「余ったら捨てるしかない?」学級閉鎖で余った給食、どうなるの?【専門家に聞いた】
2025年4月11日(金)21時15分 All About
子どもたちの毎日の健康な生活を支える学校給食。今回は、食品ロス問題に詳しい専門家に「給食でロスしてしまった食材や食べ残しのゆくえ」についてお聞きしました。
今回は、学校現場で「やむを得ず余ってしまった食材のゆくえ」や、実際に行われている食品ロス対策について、食品ロスに詳しいジャーナリストの井出留美さんにお話を聞きました。
学級閉鎖などで発生した、やむを得ない食品ロス……どうしてる?
——学校では、学級閉鎖などでやむを得ず生じてしまう食品ロスがあるかと思います。それらについて現場ではどのような対応がされているのでしょうか。「学級閉鎖などでやむを得ず余ってしまった食材の扱いは、自治体や学校レベルで異なります。食品の安全性を考慮し、余ったものは全て廃棄するという判断をされている学校もあれば、食品として再利用、もしくはそれ以外の用途として再利用されているという例があります。
具体的な活用方法としては、各地域のフードバンクに食材を提供し、そこからこども食堂や社会福祉協議会などに役立ててもらうという例が多いようです。そのほかにも、新型コロナウイルス感染症が流行したころの臨時休校の対応として、学校給食で出せなくなったものを近隣の社会福祉施設に提供したという例もありました。
もちろん、そもそも食品ロスがないように、仕入れ時に鮮度をしっかり確認するということもされています。
こうした外部への引き渡しなどの活用ができるかどうかは、基本的に学校長の判断によります。学校自体が食品ロス問題に関心がある場合や、学校内に食品ロスへの意識が高い人が1人でもいるとその対応は変わってきます。
前述した活動は自治体や地域の方々との連携が必要なことですから、正直面倒な作業ではあります。それでも『なんとかロスしたものを活用しよう』という意識が高い学校で実施されているのだと思います。事実、こうした活動をしている学校はそれほど多いとは言えません」
——食用以外の用途としてロスしたものを使う場合は、どのような利用がされているのでしょうか。
「余った食材を堆肥にして校内菜園の肥料として使っている例はとても多いです。そのほか、学校で飼っているウサギなどのえさにしているという活用例もありますね。近隣にある動物園に寄付しているという例もあります。
それから、子どもたちが総合的な学習の時間の一環として、給食残さを花壇の肥料にするという活動を行っている事例もありました。職員が対応して終わらせるのではなく、子どもたちの学習の材料としても活用されているのは、子どもたち自身が普段食べているものに関心を寄せるいいきっかけですよね」
——食品ロス対策と食育やSDGsに関する教育が並行して行われる事例もあるのですね。
「そうですね。さらに、これは逆の発想ですが『ロスするはずだったもの』を給食に活用するという方法で食品ロスを減らしている事例もあります。
例えば、各学校では災害時に備えて用意している非常食のカンパンなどを定期的に入れ替えているのですが、入れ替えたものを給食の材料として活用している学校、ベジブロス(野菜の皮や切れ端)を使ってダシをとるという工夫をされたりしている学校などがあります。私も家でベジブロスを使ってスープをとることがあるのですが、とてもおいしいんですよ。カレーのスープに使ったり、リゾットに使ったりしています。
また、学校と地域の人が連携して互いに食品ロスを削減しようとする動きもあります。ある学校では、台風の影響で商品にできなくなったリンゴを農家さんから引き取って給食に活用したり、商品として規格外となってしまったゴボウの収穫体験を子どもたちがさせてもらい、給食に出したりするという事例もありました。
こうした活動は、学校と地域が相互に助け合うことで食品ロスを削減していく好例です。しかし、校内に調理室があり、柔軟に献立を工夫することができる学校でないとできないという側面もあります。どこの学校でもできることではありませんが、今後は地域と密接に連携した食品ロス対策にも注目、期待したいですね」
今、学校ではどんな食品ロスが発生しているの?

——学校によってさまざまな対策が行われているのですね。現在、学校における食べ残しを含む食材ロスにはどのような傾向があるのでしょうか。
「2015年の環境省の調査によると、1人の児童生徒が1年間に出す食品廃棄物の量は17.1kg。このうち7.1kgが食べ残し、調理の際に出る野菜の皮などの調理残さが5.6kgです。もちろん、ここには家庭での食事分は含まれていませんから、その量に驚く方もいるのではないでしょうか。食べ残しについては、やはり子どもたちが苦手な野菜、魚などが多い傾向にあるようです。
2015年以降は全国規模での調査はされていないようなので現在どのような数値となっているかは分かりませんが、SDGsに関わる教育課程などを通して積極的に食品ロスに向き合い、学校全体、もしくは自治体全体でこの数値の改善に取り組んでいる事例も少なくありません」
——昔は完食指導などもあり、苦手なものを長時間かけてでも残さず食べるよう指導された記憶もありますが、今はそのようなことは少ないのでしょうか。
「最近はそのような指導はあまり行われていないと思います。一人ひとりの食物アレルギーへの対応が求められているほか、かつての完食指導のせいで苦手を克服できなかった、会食がトラウマになってしまった大人がいることの反省から、一人ひとりが食べられる量を尊重して指導する傾向があるようです。
完食指導に関して、お茶の水女子大学の教授である赤松利恵先生は、ある調査で『小中学生の多くが、体調が悪くても給食を残さないように無理して食べる』と回答していたことをとても懸念されていました。決められた量を食べることを強制するのではなく『自分の身体の状態を考え、食べる量を調整するスキル』を身に付けさせることが重要だとも話しています。
こうしたことから、現在は給食の時間の前にその日の子どもの体調などを把握した上で、無理せず給食を楽しめるようにすることが求められていると思います。
あとは、そもそも『給食を食べる時間が少ない』ことも食べ残しの原因の1つと考えられています。子どもたちが食べる時間を確保する工夫をして、食品ロスを減らそうという動きもありますね」
季節によって味がちがう? 実は知らない学校給食の工夫
——調理や献立作成の段階で、食品ロスや食べ残し削減に向けた工夫はあるのでしょうか?「基本的なことで言えば、包丁ではなくピーラーなどで皮をむき、なるべく可食部を無駄にしないようにする、ブロッコリーなどは、これまで茎は捨てられることが多かったのですが、茎部分も使用するなどの工夫が行われています。
そのほかにも、夏は食欲が落ちてしまうので、ほかの時期よりも少し濃いめに味付けをするという工夫をしている学校もあります。また、栄養士が各教室を回って『自分が食べられる分だけよそってもらってね』などと声がけをし、一人ひとりが無理なく食べられるような環境づくりをしている栄養士さんもいらっしゃいます。
最近では、白いご飯が苦手な子どものために家庭からふりかけを持ってきてもよいというルールにしている学校もあります。調理段階でもさまざな工夫がされていますが、子ども一人ひとりが食べやすい食べ方により寛大になっているということですね」
各自治体によっては、給食がどのように作られているのか、ロスしてしまったものがどのように扱われているかなどをホームページで公開しています。今年度も多くの学校で始まる給食について、いつもとは違う面から注目してみるのもいいかもしれません。
井出 留美(いで・るみ)さんプロフィール
株式会社office 3.11 代表取締役、ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長を歴任し、食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞など受賞。
この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
(文:大塚 ようこ)