90歳団地ひとり暮らしの多良美智子「良妻賢母でいたくて、いつもイライラしていた子育て期。次男のあるひと言から〈お母さんじゃなくてもいい〉と切り替えて」
2025年4月10日(木)12時30分 婦人公論.jp
「自分ひとりで、子育ても家事もがんばらないといけないと思って、いつもイライラしていました」(写真提供『90年、無理をしない生き方』すばる舎/撮影:林ひろし)
85歳で孫と一緒に始めた、古い団地でのひとり暮らしを紹介するYouTubeチャンネル『Earthおばあちゃんねる』が人気となり、著書も累計18万部の大ヒット。それでも、毎日の暮らしは変わらないと話す多良美智子さん。90歳を迎え、体の衰えはあっても「無理をしない」生き方で、日々機嫌よく暮らしています。そんな美智子さんの90年の人生を振り返った著書『90年、無理をしない生き方』から、いくつになっても機嫌よく過ごす秘訣を紹介します。
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子どもたちを怒ってばかりだった私が一変した日
長男が小学校1年、次男が幼稚園の頃、子どもたちを怒ってばかりいました。
ある日、カーッとなって、30cmの物差しを振り上げて、子どもたちのお尻を叩こうとしました。すると、次男が「ママ、こわい」と言うのです。今までそんなこと言われたことがなかったから、ハッとして、物差しをおろしました。
そして、その瞬間、急に気持ちが切り替わり、「いい母親ぶるのはやめよう」と思ったのです。
夫は仕事が忙しくて、家には子どもたちと私だけ。次男はおもちゃを散らかすし、長男はランドセルを投げ捨てる。片づけても片づけても、すぐに散らかります。
ごはんの支度をして子どもたちに食べさせないといけないし、お風呂にも入れないといけない。夫が帰ってきたら、スッキリきれいな部屋で迎えてあげたいのに、それができない……。
自分ひとりで、子育ても家事もがんばらないといけないと思って、いつもイライラしていました。九州から引っ越してきて間もないから、近くに話せる友達もいません。夫には、新しい仕事に注力してほしかったから、家のことは話せませんでした。
良妻賢母でいたかったんでしょうね。夫からは「部屋が散らかっている」と言われたわけではなかったのに、自分で思い込んでしまった。母が家をいつでもきれいに片づけていたので、そのイメージが染みついていました。
次男のひと言で我に返って、それからは、「お母さんじゃなくてもいい。友達やお姉さんのように接しよう」と切り替えました。
元々何事も切り替えが早いタイプでしたが、このときも不思議とパッと切り替えられました。心のどこかでは、イライラしている自分をどうにかしたいと思っていたのです。子どもたちが、私の顔色ばかり見ているなと気になっていましたから……。
部屋が散らかっていてもいい、ごはんの時間が遅くなってもいいと、いいかげんな母親になりました。
それまでは、片づけや家事に一生懸命で、子どもたちが話しかけてきても「後でね」と言っていましたが、必ず手を止めて「なあに?」と聞くように。
そうしたら、「僕もお手伝いする。今日はどのお皿を使うの?」「あなたの好きなお皿を持ってきていいのよ」なんて、どんどん打ち解けていきました。
ふたりともよくしゃべるようになって、私の顔色も見なくなったので、本当にほっとしました。
あの頃の自分の顔を想像すると、ゾッとします。鬼婆だったでしょうね。それからは怒ったことはありません。時々、意見の相違で言い争うことはありましたが。
怒らないと、子どもたちもちゃんとするんですね。片づけられるようにはならないけれど、一緒に片づけるようにはなりました。
それに私がいいかげんになったから、きちんとしていなくても、イライラしません。怒らなくなったことで、私もラクに子育てができるようになりました。
『90年、無理をしない生き方』(著:多良美智子/すばる舎)
ジャーマンポテト(上)茹でたじゃがいも、玉ねぎ、ベーコンを炒めて。孫たちに人気でした。/肉じゃが(下)肉は牛肉ではなく豚肉です。次男親子が来たとき、よく作ります。(写真提供『90年、無理をしない生き方』すばる舎/撮影:林ひろし)
孫には自活していく大切さを伝えています
当時、高校3年生だった孫(娘の息子)が、お正月にわが家にきたとき、部屋の隅っこでしょんぼりしていました。
娘が「今、学校に行ってないのよ」とこそっと教えてくれたので、孫を呼んで、「学校がいやだったら、やめてもいいのよ」と言いました。
あと3ヵ月足らずで卒業という時期、親だったらなかなか言えないことです。次男が大学をやめたいと言ったときは、私自身も悩んだからわかります。でも、祖母の立場なら、親とは違う視点のアドバイスができると思いました。
「そのかわり、手に職をつけなさい。自分ひとりで生きていけるような技術を身につけてごらんよ。おばあちゃん、調理師の専門学校に通ったけど、楽しかったわよ」
65歳の頃、母代わりだった4番目の姉が癌で亡くなり、落ち込んでいました。子どもたちが「何か好きなことをやりなよ」と背中を押してくれ、一念発起して調理師の専門学校に1年間通いました。そのことを例にして、孫を励ましたのです。
子どもの人生の選択は、親がしたらいけないですね。本人に選ばせないと。その後、孫は本当に高校をやめて、美容師の専門学校に通いました。今では、独立して自分のお店を出し、家族も持って、楽しく暮らしています。
娘と長男のところの孫たちは、みな社会人になり、もう心配はしていません。次男のところの孫は、まだ19歳の学生なので唯一気になる存在です。
孫が中学生の頃に、YouTube「Earthおばあちゃんねる」を一緒に始めました。モラや絵手紙などの作品、料理を動画に残しておけば、私が死んだときに家族が思い出してくれるかなと思ったのが、YouTubeを始めたきっかけです。
そして、パソコンが得意な孫が、その能力を伸ばせるきっかけになったらいいなとも思いました。思いがけず、たくさんの人に見ていただき、4年以上も続けることができています。
孫は高校卒業後、アニメーションの専門学校に入学しました。動画の制作ができる人として、学校でも一目置かれているようです。勉強が苦手だったので心配をしていましたが、好きな道を見つけました。
そして、小さい頃から「高校を卒業したら、パパの家を出るのよ」と言っていたら、本当に専門学校に入学と同時に、ひとり暮らしを始めました。好きなことをして飛びまわっているので、次男にも滅多に連絡はしないようで、親離れができたみたいです。孫よりも次男のほうが寂しがっていますね。
このまま好きなことが仕事につながって、孫が自立して生きてくれたらいいなと思っています。
※本稿は、『90年、無理をしない生き方』(多良美智子:著/すばる舎)
の一部を再編集したものです。
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