「僕って昔と変わりましたよね」――背番号129からの再出発 阪神の高橋遥人が掴んだ復活への手応え

2024年1月28日(日)11時0分 ココカラネクスト

相次ぐ重症から再起を誓っている高橋。彼がふたたび戦力となるかは阪神のタイトル争いのためのカギとなる。写真:産経新聞

 長らく待ち望んだリーグ優勝、そして日本一を成し遂げた2023年において多くのタイガース・ファンに心残りがあるとすれば、この男が1度も1軍のマウンドで登板しなかったことではないだろうか。高橋遥人にとって昨年はまたしても故障に泣かされた1年だった。

「悔しさはあるけど、(チームを)見ていて素直に凄いなと思っていた。あとは自分のことに集中できていた」

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 本人は戦力になれなかった現実に落胆しているのかと思いきや、自身の現状にしっかりとフォーカスして前を向く。いや、悔恨や落胆はもう“1周回って”とうの昔に終わっていたのだろう。

「それは自分にとってすごく大きなことだった」。

 昨年6月に高橋は「左尺骨短縮術」および「左肩関節鏡視下クリーニング術」を受けた。22年4月に「左肘内側側副じん帯再建術(トミー・ジョン手術)」を受け、昨年は懸命にリハビリに取り組んできたが、1度も実戦登板できずに今度は左肩と左手首にメスを入れることになった。

 入団以来、幾度も故障に泣かされてきただけに今回の“再出発”は相当に辛い決断だったはずだが、本人の思いは少し違う。「6月に手術してもらってより前向きになった。これで良くなると思うと前向きになれる。自分に期待できると思っています」と力強くうなずいた。

 正直、筆者には意外だった。入団から取材してきた左腕は、どこか自分に自信が無くネガティブな発言も多く、故障を負う度に「僕なんてダメ」と弱音を吐くタイプ。そんな姿を想像できたから、どこを切り取っても前向きなフレーズの数々に驚いた。

 この時期、筆者は、鳴尾浜球場で顔を合わせた高橋本人から「僕って昔と変わりましたよね」と聞かれた。「めちゃ変わったよ」。そう答えを返すと、彼は少し頬を緩ませ、「来年はいけると思います」と語った。

 リハビリの進捗がうまくいっていたのもあるだろう。ただ、高橋を変えたものは、周囲にもあると感じている。これまで、リハビリを担当する球団トレーナー、医師、そして家族と、様々な人間が復活を目指す自身を支えてきてくれた。その恩に報いるにはマウンドで腕を振ること、そして1軍で結果を残すことしかない。幾多の困難を経て「恩返し」の意味を深く理解することができた。

 昨年11月の契約更改の場でも、高橋は決意を改めて口にしている。

「ケガをしていろんな人に助けてもらっている。自分のために時間を使ってもらっている。自分が投げないとそういう人も報われない。このままだとダサい。ダサいまま終わりたくないので頑張りたい」

 それはリハビリの拠点となる鳴尾浜球場のスタンドでどんな時も励ましの言葉をかけてくれるファンへ向けても同じだ。

「投げられない中でも皆さんの声は届くので。投げる姿、マウンドに立っている姿を見せたい」

忘れられない坂本勇人からの奪三振

 そんな決意が表れたのが、年が明けた11日に見せた“投球”だった。鳴尾浜球場のブルペンに入った背番号129は、捕手を座らせて直球のみで25球。設置されていたトラックマンでは最速143キロを計測したといい、「年末も3、4回(捕手を)座らせて投げて、それよりも今日の方が良くなっている。停滞している感じもない」と確かな手応えを語った。投球を視察した江草仁貴2軍投手コーチも「めちゃめちゃ良かった。あの感じだったら(2月の実戦復帰も)いけると思います」と順調な経過を喜んだ。

 現状のままであれば、打者への投球は2月上旬に予定し、シーズン途中の戦列復帰を目指す。今オフから背番号3桁の育成契約に切り替わり、「今年やらないと終わる」と位置づける大事な1年。それでも高橋に焦りは全くない。「流れに身を任せて。あんまり目標とかは決めてないです」。層の厚い1軍の先発ローテーションに食い込むことよりも、まずは21年を最後に遠ざかる実戦のマウンドに戻ってくることに主眼を置く。

 首脳陣、同僚、ファン——。高橋遥人という男の帰りをこれほど多くの人が待つのも、その潜在能力の高さ、圧倒的なパフォーマンスを知っているからだろう。だからこそ、過去2年間未勝利の左腕が万全の状態で戦列に戻ることはタイガースにとってこれ以上ない大きな“補強”。連覇への隠れたピースであるとも言える。

 プライベートでは今オフに同じ静岡県出身の一般女性との結婚も発表。「一緒に住み始めてすぐに手術(22年のトミージョン手術)もした。1軍どころか、まだ試合で投げたこともない。まずは試合で投げるところを見せたい」と一家の大黒柱としての意地もにじむ。

 今でも忘れられないのが、21年9月25日のジャイアンツ戦。坂本勇人に尻餅をつかせて奪った三振だ。この時の高橋に伝統の一戦で敵軍の中心選手をねじ伏せる姿に「猛虎のエース」の称号を重ね合わせた人も少なくないだろう。

 野球人生の大きな1ページとなりそうな1年。“最後の故障”との戦いを終えた時、それが高橋にとって復活の号砲になる。

[取材・文:チャリコ遠藤]

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