「ADHDグレー」と診断された子どもたちが高確率であてはまる幼少期からの「危険な習慣」

2025年5月31日(土)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SerbBgd

子供のタブレット(スマホ)依存に悩む親は少なくない。4万人以上の小学生の保護者を指導してきた井上顕滋さんは「子どもが『ADHDグレー』の診断を受けた保護者たちに話を聞いたところ、かなり高確率で、スクリーンを見る時間が非常に長かった。ただ、環境が原因なら、子供の脳の機能を改善させていく方法はある」という——。

■増加する“ADHDかも?”という不安


子どもの「落ち着きがない」「衝動的」「集中力が続かない」といった様子に、不安を抱える保護者が増えています。かつては「少しやんちゃ」「ちょっと集中力がない子」という程度で片づけられていたような行動でも、今では「うちの子、もしかしてADHDかもしれない……」と深刻に悩むケースが多くなっているようです。


実際に「ADHDグレー」という診断を受けたという方も少なくありません。そのような保護者の方々に話を聞くと、かなり高確率で乳幼児期に親が与えていた環境に共通点がありました。


その共通点とは、子どもがまだ幼いうち(乳幼児期)からタブレットやスマホを与えて制限なく使用させていたり、長時間のゲームを容認してきていたりなど、スクリーンを見る時間が非常に長かったということです。


■本当のADHDと「勘違いADHD」がある


ADHD(注意欠如・多動症)は、先天的な要因によって脳の機能が少し独特な発達をしていて、それが行動に表れてくると考えられています。一般的に発達障害と呼ばれていますが、実際には「発達特性」であると理解すべき部分も多々あります。


ADHDを持つ人の中には、型にはまらない「クリエイティブな発想力」や興味のあることに没頭すると発揮する「驚くほどの集中力」「好奇心旺盛な行動力」など、非常に優れた資質を持っていることが少なくありません。


写真=iStock.com/SerbBgd
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社会の多様化が進む今日、そうした特性を活かして仕事や学びの場で大きく成長する方もいるほどです。実際に私が関わってきた子どもの中にも、吹奏楽の大会で金賞を受賞した子、テニスで地域トップレベルの活躍を続けている子、勉強の成績が大幅に伸びた子など、自分が興味を持ったものに集中し、素晴らしい成果を出している子がたくさんいます。


もしお子さんが先天性のADHDであると診断されたなら、いかに強みを伸ばしていくかを考え、そのための環境を与えてあげることが重要です。


一方で、先天的な要因ではなく、環境や習慣など後天的な要因によってADHDに似た症状(落ち着きのなさ、衝動性、集中力の低下など)が現れる子どもも増えています。これは「勘違いADHD」とも呼べる状態で、乳幼児期に過度なスクリーンタイムを与えられ、脳の発達に偏りが生じることに原因があるとされています。


先天性のADHDの子どもには上記のような素晴らしい強みが存在しますが、環境に原因がある「勘違いADHD」の子どもにも同じような優れた側面があるかどうかは、まだ明らかになっていません。


■“ADHDのような”症状を引き起こすメカニズム


実際に、乳幼児期の過剰なスクリーンタイムが「ADHDのような症状」を引き起こすことは、多くの研究でも示されています。


「ADHDのような症状」に関する4つの研究

① リスクが約7.7倍に……
カナダのSukhpreet K. Tamana博士らの研究(2019年)では、5歳時点で1日2時間以上スクリーンを見る習慣のある子は、ADHD症状に該当するリスクが、そうでない子の約7.7倍にも上ることが示されました。


② 注意力、実行力が低下……
シンガポールのGUSTOコホートを用いた長期研究(2023年、Evelyn C. Law博士ら)によると、生後12カ月時点でのスクリーン時間が長い乳児は、生後18カ月で行った脳波検査において前頭中央部でシータ波が高くベータ波が低いパターンを示し、9歳時点で注意力や実行機能のスコアが有意に低下していたことが報告されています。


③ 情報の処理や的確な判断・行動が難しく……
イスラエルと米国のTzipi Horowitz-Kraus博士とJohn S. Hutton博士らの研究(2022年)では、スクリーンへのアクセス頻度が高い子どもほど、前頭葉を含む複雑な行動や意思決定を可能にする神経回路と、視覚情報を選択的に処理し注意をコントロールするための神経回路網「視覚注意ネットワーク」が、一体として動作する力が低下していることがわかりました。これはつまり、目の前の情報を効率的に処理したり、状況に応じた的確な判断や行動をとったりすることが難しくなる可能性がある、ということを示唆しています。


④ 「多動」になるリスクが4.62倍に
中国で4万2841人を対象としたJian-Bo Wu医師らの大規模研究(2022年)では、乳幼児期(0〜3歳)のスクリーン視聴時間が長いほど、3歳時の多動傾向が強くなり、特に1日3時間以上も視聴したグループでは、スクリーンを見ない子に比べて多動症状が出現するリスクが4.62倍高くなっていました。


これらの研究では、乳幼児期にスクリーンを見せる時間が長ければ長いほど「多動傾向」や「注意力の低下」が現れる可能性が高いこと、そして「脳の重要な部位(前頭葉など)に発達の遅れを示す変化が見られる」ことが指摘されています。


特に前頭葉は、人間の大脳の約30%を占めているといわれており、「注意や集中力」「衝動の抑制」「計画や判断」といった高度な認知機能をつかさどる部位。前頭葉の機能が低下すると、衝動的な行動が増えたり、自分の感情をうまくコントロールできず不安定になったり、学習面において計画性や集中力が欠けて成果が出にくくなったりと、「非認知能力(※)」が低下し様々な問題が生じる可能性があります。


(※)【非認知能力とは】知能検査などで数値化される認知能力(IQなど)とは別に、社会性や情動のコントロール、意欲、自己制御力、コミュニケーションに関係する能力、レジリエンス(逆境から回復する力)などを含む、多面的な能力のこと。


このように長時間のスクリーンタイムがこの領域に影響を与えることで、結果的に“ADHDのような”症状を強めている可能性が多くの研究から指摘されています。


■「小学生」の間は慎重に…


ただし、すべての研究が「スクリーンタイムが脳を深刻にむしばむ」と結論づけているわけではありません。ある程度成長した年齢層においては、スクリーンタイムが認知能力や精神健康に大きな悪影響を及ぼさないと結論付けているものもあります。


オックスフォード大学、オレゴン大学、ケンブリッジ大学らの国際研究チームが、ABCD研究という大規模研究の代表サンプルから9〜12歳の子ども7809人の安静時機能的接続性MRIと自己申告スクリーン活動データを分析しました。その結果、デジタルスクリーン活動と脳の機能的組織化の間に一部の関連パターンは認められたものの、これらのパターンは2年後のフォローアップでは再現されず、認知能力や精神健康指標との実質的な関連も示されませんでした。


つまり、「乳幼児期のスクリーンタイムの影響」は確かに深刻な懸念として考えられるものの、年齢が上がった段階(小学校中学年以降)では、スクリーンタイムそのものが顕著な悪影響として現れていない可能性を示唆するデータもあるわけです。


とはいえ、乳幼児期だけでなく、小学生のうちは脳が急速に発達し、さまざまな基礎的機能が整う重要な時期であることは間違いありません。中学年以降であっても過剰なスクリーン刺激を与え続けることのリスクを軽視せず、慎重に向き合う必要があります。


■いきなり取り上げると「大泣き」も…段階的に調整を


家庭内で取り組みやすいのは、「ペアレンタルコントロール」を利用して、1日の使用時間に上限を設定するなど、子どものスクリーン使用時間を物理的に制限すること。親として「自分で制御、時間管理して欲しい」と望む気持ちはよく理解しています。そのようなご相談も数えきれないほど受けてきました。


写真=iStock.com/Melpomenem
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Melpomenem

しかし現実的には、子どもの脳は、セルフコントロールを司る前頭葉がまだ十分に発達していないということ、そのため「自分の意思でスクリーンを使う時間をコントロールすることは難しい」ということを理解する必要があります。


「いきなりタブレットを取り上げると大泣きされる」「タブレットやゲームがなければ家庭が回らない」というご相談もよくいただきます。このような問題を抱えている場合は、段階的に使用時間を減らす工夫を考えてください。


例えば、「1日3時間→2時間半→2時間…」と少しずつ制限をかけるだけでも、子どもの脳への刺激量は確実に減りますし、家族全体のストレスもコントロールしやすくなります。実際に私が関わっている保護者の方でこの方法でうまくいった人が複数いらっしゃいます。


■今からでも遅くない! 「前頭葉」の機能を育む方法


さらにスクリーンから離れている時間に、前頭葉の機能を活性化させる活動を取り入れることも重要です。具体的には「有酸素運動」や「マインドフルネス」が年齢に関係なく効果的であるとされています。


● コロンビア大学のYaakov Stern博士を筆頭とする研究チームが、20〜67歳の132人を対象に、6カ月間(週4回)の介入研究を行い、有酸素運動を行なったグループとストレッチ/筋トレを行なったグループとを比較した結果、有酸素運動を行ったグループでは実行機能(計画や意思決定に関わる能力)が有意に改善し、特に年齢が上がるにつれてその効果が大きくなることが分かりました。また、左前頭領域の皮質も増加することがわかりました。


● アメリカのイリノイ大学のCharles H. Hillman博士らの研究チームによる、7〜9歳の子ども221名を対象に、約9カ月間にわたって行われた調査では、放課後に運動をしたグループは衝動を抑える能力が約3.2%、注意の切り替え能力(認知的柔軟性)が約4.8%改善し、注意力や判断力に関係する脳波の振幅が有意に増加し、認知機能および脳活動の向上が認められたと報告されています。


マインドフルネス
米国ピッツバーグ大学(Taren, Adrienne A. MD, PhDら)の研究チームが、心理的苦痛レベルが高い成人35名を対象に、3日間の短期集中型マインドフルネストレーニングを行ったところ、注意力や自己コントロールなどに関係する背外側前頭前皮質と、その働きを調整する複数の脳領域との結びつきが強まることが確認されました。一方、対照群であるリラックスしただけのグループではこうした変化は見られず、マインドフルネスには脳の実行機能を高めるための神経回路を活性化する効果があることが分かっています。


運動もマインドフルネスもどちらも積極的に取り組むことができれば理想的ですが、実際は、マインドフルネスは退屈で苦痛だけど、運動なら楽しく取り組めているという子どもが多いことも付け加えておきます。


こうした対策は短期間で劇的な変化をもたらすものではありません。特にスクリーンへの依存が強い場合や、子ども自身の性格や家族の状況によっては、変化が思うように現れない場合もあります。


大切なのは「少しずつでもスクリーンタイムを適切に管理し、前頭葉の機能を刺激する活動を取り入れる」ことです。


■立ち止まり、見極める視点を


私はドクターからADHD「グレー」の診断が出ているという方に対しては「もしご自身に心当たりがあるなら、先天的なものだと決めつけずに対処方法を模索する方がいいかもしれません」とアドバイスしています。もしあなたが「うちの子、ADHDかも……」と悩んでいるのなら、まずは一度立ち止まり、“本当のADHD”なのか、“勘違いADHD”なのかを見極める視点を持ってみてはいかがでしょうか。


同時に運動や遊び、マインドフルネスなどを取り入れることで、前頭葉をはじめとする脳の健全な発達をサポートすることができます。


どうか不安になりすぎず、前向きに取り組んでいってください。


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井上 顕滋(いのうえ・けんじ)
非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問
1970年生まれ。2004年 Result Design株式会社を設立。最先端の心理学および脳科学を学び、それらを融合させることで人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。3000社以上の企業で経営者・経営幹部への指導や研修を行い、「1年間で離職率8分の1」「2年間で経常利益26.8倍」「営業成約率平均31.9%アップ」などの実績をもつ。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や世界一に輝いたプロスポーツ選手のサポートも行っている。自らも経営者として30年以上の部下育成の経験を持つ。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。講座などを通じてこれまで指導した小学生の保護者は4万人を超える。著書に『7つの“デキない”を変える “デキる”部下の育て方』『子育てママに知ってほしい ホンモノの自己肯定感』(ともに幻冬舎)などがある。
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(非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問 井上 顕滋)

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