アマゾン、グーグル、マイクロソフト…世界的ビッグテックはなぜ「RevOps」の専門チームを組織するのか
2024年12月4日(水)4時0分 JBpress
今や米国内の6割を超える大手企業が専門チームを持つほど標準化している協業プロセス「RevOps(レベニューオペレーション)」。マーケティングや営業、カスタマーサクセスなど企業のレベニュー組織のプロセス・データを、システムで統合・最適化することで持続的な収益成長を目指す概念を指すが、日本では依然として属人的管理中心のレベニュー組織が多く見られる。本連載では『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)』(川上エリカ、丸井達郎、廣崎依久著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集。これからの企業の生産性向上に欠かせないRevOpsの役割について解説する。
第2回では、組織内の分断や対立の要因となるサイロ化の弊害と、そうした課題を解決する手段として注目を集めるRevOpsの可能性について説明する。
■ なぜ組織は対立するのか?
レベニュー組織の各フィールド部門(マーケティング、営業、カスタマーサクセス)には、それぞれ期待される役割を踏まえて専門性の強化と生産性向上が求められます。先ほど、システムとは「共通の目標を達成するために一体となって動くものの組み合わせ」であるとお伝えしました。
しかし多くの場合、各部門が自身の目標を達成しようとした結果、組織の分断が起きています。例えばマーケティングが目標のリード獲得数を達成し続けている一方で、営業は受注目標を達成できていないといったことが一例として挙げられます。このレベニュー組織のサイロ化によって、次のような課題が発生してしまいます。
■サイロ化が引き起こす課題
・組織文化への影響
目標やKPIが部門ごとに目線が異なることで組織のサイロ化が進むと、部門間の対立が発生します。組織としての統一感はなくなり、働く社員のモチベーションは低下してしまいます。
レベニュー目標の達成を共通ゴールに、適切な目標設定がなされていれば、営業はマーケティングと密に連携を図り、供給された適切な質のリードによって受注目標を達成できるでしょう。
・データドリブンな意思決定の阻害
組織のサイロ化はデータのサイロ化も引き起こします。部門間でデータが共有されないことで、全体像が見えずに誤った判断をしてしまう可能性が高くなります。
シームレスにデータがつながれば、例えばカスタマーサクセスのリソースが逼迫(ひっぱく)している要因は、前工程のレベニュー部門で本来製品・サービスがフィットしないターゲットに対してマーケティング活動や営業活動を実施してしまっているからだと気づくことができるでしょう。
・顧客体験の質の低下
データが分断しているということは、部門を超えた瞬間から一貫性のない顧客対応が発生してしまうことと同義です。問い合わせ窓口が変わると顧客は何度も同じことを説明しなければなりません。また、ブランドの一貫性は、企業の価値観やビジョンを顧客に明確に伝えるための重要な手段です。
一貫した購買体験の提供ができていれば、顧客からの信頼感は高まり、継続的に自社の製品・サービスを選択してもらえ、潜在的な顧客の紹介などさらなるレベニュー成長へのサポーターを生む可能性があります。
・業務効率の低下
サイロ化によりプロセスが分断されると、当然業務は非効率になってしまいます。重複した業務が発生するので、人的リソースを無駄に消費しています。
部門間での協業がスムーズになれば、リソースを最適に活用可能です。結果として、プロジェクトのスピードが上がり、全体的な業務効率が改善されるでしょう。また、時間とリソースが有効に活用されることで、組織はより多くのイノベーションや成長機会に焦点をあてられ、競争力の向上にも寄与できるかもしれません。
これらのサイロ化による課題を解決するものとしてRevOpsは近年注目を集めています。
アマゾン、グーグル、 マイクロソフトでも 採用されるRevOpsチーム
■新たな波から一般に普及する段階へ
RevOpsはまだ比較的新しい概念ですが、その起源はマーケティングと営業の連携の必要性が認識された2000年代初頭にさかのぼります。そして序章02節で解説した変化に伴ってこの20年間で、その緩やかに定義された概念から、確立された組織機能へと進化し、現在では多くの企業がRevOpsの専門部門を持つようになりました。主にIT業界では2018年ごろから多くの企業が導入しており、他の業界と比較すると5年ほど進んでいるといえるでしょう。
近年では、この流れが銀行や保険などの金融サービス、製造、ヘルスケア、コンサルティングや人材サービスなどのビジネスサービスにも広がってきており、イノベーター理論でいうと、アーリーマジョリティの段階にすでに入っています。世界的に見ると米国が最も成熟している地域ですが、欧州やインドなどのアジア諸国のIT企業でも積極的に取り組んでいます。
世界最大規模のICT(情報通信技術)リサーチ&アドバイザリー企業であるガートナーの予測※によると、2025年までに世界で最も成長率の高い企業の75%がRevOpsモデルを導入するといわれています。
■グローバルのRevOps専門チームによるデータ活用
売上成長においてレベニュー組織の強固な連携が重要であることは理解いただけたかと思います。収益性のあるマーケットに対して、組織で一枚岩になって一貫した活動となるよう取り組む必要があります。
そのため、RevOpsの方法論に注目が集まり、多くの企業でRevOpsが組織化されています。組織名称はRevenue Strategy & OperationsやGTM Strategy & Operationsなど企業によって異なりますが、LinkedIn(リンクトイン)で検索するとアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどはもちろん、スタートアップ企業においてもRevOpsが組織化されていることがわかります。
米国のデータオートメーションプラットフォームであるOpenprise(オープンプライズ)の2024年の調査※ 1によると米国でRevOpsの部門または役割があると答えた企業は67.5%にのぼりました。
※ ガートナーの予測 出所:ガートナー「Gartner Predicts 75% of the Highest Growth Companies in the World Will Deploy a RevOps Model by 2025」
※1 出所:「The 2024 State of RevOps Survey」( RevOps Co-opとMarketingOps.comに属するコミュニティメンバー数百名に対する調査結果)
2024年9月米国サンフランシスコで開催のRevenue Operations Alliance(レベニューオペレーション・アライアンス)主催のRevOpsに関するカンファレンス※ 2ではメタのGlobal Revenue Operations(グローバル・レベニューオペレーション)のシニアディレクターによる、プロセスを合理化し、収益の予測可能性を高め、明確で実行可能なRevOpsの年間計画を作成する方法についてのセッションや、グーグルのRevenue Strategy and Operations(レベニューストラテジー・アンド・オペレーション)の責任者から、さまざまなGTM戦略を分析し、中小企業や新興企業が長期的な計画を通じて拡大と成長を促進するための重要なポイントが共有されるなど、RevOpsに関する取り組みや成果が共有される場も活発に持たれています。
そしてAI時代の本格的な到来に向けて、もうグローバルでは「AIをどう利用するか?」ではなく「このようにAIを使った結果、このような未来が見えた」という内容に変わっています。
しかし、今も膨張し続けるデータの活用は、いまだ限定的だという企業が多いのが実情です。
IDCとシーゲートによる2020年の下図(図0-2)では、企業が本来活用できるすべてのデータの44%が収集されないままであり、収集されたデータのうち43%が未使用のままであると推定されています。
現在、実用化されているデータは全体の3分の1に過ぎないという調査結果からわかるように、7割のデータは蓄積されているだけ、または活用できるのに明るみにでていないという現実です。
戦略を実現するための組織やプロセスのデザイン、テクノロジーやデータの活用を推進するRevOpsの重要性は年々増しています。
※2 出所:Revenue Operations Alliance(https://events.revenueoperationsalliance.com/location/ sanfrancisco/speakers)
<連載ラインアップ>
■第1回 なぜ営業DXが成功しないのか? 米国で6割超の大企業が専門チームを設ける「RevOps」とは
■第2回 アマゾン、グーグル、マイクロソフト…世界的ビッグテックはなぜ「RevOps」の専門チームを組織するのか(本稿)
■第3回 サイロ化された組織で起こり得る「データのバイアス」とは? 「RevOps」が経営判断にもたらす信頼性
■第4回 レベニュー戦略全体を統括するCROは、なぜ現代のビジネスにおいて重要視されるようになったのか(12月18日公開)
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筆者:川上 エリカ,丸井 達郎,廣崎 依久