【内田雅也の追球】「明日につながる」敗戦
2025年5月22日(木)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神4—5巨人(2025年5月21日 甲子園)
「明日につながる」試合があるという。こんな試合を言うのだろう。
阪神はよく追い上げた。勝った巨人も「阪神強し」の印象を強くしたのではないだろうか。
4点先取され1点差まで迫った。各打者がしぶとく食い下がった。
1点差の8回裏に“幻の二盗”があった。1死一塁で代走・熊谷敬宥は次打者の前川右京、次々打者の代打・糸原健斗の間に計5度走った。いずれも大勢のフォームを盗んでいるかのような好スタートだった。ただ4度はファウル。5度目は右前打だった。1球でもボール球があれば、二盗成功。あの右前打で同点だった。一つの綾である。
天気予報は雨を伝えていた。試合前に降り、やんでいたが、3回から降り出した。試合成立の5回以降、いつ降雨コールドになるかもしれない。こんな時、仕掛けは早くなる。阪神は序盤の2回表2死二塁で外野は相当な前進守備を敷いた。
雨は魔のイニングとなる4回表に強くなった。
先発ジェレミー・ビーズリーは先頭に四球。続く甲斐拓也、浅野翔吾にいずれも追い込んでから短長打され先取点を献上した。被安打6本のうち4本が2ストライク後。決め球の甘さが見えた。
ここで監督・藤川球児は富田蓮の救援を告げた。このショートスターター—ロングマンという起用法は5月5日の巨人戦(東京ドーム)で行っている。前回は先発・富田—救援ビーズリーの順で6回1失点と好投し、勝利を呼び込んでいた。
今回は逆順で「二匹目のどじょう」を狙ったようだが、両投手ともに不調。富田も3連打を浴び、4回表は4失点となった。今回は柳の下にどじょうはいなかった。
季節は二十四節気「小満」に入った。「万物が成長し、草木が茂って天地に満ち始めるころ」をいう。阪神も今が成長期でまだまだ強くなれると受け取りたい。
敗戦後の藤川は決まり文句のように「明日」と口にする。昨秋の監督就任後「批判、論評してもらって結構。僕はもうそこ(過去)にはいませんから」と常に前を見る姿勢を示していた。
この夜は「明日」が見える試合だった。甲子園での敗戦後、場内に流れるバラード『To Be With You』が「過ぎたことは過ぎたこと」と歌っている。もう過去のことなのだ。前を向きたい。 =敬称略=
(編集委員)