毎朝同じ質問をするだけでOK…"AI時代の必須スキル"を磨くために親が子に用意できる一枚のチャート
2025年4月26日(土)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara
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■職業の約半分がAIに代替される可能性
最近、親御さんたちと話すと「子供が将来、AIに負けないように育てるにはどうしたらいいのか」と、子供の将来を心配している人が多いのを感じます。
確かに、すでにAIが多くの分野で活用され、ChatGPTなどの生成AIは驚くべき進化を遂げており、人間の能力を凌駕している分野もあります。人間に求められる能力が、今までとは変わっていくかもしれません。
「AIに仕事を奪われる」という議論は、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授らが2013年に発表した論文、「雇用の未来(The Future of Employment)」でなされています。その論文では、AIやロボットの進化により「今後10〜20年の間にアメリカの総雇用の約47%の仕事がAIに代替される可能性がある」と予測しています。
■AIによる代替が難しい職業
そのうち、特に単純作業やデータ処理、ルーチン業務を中心とする仕事は自動化の影響を受けやすく、例えば事務職、レジ係、電話オペレーター、運転手などの職業が消滅する可能性が高いと指摘されています。
消滅する可能性が高いと指摘された仕事
・事務職
・レジ係
・電話オペレーター
・運転手
その一方で、創造性や対人スキル、判断力を必要とする職業はAIによる代替が難しく、芸術家、医師、教師、カウンセラーなどは今後も求められると書かれていました。
今後も求められると考えられる仕事
・芸術家
・医師
・教師
・カウンセラー
この研究は、労働者が「創造力」や「問題解決能力」を身につけることの重要性を示唆しました。そしてこれにより、AI時代の教育や職業選択の在り方が見直されるようになったのです。
日本においても、野村総合研究所がオズボーン教授らと2015年に行った共同研究で、2025〜35年頃には、日本の労働人口の約49%が就いている職業が「技術的にはAIやロボット等により代替できるようになる可能性が高い」と予測しています。
その共同研究においても、芸術、歴史学、哲学などの抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業のほか、他者との協調や他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、AI等での代替は難しいとしています。
■鍛えるどころか「使っていなかった」教育現場
私がこれまで見てきた日本の教育現場の多くは、「創造力」を鍛えるどころか、使おうとさせていませんでした。
現在の日本の学校は、依然として暗記型授業が中心です。国立青少年教育振興機構の「高校生の勉強と生活に関する意識調査報告書」(2017年)によると、日本の高校生の41.7%が「教科書に従って、その内容を覚える授業」に対し「ほとんどそうだ」と回答しています。
これに「半分以上はそうだ」と答えた49.5%を加えると、実に9割の高校生が「学校の授業は暗記が多い」と感じていることになります。その結果、子供たちは創造力や発想力が鍛えられないまま育ち、自分で考える力が衰えてしまっているのです。
昨年の夏、私はあるサマースクールに教師として参加しました。リサイクル素材をたくさん用意し、「これを使ってお祭りのゲームを作ろう」とか「街を作ろう」といったワークショップを行ったのですが、そこに参加していた日本の子供たちからはほとんどアイデアが出てきませんでした。自由に使ってよいと伝えた四角い箱を前にしても、「ここから何かを作りだそう」という発想がなかなか湧いてこない様子でした。
そのとき私は気づきました。今の子供たちは与えられた課題をこなすことはできても、何もない状態から自ら考え、創造することが苦手なのだと。ただ、サマースクールは数日間かけて行われるため、何日かたつと、子供たちから徐々にアイデアが出てくるようになりました。
創造力は訓練次第で伸ばすことができます。枠にとらわれず何かを生み出す経験が不足しているため、子供たちがその力を十分に発揮できなくなっているだけなのです。
■創造力が向上…「感受性」を育てる感情チャートとは
何かを創造する際に、「感受性が豊かである」ことは有利に働きます。例えば椅子を作るにしても、「座ったときに心地よいか」「どの素材が最適か」といった視点をもてることで、より良いものを生み出せるようになります。
しかし、この「感受性」は教育の中で意識的に育てなければ、次第に失われてしまうものです。人間の赤ちゃんや幼い子供は本能的に感受性を働かせながら成長しますが、成長するにつれて意識しなければ使わなくなり、次第に鈍くなってしまいます。
この点に注目し、私たちの学校では「感情チャート」という取り組みを導入しています。喜び・ワクワク・落ち着き・緊張など、さまざまな感情を表すスマイルマークが用意されており、朝、学校に来たら「How do you feel today?(今日の気分はどう?)」という問いかけとともに、生徒たちは自分の気持ちを意識して選び、スマイルマークのクリップを付けます。
こうしたチャートを活用することで「今日は朝バタバタしてイライラしたな」とか「すごく興奮して学校に来た!」といった気持ちを子供は認識することができるのです。これを繰り返すことで、子供たちは、シートがなくても自らの意識を外に表現できるようになっていき、豊かな創造力にもつながっていくのです。
筆者提供
中内さんの学校で実際に使用している「感情チャート」。 - 筆者提供
これは家でも真似できる手法だと思うので、ぜひ試してみていただければと思います。
■図鑑やスマートフォンでは不十分な理由
そのほか、「創造力」を磨いていくために親にできることとは何でしょうか。
最適な遊びの一つが、「外遊び」です。季節や天気によって変化する外遊びには予定調和がないため、常に発見があります。子供たちは自然と関わりの中で五感をフルに働かせ、興味の赴くままに頭と体を動かしながら全身で遊ぶことができます。特に、幼児期は「脳の基礎体力」を育てる時期です。この時期に、遊びやさまざまな体験を通して得られるリアルかつインタラクティブ(双方向)な刺激を受け取ることで、子供の脳はぐんぐん成長していきます。
また、子供たちが好きなものの「実物を見せる」のも効果的です。電車が好きな子なら、駅や線路沿いの道に連れていって電車を見せる、動物が好きな子なら動物園に連れていく、昆虫が好きな子なら昆虫がいる山や川に連れていくなどです。
図鑑やパソコン、スマートフォンであれば、なんでも見せることはできますが、子供たちに与えるインパクトや、目や耳、肌で感じて吸収する情報量は、実物にかないません。
頭と手を使った作業としては、折り紙や用済みの段ボール箱などを使ったおもちゃ作りもおすすめです。これらも子供たちの創造性を高めます。
それ以外には、普段とは違う経験をさせることも有効です。その一例として、サマーキャンプに行かせることが挙げられます。サマーキャンプは親では教えられないことを子供に学ばせてあげる絶好のチャンスで、親と離れ、いつもとは違う場所、友だちと経験する非日常的な体験は大きな刺激となり、子供を成長させてくれます。
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_
その上で、将来子供が、AIと「共存」するだけでなく「活用」していくには「問題を発見し解決する力」も身につけることが必要です。そのためには、自分で考え、意見を発信する機会を増やすこと。探究型学習やディスカッション、グループワークなどの機会を小学生時代から与えるようにしてください。チームスポーツや演劇などがおすすめでしょう。
子供時代からAIと適切に共存し、AIを活用するスキルを身につけていくことが、これからの子供たちが未来を生き抜くカギとなります。
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中内 玲子(なかうち・れいこ)
日英バイリンガル幼稚園「そら幼稚園」創立者
台湾生まれ、日本育ち、アメリカ在住のトリリンガル(日・英・中)。3人の子どもたちもトリリンガルに育てた、2男1女の母。グーグルなどシリコンバレーの企業に勤める親たちから人気の日英バイリンガル幼稚園Sora International Preschool創立者。AMIモンテッソーリ国際免許取得。日本で念願の幼稚園教諭になったものの、「みんな一緒」を重視する日本の保育に疑問を抱き、英語も話せない、知人もいない、お金もないまま24歳で渡米。さまざまな国籍の子どもが集まるシリコンバレーで保育を学ぶ。シリコンバレーでの生活は20年以上になる。サンフランシスコ州立大学音楽学部を卒業後、モンテッソーリの幼稚園勤務を経て、2007年に自身の理想の教育を実現する教育施設をつくり、2011年にカリフォルニア州認可幼稚園を設立。教育事業のアドバイスをするコンサルタントとしても活躍中。世界中の教育者が互いの思いやアイデアをシェアできる場をつくるために、教育現場を取材する活動を続けている。最先端企業が集まるシリコンバレーの視点をもとに、「自分の才能を伸ばし、国際社会で羽ばたける子」を育てる実践法を提唱。
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(日英バイリンガル幼稚園「そら幼稚園」創立者 中内 玲子)