60年前にAIを予測した井深大、iPhoneで革命を起こしたジョブズ…2人のイノベーターに共通する「ある考え方」とは?
2025年4月1日(火)4時0分 JBpress
ソニー創業者・井深大(いぶか まさる)と、アップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズ。互いの企業を世界レベルへと押し上げた2人のリーダーは、イノベーションの未来を的確に予測するたぐいまれな思考力を備えていた。本稿では『スティーブ・ジョブズと井深大 二人の“イノベーション”が世界を変えた』(豊島文雄著/ごま書房新社)から、内容の一部を抜粋・再編集。井深、ジョブズの遺訓から、これからの日本で求められるリーダー像に迫る。
互いに世界初の製品開発を主導し、成功に導いてきた井深とジョブズに共通する「ある考え方」とは一体何か?
21世紀のコンピュータの革新について
井深はAI時代の自動運転車を予言し、ジョブズはネットワークテクノロジーを進化させiPhoneで世界を変えた
(1)21世紀、ソニーは「ソニーAI」を設立
井深大は当時、まだコンピュータが「電子計算機」と呼ばれていた時代に、21世紀のAIによるパラダイムシフトを次のように洞察していた。
1961年7月に国際基督教大学(ICU)で「エレクトロニクスの夢」と題された講演の記録。当時は、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれていた時代。そこで井深は、まだコンピュータが「電子計算機」と呼ばれていた時代に、21世紀のAIによるパラダイムシフトを次のように洞察した。
「これからの自動車はステアリングやブレーキをエレクトロニクスでやれるようになるから、前の車との間もレーダーのようなもので距離を測って、速度の調整を自動的にやれるようになる」「医療でも経営でも教育でも、良いデータばかりを蓄積して、そのデータの中から正しいものを選び出して次の推理をしていくということは、電子頭脳の非常に得意なところだ」
この講演での井深の肉声を直接聞きたければ、ユーチューブ動画のタイトル「1960年からのソニー創業者のAIへの思い」で検索すればだれでも聴くことができる。
この講演から六十数年後の2020年4月、ソニーはAIやロボットの基礎的な研究開発を行う「ソニーAI」を設立した。また、2022年9月には、井深の盟友であった本田宗一郎が創業したホンダとの間で、合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」が設立された。同社は次世代自動運転EVを開発し2025年に販売することを目指している。まさに井深が予言した未来が現実になろうとしているのだ。
井深の講演から60年後に起こった動きは、決して偶然ではない。なぜなら、ソニーには創業者井深大の経営思想や人生哲学が「タテ糸」として脈々と流れているからである。
(2)21世紀、ジョブズは新製品を通して情報革命を起こし世界の人々の暮らしを変えた
20世紀の1979年にアップルを創業し、業務用でない世界初の家庭用コンピュータのアップルⅡを普及させたことで多数のアプリケーションソフトウエア(表計算、ワープロ、ゲームなど多数の分野のソフト)が開発され家庭のみならず教育現場にも普及した。
ジョブズの思想の核にあったのは「先人が残してくれたテクノロジーの流れに感謝し、アップル社の持つ才能を使ったテクノロジーによって、その流れに追加する未だ世界の人が見たこともないようなものを提供し、後世の人たちの暮らしを変えたいとの感情を新製品で表現する」という考え方だ。
ジョブズが創業したアップル社は21世紀に入ってからは、ネットワークテクノロジーを進化させたiPod、iTunes、iPhone、iPad、iCloudといった新製品を通して世界の人々のライフスタイルを変革し続けてきた。
ジョブズ亡きあとも、アップル社では、「世の中が必要だと思ってもいないテクノロジーを提供することで人々の暮らしを変える」という創業者の「タテ糸」が引き継がれて、繁栄を継続させている。
(3)世界初の製品の開発を主導して成功させたリーダーの考え方
井深が重視していたことは「想像力」である。「想像力」とは、小さな兆しから「最後はこうなる」という究極の未来の姿(ゴール)を描き出す力だ。
ある日突然、自動運転車が登場するなんてありえないこと。数十年前からその兆しが、末端で起こっているのを「気配りの心がけ」で接することがきっかけとなるのだ。
例えば1958年、ホンダ創業者の本田宗一郎が「自動車のエンジンの点火を、メカ(機械式)ではなく、トランジスタ(電子式)を使って制御できないか」と井深に相談しに来たとき、「エンジン制御だけでなく、ハンドル制御、アクセル制御、ブレーキ制御などの他の箇所の自動車の制御の全てを電子で制御できるのではないか」と想像したこと。そして、それが60年後の人工知能による自動車の自動運転につながるのだ。だから「井深の箴言第1条」のスタンスが重要となると考えるのだ。
一方、ジョブズが重視していたのは「直観力」だ。トップによる技術の善し悪しを見抜く直観力。これを可能にするには人間に対する気配りの心(洞察力)を持った人間でなければできない。アーティストの才能というのは、身の回りにある物事の本質を見抜く力のことだ。
アップルが世界初の、インターネットパソコンと音楽プレーヤーに携帯電話が付いたiPhoneスマホを世界に先駆けて世に出した。これによって、あっという間に旧来の折りたたみ式の操作パネルが付いた携帯電話が消え去り、世界言語に対応できるスマホに置き換わるという空前絶後の情報革命がもたらされた。
その発想の経緯は次のようだった。
ノートパソコンには画面と同じ大きさの操作するキーボードがある。アップルではマックのノートパソコンからこれをなくして画面を指先で操作できるテクノロジーがあれば、新たなジャンル、インターネットにWi-Fiでつながる電子ブックスタイルのパソコンが生まれる、このことに着目していた。この発売準備が完了しジョブズの指示待ち段階だった。
一方でパソコンよりはるかに多く世界に普及している折りたたみ式携帯電話も操作するキーボードがある。しかも、従来の携帯電話は、多言語対応はできず、今ではガラケーと呼ばれているように、世界の地域ごとに異なる仕様の携帯電話が使われていた。
ジョブスはインターネットにつながる多言語対応の電子ブックスタイルの指で操作するマックのパソコン(後のiPad)を発売できる段階だったが、これに携帯電話機能を付けて発売する方が、世界に与えるインパクトが数倍になるとして、棚上げにする決断をした。そして、携帯電話機能を付けたものが先に発売され、スマートフォンとして世界の人々の暮らしを変えるような変革をもたらしたのだ。
ジョブズは、ソニーがマイクで録音して再生するテープレコーダを改造し、音楽プレーヤー専用機ウォークマンを発売したとたん、世界の若者が飛びついで大ヒットしたことを知っていた。
その時、テープレコーダを扱っていた事業部や営業部門では録音機能が無ければ絶対売れないと予想していたことも知っていた。携帯電話会社は、インターネットパソコンに携帯電話を内蔵しても、値段が高すぎて売れっこないと考えていた。
だがジョブズはあえて、アップルの売り上げの半分近くを稼いでいる音楽プレーヤーiPod機能を内蔵させて、かつ手ごろな値段に下げて携帯電話イメージのiPhoneとして発売した。一方で稼ぎ頭だった音楽プレーヤーiPodの販売を中止させた。
インターネットパソコンに携帯電話機能と音楽プレーヤー機能も付いた、キーボード操作のいらないiPhoneは、発売するや、世界中に衝撃を与え、折りたたみ式携帯電話の会社は致命的な打撃を受けた。
<連載ラインアップ>
■第1回 60年前にAIを予測した井深大、iPhoneで革命を起こしたジョブズ…2人のイノベーターに共通する「ある考え方」とは?(本稿)
■第2回 まだ世の中にないものを生み出すには? アップル創業前のジョブズも学んだ井深イズムとソニーの新製品開発プロセス
■第3回 「品質」「コスト」「納期」ソニー創業者・井深が唯一こだわった条件は? 短期間で成果を出すプロジェクトの進め方(4月15日公開)
■第4回 なぜソニーのFDDがMacに搭載されることになったのか? ジョブズの日本出張時に土壇場でひっくり返ったこととは(4月22日公開)
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
筆者:豊島 文雄