棚が汚れだらけで、ごみ箱のようだった。人を信じる社会は理想であり、すばらしいと思うが、安全面で製造業の不祥事も相次いでいる。人か監視できないのであれば、ITを活用したシステムなども必要な時代かもしれない。
写真=iStock.com/ake1150sb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ake1150sb
■企業の無自覚が透けて見える
昨年、イタリア系の大型客船に乗る機会があった。5000人ほどの乗船客がいる超大型客船で、ビュッフェは大規模だ。しかし営業時間終了後の清掃が徹底していて、調理場や食品提供テーブルが毎日磨き上げられているほどきれいにされていて感心した。
また、客室の毎日行われるはずのハウスクリーニングが、ただベッドのシーツを整えるだけだったり、ごみ箱のごみがそのままの日もあったのでクレームを言ったら、数時間後に責任者3人が部屋に来て、詳細を確認し、謝罪と新たなクリーニングを申し出てきてこれにも驚いた。この船の従業員は実に多彩な人種・国籍の人たちで構成されていた。だからこそ、問題が起きないように、また問題が起きた時も迅速に対応するシステムができているのだろうと感心した。日本で働く人たちも多様になった。
企業側にも人手不足、物価高によるコスト負担の重圧などいろいろ事情はあるだろう。しかし、「安全である権利」はもっとも重要な消費者の権利だ。それを実現することは飲食業の最大の使命だ。マニュアル主義に埋没せず、日々の衛生管理は現場の人たちの意識と行動によって実現できることを再認識し、業界を挙げて真剣に対応していただきたい。
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細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学名誉教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、日本女子大学教授。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。2024年3月に同大を退職。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律【第2版】』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線を嗜む。
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(日本女子大学名誉教授 細川 幸一)