「地獄」からの生還…駒大・佐藤圭汰が10か月ぶりのレースで爆走、7区で区間記録を1分近くも塗り替えられた理由

2025年1月10日(金)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


青学大との差を一気に2分27秒も短縮

 箱根駅伝の復路。トップの青学大は6区終了時で2位の中大に3分49秒、3位の駒大に4分07秒という大差をつけていた。勝負は決まったかと思われたが、駒大は当日変更で7区に佐藤圭汰(3年)を投入。“ラストチャンス”にかけていた。

 駒大・藤田敦史監督は谷中晴(1年)の調子が上がっていなかったこともあり、佐藤を3区に起用するプランも持っていた。しかし、3区と7区、どちらのほうがアドバンテージを得られるのかを考えたという。

「3区は圭汰でもそれほど差をつけられませんが、7区なら差がつけられる。谷中も復調したので、復路でもう1回チャンスを作れると思って、戦略的に圭汰を7区に置いたんです」

 この采配がズバッとハマった。

 佐藤は18秒先にスタートした中大に4.7km付近で並ぶと、7km過ぎから引き離していく。そして見えない青学大の背中を追いかけた。10kmを28分21秒で通過するなど区間記録を上回るペースで攻め込んだ。そして区間記録(1時間01分40秒/明大・阿部弘輝)を1分近くも塗り替える1時間00分43秒という異次元の爆走を見せたのだ。

 トップ青学大との差を一気に2分27秒も短縮。両者の差は1分40秒となり、王者に強烈な一撃を浴びせることに成功した。佐藤の快走で駒大は復路新記録で復路Vに輝いた。


「地獄」からの生還

 5000mで13分09秒45の日本人学生最高記録、10000mで日本人学生歴代3位の27分28秒50を持つ佐藤。彼のポテンシャルを考えれば、7区での快走は当たり前に思えるかもしれない。

 しかし、今回の佐藤は故障に苦しみ、「絶望」を味わっていた。昨年4月に恥骨の疲労骨折が判明。6月に完治して練習を再開するも、9月に再び、恥骨を痛めた。「競技復帰できるのか」と佐藤は苦しんだという。

「絶望しかなくて、地獄みたいでした。でも同じ個所を痛めたことで、自分の弱い部分がわかりましたし、自分のカラダを見つめ直すいい機会になったなと思います」

 そして10月半ばぐらいから本格的な練習を再開して、コンディション的には「70%」だった。昨年3月に米国で行われたThe TEN(10000m27分34秒66)以来、約10か月ぶりのレースに怪物・佐藤も「めちゃくちゃ緊張した」という。それでも「自分の力通りで走れば区間記録を1分は更新できると思っていた」というから驚きだ。

「20kmも走れるのかなという不安もあったんですが、いざ走ってみれば余裕を持って走ることができましたね。本当は後半にペースを上げたかったんですけど、18kmくらいからちょっと落ちてしまったので、練習不足、距離走不足を感じました。それでも、ある程度まとめて走れたのは良かったなと思います」


2度目の箱根駅伝で“進化”を証明

 佐藤は前回の箱根駅伝3区で日本人最高記録(当時)を42秒も上回る1時間00分13秒で駆け抜けたが、青学大・太田蒼生に26秒差で敗れている。今年は昨年よりも状態は良くなかったが、以前と比べて、“進化した走り”を披露した。

「同じ個所を痛めたことで、フォーム改善に力を入れてきました。恥骨をケガした原因として内転筋とお尻の筋肉が弱いことがわかり、その部分を強化したことで、接地が良くなったと思います。腕振りも以前は右腕をダイナミックに振っていたんですけど、いまは結構コンパクトにバランスよく振れるようになって、楽にスピードが出せるフォームになった。そこは以前より成長できているのかなと感じます」

 10か月ぶりの実戦で佐藤は“新たな感覚”をつかんだようだ。

 そして佐藤が目指す背中は過去の日本人では考えられないほどスケールが大きい。世界陸上の5000mを連覇して、昨年のパリ五輪5000mでも金メダルを獲得したヤコブ・インゲブリクトセン(ノルウェー)だ。

「自分はアフリカ勢が相手でも負けない走りをするヤコブ選手に憧れているので、彼の走りを研究しています。ケガで走れない時期もヤコブ選手が活躍した動画を観て、自分もこういう選手になりたい、自分も高い目標を持って取り組んでいこうという気持ちになったんです」

 箱根駅伝を終えた佐藤は、すでに次の目標に切り替わっている。

「昨季ほとんどレースに出られなかった悔しさを今年9月の東京世界陸上で晴らしたいと思っています。まずは出場権を得られるように、5000mで12分台を出したい。そのためには1500mと3000mの能力も必要です。自分は明日から1500m(3分35秒42)、3000m(7分40秒09)、5000m(13分08秒40)で日本記録の更新を目標にやっていきます」

“地獄”から生還した佐藤圭汰。箱根駅伝の快走をステップに次は世界の舞台へ切り込んでいく。

筆者:酒井 政人

JBpress

「駒大」をもっと詳しく

「駒大」のニュース

「駒大」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ