【阪神90周年企画】阪神電気鉄道の早川源一氏 虎マーク、黒黄の球団旗、Tigersロゴ...神デザイナー

2025年5月27日(火)5時15分 スポーツニッポン

 虎マーク、黒黄の球団旗、Tigersのロゴ……など、タイガースは球団創設から90年にわたり変わらずに使い続けている。時代を超え、長く愛されてきたデザイン、揺るぎないブランドをつくったのは親会社・阪神電気鉄道の社員、早川源一氏(1906〜76年)だった。野球殿堂級と言われる優れたデザイナーの功績をたどった。  (編集委員・内田 雅也)

 野球殿堂博物館に「大阪タイガース来る」と大書されたポスターが残っている。今のプロ野球初年度の1936(昭和11)年6月、九州遠征の際、宣伝に使われたと伝わる。

 ルー・ゲーリッグ(ヤンキース)を思わせる豪快な打者の胸には「Tigers」。監督・森茂雄、主将・松木謙治郎以下メンバー表には虎マークがある。ロゴもマークも今と同じデザインだ。「Hayakawa Genichi」のサインが描かれていた。

 早川源一である。球団の親会社・阪神電気鉄道の宣伝課に勤めるデザイナーだった。

 1906(明治39)年、東京生まれ。京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)卒業後に一時渡米、29年に阪神電鉄に入社。開発を進める沿線のイベントのポスターなどをデザインしていた。ハーゲンベックサーカスの来日興行(34年)や逆光を生かした甲子園・香枦園海水浴場のポスター(40年)など多くの作品が残っている。

 阪神の球団創設は35年12月10日。愛称「タイガース」発表が36年1月10日だった。2月11日、甲子園に選手全員が集合した際<渡されたユニホームには、すでにタイガースとマークが入っていた>と松木が著書『タイガースの生いたち』(恒文社)に記している。

 早川は球団にも携わり、急ぎロゴやマークの基本デザインを完成させたわけだ。虎マークは入場券や球団旗にも付され、今も変わらず使われている。

 タイガースのデザインにひかれ、早川の研究を続ける鉄道設計技士、大森正樹(58)は「時代を超え愛されるクオリティーの高さ、普遍的な美しさがある」と話す。早川が行ったのは、企業(ブランド)イメージを創造・向上させるブランディングだという。「そんな言葉も認識されていない時代にイメージづくりの手法を活用していたわけです」

 チームカラーの黄色は創設当初から貫かれている。広島の赤がチームカラーとして定着したのは赤ヘルが登場して初優勝した75年だった。巨人のオレンジは53年、ニューヨーク(現サンフランシスコ)・ジャイアンツのユニホームを模したのがきっかけだった。

 早川が社員デザイナーだったことも「特筆すべき」と大森は話した。「発注者がデザインの権利も握っていました。デザインの専門家がいない球団はメーカーのデザイン提案を選ぶしかありません」。近鉄の猛牛マークは59年に芸術家・岡本太郎がデザインしたが、この芸術品もオリックスとの球団合併後、影を潜めていった。「しかしタイガースは親会社の早川がデザインを描き、メーカーに制作指示をしてきました」

 シウラスポーツ(大阪市)に54年のビジター用ユニホームの胸レター「OSAKA」の文字デザイン3案が残っている。うち一つに「合格」との鉛筆書きがあった。早川がメーカーに指示した証である。タイガースのデザイン一貫性はこうして成立していった。

 早川は58年退社後も活動は続けた。大森は早川の長男、次男や孫ら遺族を取材するうち、スクラップ帳など遺品の管理を委ねられた。65年発行の『タイガース30年史』の表紙デザイン完成版、同原案や75年監督就任の吉田義男のカット原画などがあった。早川自身もタイガースを愛し続け、76年8月13日、69歳で永眠した。今は京都で自らデザインした墓に眠る。

 研究を続ける大森によると、早川は1行も文章を残さず、雑誌の座談会でも一言も話していない。功績をたどる難しさはあったが「90年愛され続けるタイガースブランドを作った。十分に野球殿堂入りに値する仕事をしたと思います」と話した。 =文中敬称略=

 【31日から展覧会「野球とデザイン—デザインで辿(たど)る阪神タイガース—」開催】

 西宮市大谷記念美術館で展覧会「野球とデザイン—デザインで辿(たど)る阪神タイガース—」が31日から開かれる。阪神タイガース球団創設90周年、西宮市100周年、阪神電気鉄道開業120周年を記念している。

 早川源一氏が残した作品を中心に、球界随一のロングライフデザインとなったタイガースのデザインをひもとく。ポスター、入場券やユニホームなどが展示される。

 7月27日まで。午前10時〜午後5時。水曜日休館。入館料は一般1200円(1000円)、高校大学生600円(400円)、小中学生400円(200円)=カッコ内は前売り料金。

 関連イベントとして野球チケット博物館主宰・山岸茂幸氏のトークショー(6月8日)、プロ野球意匠研究家・綱島理友氏の講演会(6月15日)、千葉大工学部非常勤講師・大森正樹氏のワークショップ(7月13日)なども開催される。

スポーツニッポン

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