パドック裏話:無下にはできない心遣い

2025年4月29日(火)21時0分 AUTOSPORT web


 F1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。第5戦サウジアラビアGP編です。


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 今季のF1カレンダーは前年同様に年間24戦だが、序盤は6週間で5レースというタイトなスケジュールになった。ゆえにドライバーたちとしては、それぞれのレースの週末に向けて可能な限りリラックスして休息を取れるように、時間の使い方を綿密に計画しなければならなかった。


 日本からバーレーンへの移動は、この連戦のなかでも相対的に時差が大きく、どのチームとドライバーにとっても対処が難しいものだった。結果としてトリプルヘッダーの2番目のレースでは、体調が100%ではない者も少なからずいたようだ。


 したがって、バーレーンとサウジアラビアの間にひと息入れる時間を作ろうと、ドライバーの多くが考えたのは当然の成り行きだった。マナマとジェッダの両都市間は、ごく短時間のフライトで移動できるからだ。


 そして、何人かは紅海に面した人里離れたリゾートでゆったりとした時間を過ごし、また何人かはギリギリまでバーレーンに残ることを選んだ。同国にはとても居心地の良いホテルがたくさんあって、サウジアラビアと比べれば、彼らの慣れ親しんだ欧米のスタイルに近い環境で過ごせるのだ。


 後者を選択したドライバーたちの大半は、水曜午後のフライトでジェッダへ向かった。そのうちエステバン・オコン、リアム・ローソン、アイザック・ハジャーの3人は同じ民間航空便に乗り、同時刻にサウジアラビアに着いた。ここでは名前を伏せるが、3人組のひとりは他のふたりと同じクラスの席が取れず、まだ空席が残っていたエコノミークラスで我慢するしかなかった。そこまでしてでも、もっと出発が早い便には乗りたくなかったらしい。


 彼らが地上に降り立つと、すぐにグランプリドライバーへのウェルカムギフトとして豪華な花束が贈られた。ただ、その時点で3人は離れ離れになっていたので、花束を受け取ったのが自分だけなのか、あるいは他の2人にも手渡されたのかを知るすべはなかった。


 世間の人に顔も名前も知られたF1ドライバーとしては、空港内ではなるべく目立たないように歩みを進めたいところだ。しかし、彼らは入国審査までの経路をたどる間、ずっとその派手な花束を持ち運ばなければならなかった。


 どうにかイミグレーションまで来ると、そこにはセキュリティチェックがあり、ドライバーの入国手続きの手助けをする係員はセキュリティとのややこしい交渉を強いられた。花束が大きすぎて、手荷物用のスキャナーを通りそうになかったのだ。実際、無理に通せば壊れてバラバラになり、ひどく面倒なことになっていたかもしれない。


 このハードルを乗り越えた彼らは、バゲージクレームでようやく再会を果たした。立派な花束を抱えて立っているのはこの3人だけだったので、互いに仲間を見つけるのには何の苦労もなかった。彼らが無事入国するまで見届けようと現地の係員がずっとついて来ていて、その人たちの気持ちを思うと、すぐにチームメンバーの誰かに預けてしまうわけにもいかなかったのだ。


 まもなく彼らは、その場にいた人たちとの写真撮影にも応じざるをえなくなった。「こうした歓迎は、すべてレーシングブルズのドライバーたちが自分のために仕組んだイタズラに違いない」と、オコンは冗談まじりにこぼしたという。


 同様に花束を受け取ったドライバーのひとりは、今回のレースにガールフレンドを連れて来なかったことを残念がっていた。「君のために買ったんだ」と言って渡せば、大いに点数を稼げたに違いないからだ。また別のドライバーは、彼らに好印象を与えようとこのような方法を考えたのはいったい誰なのか、ぜひとも知りたいものだと語っていた。


 ともあれ、こういうちょっとした心遣いはいいものだ。他の多くのグランプリ開催国でも、空港に到着したドライバーが歓迎されていると感じるような工夫をしてはいかがだろうか。ただ、来年に向けてサウジアラビアの人々にひとつアドバイスをさせてもらうなら、次回はもう少し小さくて、あまり目立たない贈り物にしてはどうかと進言したい。


 あの花束が、どれくらい日持ちするものだったのかはわからない。だが、レースの週末が終わったとき、ドライバーと共にホテルの部屋を出た花束は、おそらくひとつもなかったと言っても、あながち間違いではなかろうと思う。





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