原因不明の足の痛み・しびれは、足首のゆるみが原因かも。整形外科医が解説する、坐骨神経痛のメカニズムと対策
2025年2月27日(木)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
厚生労働省の「令和5年 国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の1日の歩数の平均値は男性が6628歩、女性が5659歩で、直近10年間でみると男女ともに減少しているそうです。そのようななか「人生100年時代、健康寿命を延ばすにはいつまでも自分の足で歩けることが一番大切」と話すのは、整形外科医・末梢神経外科医の萩原祐介先生です。そこで今回は、萩原先生の著書『いつまでも自分で歩ける100歳足のつくり方』から、元気に歩き続けるためのポイントの一部をご紹介します。
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あらゆる神経痛に共通する特徴
足首のゆるみが原因となって神経がダメージを受ける痛みについて、説明します。
神経の圧迫と、神経の牽引についてです。この2つには、センサーに相当する末梢神経が、押されたり、引っぱられたり、なんらかの原因でダメージを与えられて、その末梢神経の経路に沿って痛みを感じているという共通点があります。このような痛みのことを総称して、「神経痛」といいます。
とくに、坐骨神経という末梢神経に沿って生じる痛みは、「坐骨神経痛」と呼ばれています。
あらゆる神経痛には、ダメージを受けた箇所より末端側にはしびれが生じ、中央側には痛みが生じやすいという共通の特徴があります。
足首が原因で起こる痛みのメカニズム
では、神経の圧迫、足根管症候群を例に、その「痛みのメカニズム」を説明していきます。
足首近くのせまいトンネル足根管で末梢神経(坐骨神経から枝分かれした後脛骨神経)が圧迫されてダメージを受けました。このとき、圧迫された箇所(足根管)より体の末端側、つまり足裏や足先でしびれが発生します。
『いつまでも自分で歩ける100歳足のつくり方』(著:萩原祐介/河出書房新社)
正座をして足がしびれると、足先は感覚がなくなりますよね? あれを思い出してもらうとわかると思います。圧迫によってダメージを受けた箇所があると、それより先には感覚が伝わらない。それがしびれです。
その一方、痛みは、ダメージを受けた箇所より体の中央側に出ます。実際に痛めつけられている場所とは関係のない場所が痛くなるのです。
これはふだんの生活ではないことなので、なかなか想像しにくいかもしれませんが、イメージとしてはこんな感じです。「事故現場」からは痛いという感覚を伝えることができなくなってしまったので、その代わりに「異常信号」を中央側に送ります。そしてその異常信号をたまたま感知できた場所があると、その場所が代わりに痛くなるのです。
具体的には、膝や大腿、お尻などに痛みが出るのですが、痛む場所にはなんの問題もありません。痛みの信号を受信して、原因箇所の代わりに情報を伝えただけです。
坐骨神経は非常に長い神経で、足首で発生した神経のダメージが、お尻で感知されてもなかなか結びつかないのは、無理もないことです。
誤った見立てで診察されてしまうことも
末梢神経をふだんからあつかっていない整形外科医だと、こうした事実に思い当たらず、誤った見立てで診察してしまうことがあるようです。
じつは、坐骨神経痛を多くとりあつかっている整形外科医でも、足首のゆるみが原因となる坐骨神経痛の存在に気づいていない人が数多くいて、「原因不明の坐骨神経痛」として、治ることのない「治療」を行っている場合があるのです。私の診察室には、そのような患者さんが数多くいらしています。
私も学会で論文を発表したり、一般書を出版したりして、ひとりでも多くの患者さんや医師に、「足首が原因の坐骨神経痛」があることを発信しています。
神経痛は、原因が明らかで治療方法もある病気です。原因不明としてほぼ放置されて、歩行困難になってしまうようなことは避けてほしいと願っています。
神経のダメージは1日1ミリずつ回復する
足首の神経にダメージを受けていると見抜くことができず、適切な治療を行わないでいると、坐骨神経痛の痛みが強くなったり、痛みの範囲が広がったりしてしまいます。
原因をそのままにして、長時間にわたって高い負荷の運動を行ったり、連続して何日もくり返したりしていると、症状がより悪化しかねません。
とはいえ、歩くこともせず、ただひたすら安静に努めるというのも考えものです。そもそも、移動することなく生活すること自体が困難です。
また、安静にしようとしてできるだけ痛みを感じない姿勢を保とうとすると、本来動かさなければいけない関節を動かさないことで、関節が硬くなって可動域がせまくなったり動かなくなったりする「関節拘縮」が起こってしまう恐れがあります。
無理に運動しても、逆に動きを制限しても、悪ければ歩行困難になってしまうのです。
でも大丈夫です!
足首の神経障害による坐骨神経痛であると、正しい原因を特定できれば、打つ手はあります。
そして、原因と結果をよく分析して、再発を防止しましょう。神経障害の原因を取り除けば、保存療法で症状を改善させることも十分期待できます。もちろん、さらなる根本治療をめざして、手術を検討したり、対症療法を活用して日々の暮らしの質を上げたりするのもいいでしょう。
ただし、神経のダメージが回復に必要な時間は、1日1ミリと言われています。たとえば傷んでいる範囲が30センチメートルであれば300日、およそ10カ月を要するということです。ダメージを受けている時間が長ければ長いほど損傷箇所の長さも伸びていきますので、覚悟を決めて取り組みましょう。
なによりも、できるだけ早く改善に着手することが重要です。
※本稿は、『いつまでも自分で歩ける100歳足のつくり方』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。