哲学者/山口大学国際総合科学部教授・小川仁志さんが選ぶ「自分を見つける本5冊」

2023年1月27日(金)11時0分 ソトコト

*30代の先輩からU30の皆さんへ。今回は先輩たちの選書を通して、U30の皆さんに、自分たちにもこれからやってくる30代をより豊かに、気持ちいい生き方をしてもらえたらと思い、11名の方に本を選んでいただいています。





古代ギリシャの哲学者・ソクラテスは「ただ生きるのではなく、善く生きる」ことを説きました。そのためのツールが哲学です。「善く生きる」とは、「日々楽しく生きること」であり、そのための示唆を哲学は与えてくれます。
数ある哲学書の中で、まず読んでほしいと思うのが、バートランド・ラッセルが著した『ラッセル 幸福論』です。若い頃は、私と同じように内向的だったラッセルは、幸福になるための方法として「外に関心を向け、好奇心を持つ」こと、つまり「趣味を持ちなさい」と説いています。「趣味」とは、言い換えれば熱中できる何かであり、それがあると人生がわくわくするもののことです。私も人生がどん底だった30歳の頃、哲学の入門書を夢中になって読み漁り、人生が好転していきました。私の関心を外に向けてくれた趣味にあたるのが哲学なのです。また「趣味」があることで、苦しんだり、悩んだり、悲しんだりしていても、そこから抜け出し、客観的に自分を見つめ直すことができる、ともラッセルは言っています。私がこの本を読んだのは哲学を学び始めた後だったのですが、もっと若い頃に出合いたかった、と思う本です。
『エリック・ホッファー自伝』は書名のとおり、ドイツの哲学者・ホッファーの自伝です。生涯、港湾労働者として働きながら独学で学び、数々の哲学書を著した彼の人生は、まさに「数奇」と呼べるもので、人間的な魅力にあふれています。苦難に満ちた人生でしたが、彼は「自分を愛すること」を貫きました。「自分を愛すること」は、すなわち周囲の人を愛し、幸せにすることであり、自分が背負いきれる以上のものを求めない、つまり欲望をコントロールして生きることだ、と彼の人生から伝わってきます。
人には欲望があり、特に若い頃は必要以上に、刺激や物、評価などを求めてしまいます。私もそうでした。そういうとき、実は人は無理をしていて、「自分を愛していない」、ということに気づかされます。ホッファーのように生きられたらと思い、無理をしすぎず、自分をいたわるライフスタイルに変えられました。
哲学というと難しい、理屈っぽい、とっつきにくい、と思われがちですが、けっしてそんなことはありません。今まで自分がとらわれていた世の中の見方、考え方に、違う視点を与えてくれるものだと思っています。哲学に触れることで、新しい世界が開けると思います。


これからの「正義」の話をしよう ─いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル著、鬼澤 忍訳、早川書房刊





〈想像〉のレッスン
鷲田清一著、NTT出版刊





すばらしい新世界
オルダス・ハクスリー著、大森望訳、早川書房刊








photographs by Yuichi Maruya text by Reiko Hisashima


記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

ソトコト

「哲学者」をもっと詳しく

「哲学者」のニュース

「哲学者」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ