大橋悠依、入江陵介コーチの石松正考氏、シンガポール代表コーチに就任 競泳界で異例の挑戦「将来、もう一度日本代表に」

2025年5月3日(土)5時0分 スポーツ報知

競泳元日本代表の入江陵介さん(左)、大橋悠依さん(中央)を指導した石松正考氏(石松氏提供)

 競泳で東京五輪女子個人メドレー2冠の大橋悠依さん、男子背泳ぎで五輪4大会連続出場の入江陵介さんを指導した石松正考氏(38)が、シンガポールでナショナルチーム(NT)のコーチに就任することが2日、分かった。この日取材に応じた石松氏は「一生懸命できる環境に身を置いて、頑張ることが次につながる。想像はまだできないけど、これがいい選択だったと思えるように動いていきたい」と意気込み。競泳でトップ選手を指導した現役コーチが、他国のNTコーチとして活動するのは極めて異例。前例なき挑戦となる。

 入江さん、大橋さんは昨年、現役を引退。石松氏は、所属のイトマンスイミングスクールでジュニアの育成を志していた。しかし年明け頃、シンガポールのNTからコーチ就任のオファーが届いた。これまで、合宿先として同NTの拠点を利用し、首脳陣と接点はあったが「コーチとして行くなんて、想像もしていなかった」。石松氏によれば、NTにはブラジルやハンガリーから来たコーチもおり「日本からも呼びたいということだった」と言う。すぐに先輩コーチらに相談。家族もあり、熟考を重ねた。

 東洋大時代、大橋さんを育てた平井伯昌コーチは当初「石松がいなくなったら、どうするんだよ」と言ってくれた。2019年から入江さんのコーチを務め、38歳ながら国際経験も豊富。16年リオデジャネイロ五輪は日本水連の総務としてチームに帯同し、マネジメント力にも長ける。若手コーチの中では、一つ抜けた経験と実績。名将の言葉は、期待の大きさを裏付ける。多くの五輪選手、メダリストを輩出したセントラルスポーツの鈴木陽二コーチからは「求められている所で頑張ることもいい」と説かれた。石松氏は「挑戦は勇気がいるけど、それが僕の成長にもつながるし、今は見えていない世界が見えるんじゃないか、と言ってもらいました」と、背中を押されたと言う。

 自らの手で、選手を育て上げたい思いもあった。「陵介や悠依の時は、育てるというよりは一緒にやっている感覚だった」と石松氏。2人は、五輪メダリストの肩書きを持って同氏に師事した。石松氏は早大卒業後、米インディアナ大学院に進学。米国のスイミングスクールでコーチングしたことはあったが、一からの選手育成は未経験だった。シンガポールについては「競技力は低いけど、水泳をメジャーにしていこうという動きがあって。物事を変える中心に身を置けるというのは、魅力があるなと」。15〜20歳ほどの世代が集まるNT。「育てる」環境がそこにはある。石松氏は「五輪に出る選手は日本と比べると少ないけど、みんなでそこを目指してやっていこうと言う空気を、すごく感じるんです」と、目を輝かせる。

 入江さん、大橋さん2人と歩んだ年月は、無二の財産だ。「五輪で活躍するためにはどういう取り組みをしないといけない、どういうマインドでいないといけないということを、2人を通して学ぶ事ができた。ゴールを想像しながらではなく、逆算して指導できるのは強み」。選手の一からの指導は初めてだが、トップを目指す集団に身を置いてきた。言葉や文化、考え方の違いはあれど、ベースとなるノウハウはある。「やらせるだけではダメ。話をして、待たないといけないと思う。一緒に数年をかけて育てていくというのが、指導者だと思うので。ゴールは見えているけど、そのプロセスをどうしていくか。自分がしてきた経験を、生かしたい」とうなずく。

 結んだ契約は4年。8日に離日する。シンガポールではNTのコーチングだけでなく、チームの中心の1人として運営などの経験も身につけていく。個の能力、そしてマネジメント力にさらに磨きをかけることが出来る絶好の機会。将来は「日本の水泳界に、貢献したい」という強い思いがある。「希望としては、大学で(指導を)やりたいです。そこから、代表選手を出したい。将来、もう一度日本代表に戻って、国際大会でメダルを狙う勝負がしたい」。口ぶりは冷静だが、出てくる言葉は熱い。競泳ニッポンの将来を担う指導者が、新たな一歩を踏み出す。(大谷 翔太)

◆石松 正考(いしまつ・まさたか)1986年11月26日、福岡県出身、38歳。3歳から競泳を始め、小学生から選手コース。早大卒業後、インディアナ大大学院に進学。2012年に卒業後は、日本水連の総務として従事した。16年リオ五輪後、指導者を志してイトマンスイミングスクールに入社。選手のマネジメントなどをこなしつつ、男子平泳ぎで元世界記録保持者の山口観弘氏のサポートコーチを兼任。その後、19年夏から入江陵介氏、21年東京五輪後からは大橋悠依氏のコーチを担当。25年5月から、シンガポールのナショナルチームコーチに就任した。

スポーツ報知

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