「計り知れない大きな差の勝ち点1」をつかむ劇的同点弾 神戸FW武藤嘉紀が体現した勝利への執念とJ1王者の意地
2024年12月1日(日)13時49分 サッカーキング
23日の天皇杯決勝でガンバ大阪を1−0で下し、今季最初のタイトルをつかんでから1週間。ヴィッセル神戸はJ1連覇、今季2冠を懸けてアウェーでの柏レイソル戦に挑んだ。
週中の26日にはAFCチャンピオンズリーグエリートのセントラルコースト・マリナーズ戦も消化。大迫勇也、武藤嘉紀ら主力級の大半は欠場し、しっかりとリフレッシュして大一番に挑んだはずだった。が、この日は序盤から柏の迫力に押されてしまう。開始早々の5分に相手左CKから木下康介に打点の高いヘッドで先制点を奪われ、一方的な劣勢に。前半20分過ぎまでシュートを1本も打てないという厳しい内容を強いられた。
「立ち上がりからの失点、かつ球際で勝てない、反応が遅い…。相手は勝てばJ1残留が決まることが分かっていたのに、どこか気の緩みがあった。難しい試合になると分かっていたのに、ああいう入りをしてしまった。試合に入り切れていない選手もいたし、本当に甘さが出たと思います」と武藤はあえて苦言を呈したのだ。
0−1で迎えた後半。吉田孝行監督は佐々木大樹や汰木康也ら持ち駒を次々と投入。強引に流れを変えようと試みたが、どうしても1点が遠い。そのまま試合終了かと思われたタイミングで、武藤と競り合った柏DFジエゴのペナルティエリア内でのファウルがあったとしてVAR、OFRを経てPKの判定。神戸には希望の光が差し込んだが、大迫がまさかの失敗。再び敗色濃厚の危機に追い込まれた。
VAR判定などで13分のアディショナルタイムが与えられたこともあり、そこから王者は凄まじい気迫で攻め続けた。そして試合時間が100分を経過した時、右CKから待望のシーンが訪れる。
扇原貴宏の蹴ったキックを相手がクリアし、酒井高徳が前線の大迫目掛けて浮き球のボールを上げた。次の瞬間、大迫からパスを受けた広瀬陸斗がシュート。GK松本健太が弾き、立田悠悟が大きく蹴り出そうとしたボールが奇しくもマテウス・トゥーレルに当たり、最終的に武藤の前にこぼれた。百戦錬磨の32歳の点取屋は冷静に左足を一閃。勝ち点1につながる大きな一撃をお見舞いしたのだ。
一度はオフサイドと判定され、本人も諦めかけたという。しかし、長いVARチェックの結果、得点と認められ、武藤はユニフォームを脱いでゴール裏へ駆け寄り、歓喜を爆発させた。これほどまでに感情を強く押し出すのは滅多にないこと。それだけこの1点の意味が大きかった。
「町田(ゼルビア)もいますし、(サンフレッチェ)広島もいて、勝ち点0という結果が僕らにとってどれだけ不利になるかは自分も分かっていた。勝ち点1を取ることで自力で優勝を決められる形に持っていける。そういう意味で、この1の大きさは計り知れないものでしたね」と武藤はしみじみとゴールを噛み締めていた。
確かに、ライバルの動向に関係なく、12月8日の最終節、湘南ベルマーレ戦を勝ち切ればいいというのは極めてシンプル。神戸にとっては間違いなくアドバンテージだ。そのうえで連覇を果たせれば、背番号11の柏戦での大仕事がひと際、大きな意味を持つことになる。
“今季MVPの有力候補”という見方も強まっているが、本当にそうなる可能性も少なくない。2021年夏の神戸入り後、つねに重要な役割を果たしながら、大迫、山口蛍、酒井のやや後ろからチームを支える選手というイメージの強かった武藤。その彼が“真のエース”と認められるのは理想的だ。
数字を見ても、今季35試合出場11ゴールの大迫に対し、武藤は36試合出場12ゴールと上回っている。天皇杯決勝の宮代大聖の決勝弾のアシストもそうだが、今の彼が“重要局面でチームを勝たせられる男”になっているのは紛れもない事実。「ダメなものはダメ」と容赦なく苦言を呈することができる強靭なメンタルや飽くなき闘争心を含め、その存在感は頭抜けたものがあるのだ。
武藤が作ったいい流れを持続し、1週間後の湘南との最終決戦で彼自身がゴールを奪って今季2冠を決められれば、まさに最高のシナリオだ。本人もFC東京時代の2014年に挙げたシーズン14得点を超えたいという気持ちも少なからずあるだろう。そのためにはあと3点が必要になる。それは高いハードルに他ならないが、決して不可能とは言い切れない。ここまで来たら、キャリアハイの得点数を貪欲に追い求めるべき。
「勝てば優勝ということでワクワクしていますし、自力でつかみ取りたい。僕自身もこの1シーズンをフルに戦ってきて、最後の目の前でトロフィーを逃すわけにはいかない。どれだけ疲労があっても、どれだけ痛みがあっても、チームの勝利のために全てを捧げたい」と本人も語気を強めた。
1週間後、果たして武藤はどんなラストを迎えるのか…。いずれにしても、彼の持てる全ての力を出し切ってもらいたい。
取材・文=元川悦子
週中の26日にはAFCチャンピオンズリーグエリートのセントラルコースト・マリナーズ戦も消化。大迫勇也、武藤嘉紀ら主力級の大半は欠場し、しっかりとリフレッシュして大一番に挑んだはずだった。が、この日は序盤から柏の迫力に押されてしまう。開始早々の5分に相手左CKから木下康介に打点の高いヘッドで先制点を奪われ、一方的な劣勢に。前半20分過ぎまでシュートを1本も打てないという厳しい内容を強いられた。
「立ち上がりからの失点、かつ球際で勝てない、反応が遅い…。相手は勝てばJ1残留が決まることが分かっていたのに、どこか気の緩みがあった。難しい試合になると分かっていたのに、ああいう入りをしてしまった。試合に入り切れていない選手もいたし、本当に甘さが出たと思います」と武藤はあえて苦言を呈したのだ。
0−1で迎えた後半。吉田孝行監督は佐々木大樹や汰木康也ら持ち駒を次々と投入。強引に流れを変えようと試みたが、どうしても1点が遠い。そのまま試合終了かと思われたタイミングで、武藤と競り合った柏DFジエゴのペナルティエリア内でのファウルがあったとしてVAR、OFRを経てPKの判定。神戸には希望の光が差し込んだが、大迫がまさかの失敗。再び敗色濃厚の危機に追い込まれた。
VAR判定などで13分のアディショナルタイムが与えられたこともあり、そこから王者は凄まじい気迫で攻め続けた。そして試合時間が100分を経過した時、右CKから待望のシーンが訪れる。
扇原貴宏の蹴ったキックを相手がクリアし、酒井高徳が前線の大迫目掛けて浮き球のボールを上げた。次の瞬間、大迫からパスを受けた広瀬陸斗がシュート。GK松本健太が弾き、立田悠悟が大きく蹴り出そうとしたボールが奇しくもマテウス・トゥーレルに当たり、最終的に武藤の前にこぼれた。百戦錬磨の32歳の点取屋は冷静に左足を一閃。勝ち点1につながる大きな一撃をお見舞いしたのだ。
一度はオフサイドと判定され、本人も諦めかけたという。しかし、長いVARチェックの結果、得点と認められ、武藤はユニフォームを脱いでゴール裏へ駆け寄り、歓喜を爆発させた。これほどまでに感情を強く押し出すのは滅多にないこと。それだけこの1点の意味が大きかった。
「町田(ゼルビア)もいますし、(サンフレッチェ)広島もいて、勝ち点0という結果が僕らにとってどれだけ不利になるかは自分も分かっていた。勝ち点1を取ることで自力で優勝を決められる形に持っていける。そういう意味で、この1の大きさは計り知れないものでしたね」と武藤はしみじみとゴールを噛み締めていた。
確かに、ライバルの動向に関係なく、12月8日の最終節、湘南ベルマーレ戦を勝ち切ればいいというのは極めてシンプル。神戸にとっては間違いなくアドバンテージだ。そのうえで連覇を果たせれば、背番号11の柏戦での大仕事がひと際、大きな意味を持つことになる。
“今季MVPの有力候補”という見方も強まっているが、本当にそうなる可能性も少なくない。2021年夏の神戸入り後、つねに重要な役割を果たしながら、大迫、山口蛍、酒井のやや後ろからチームを支える選手というイメージの強かった武藤。その彼が“真のエース”と認められるのは理想的だ。
数字を見ても、今季35試合出場11ゴールの大迫に対し、武藤は36試合出場12ゴールと上回っている。天皇杯決勝の宮代大聖の決勝弾のアシストもそうだが、今の彼が“重要局面でチームを勝たせられる男”になっているのは紛れもない事実。「ダメなものはダメ」と容赦なく苦言を呈することができる強靭なメンタルや飽くなき闘争心を含め、その存在感は頭抜けたものがあるのだ。
武藤が作ったいい流れを持続し、1週間後の湘南との最終決戦で彼自身がゴールを奪って今季2冠を決められれば、まさに最高のシナリオだ。本人もFC東京時代の2014年に挙げたシーズン14得点を超えたいという気持ちも少なからずあるだろう。そのためにはあと3点が必要になる。それは高いハードルに他ならないが、決して不可能とは言い切れない。ここまで来たら、キャリアハイの得点数を貪欲に追い求めるべき。
「勝てば優勝ということでワクワクしていますし、自力でつかみ取りたい。僕自身もこの1シーズンをフルに戦ってきて、最後の目の前でトロフィーを逃すわけにはいかない。どれだけ疲労があっても、どれだけ痛みがあっても、チームの勝利のために全てを捧げたい」と本人も語気を強めた。
1週間後、果たして武藤はどんなラストを迎えるのか…。いずれにしても、彼の持てる全ての力を出し切ってもらいたい。
取材・文=元川悦子