《ガリガリのビキニ姿》自称7歳のオジサン館長がお出迎え……「入館からわずか5分で来場者が精神崩壊する」博物館がヤバすぎた!

2025年4月19日(土)9時0分 文春オンライン

 レインボーのウィッグを付けたビキニ姿の男性館長がお出迎えし、「入館からわずか5分で来場者が精神崩壊する」と言われる博物館が、都内からそう遠くない場所にあるのをご存じだろうか。静岡県伊東市にある「まぼろし博覧会」だ。『 珍パク 関東近郊マニアック博物館の世界 』(大関 直樹著、山と渓谷社)より一部抜粋し、同博物館の展示物や思想を紹介する。ゴールデンウイークのお出かけ先候補にもうってつけだ。



静岡県にある珍パクが「まぼろし博覧会」だ(公式HPより引用)


◆◆◆


「設定年齢7歳」のビキニ男性が館長を務める博物館


「入って5分で精神崩壊する遊園地」「キモかわいい楽園」「日本最高峰のディープスポット」など、数々の異名をもつ私設博物館「まぼろし博覧会」。東京ドームのグラウンドと、ほぼ同じ広さという敷地内には、怪しいオブジェ、昭和レトロなおもちゃ、朽ちた動物の剥製など、古今東西の珍品が所狭しと並んでいる。園内は「大仏殿」「まぼろし神社」「ほろ酔い横丁」など、いくつかのエリアに分かれているが、無秩序に置かれた展示物が放つカオスなオーラは、実際に足を踏み入れなければわからない。


 このB級スポットの聖地ともいえる「まぼろし博覧会」は、2011(平成23)年の開園以来、サブカル好きの心を鷲掴みにし、日本はもちろん世界中から年間4〜5万人が訪れるという。メディアでの露出も多く、2022(令和4)年にNHKの番組『ドキュメント72時間』に取り上げられたことをきっかけに、さらに人気が爆発。同番組の年間ベスト10では第5位に選ばれた。


 そして、この館長を務めているのが、設定年齢7歳のセーラちゃんだ。取材当日はレインボーのウイッグをつけ、小麦色に焼けたスレンダーな肢体をビキニで包んだ姿で迎えてくれた。 実は、セーラちゃんは館長のほかにも、東京の出版社社長というもうひとつの顔をもっている。


《ガリガリのビキニ姿》自称7歳のオジサン館長


 「その出版社で、1992(平成4)年に『野生ネコの百科』というネコ科動物を網羅した図鑑を作ったら、2万部も売れたんですよ。それで写真ではなく、リアルな展示ができるものを作ったらおもしろいんじゃないかと思って、『ねこの博物館』をオープンしました。続いて『ペンギン博物館』も作ったんですけれど、そちらはあまり人が来なくて5年で閉館。その跡地に昭和レトロをテーマにした『怪しい少年少女博物館』を作ったんです。それが『まぼろし博覧会』のルーツですね」


 「怪しい少年少女博物館」はそれほど広くなかったため、増え続ける展示物でいっぱいになってしまった。そこで、新しく博物館ができる場所を探していたところ、閉園後約10年間放置されていた廃墟の熱帯植物園を発見した。


 「見つけた瞬間、これだ!と思いましたよ。山を背にした傾斜地で、『水滸伝』に登場する梁山泊を思わせるでしょ。平らで真四角な場所って、展示物を配置するのは簡単ですが、見る側にとってはおもしろみに欠けるんですよ。こういう傾斜があると、先が見通せないから、次に何が出てくるか予測できない。お化け屋敷のようなワクワク感が生まれるんです」


 展示物を飾るときも図面は作らない。図面を作ってしまうと、そのとおりにすることに自分がとらわれて、思考が停止してしまうからだ。


 「図面を作るのはしっかり計画しているようにみえますが、僕から言わせると怠慢なんですよ。自分のやりたいことに忠実でなくなってしまう。だから、図面なんか作らずアドリブで飾ればいいんです。その結果、多少歪んでしまっても、それでいい。だいたい、人の生き方自体がアドリブみたいなものじゃないですか。こうしたいと思っていたって、そのとおりにいくことなんてめったにない。その場その場で考えて、道を切り拓いていくものなんです」


 なるほどですね!と相槌を打ってみたものの、博物館の展示方法と人生を同じ視点で語るのは、ちょっと強引な気もする。ただ、関西訛でハスキーボイスのセーラちゃんにビキニ姿で語られると、つい話に引き込まれてしまう。


「位牌はOK、遺体はNG」 雑然とする園内を歩いてみると……


 園内を歩いてみると、先ほどの話のようにアップダウンが多く、迷路に迷い込んでしまったかのような雰囲気だ。そこに閉鎖された秘宝館から集められたアイテムや昭和の家具、食器などが雑然と並んでいる。セーラちゃんによると「展示物は探さないし、選ばない」とのこと。生もの、違法なもの、弱者差別を助長するもの、危険なもの以外は集まってきたもの、すべてを展示している。


 「簡単に言うと『位牌はOK、遺体はNG』ってことですね。展示物を探そうとすると、どうしても自分の好みが入ってしまい、偏ってしまうでしょう。そうではなくて、庶民が現実の生活のなかで実際に使い、残してきたものすべてを展示したいんですよ」


 セーラちゃんの考えでは、「博物館は世の中にある希少で貴重なものではなく、ありふれた日常品を展示すべき」という。なぜなら、学問的価値のあるものは、ほとんどが庶民の生活とは関係がないからだ。「庶民の生活の痕跡こそを『ミュージアム』で展示すべきである」という考えから、まぼろし博覧会では、使われなくなったパチンコ台やおばあちゃんの遺品の人形なども飾られている。


 「普通の博物館は、大昔のものばかり展示しているでしょう。専門家や歴史オタクはそれを見て、『いいな』と思うかもしれないけれど、庶民が、そんな古いことを知ったからってどうなんですか? 自分が生きている時代以外のことを知っても、何の意味があるのかなって思います。私からすると、化石や古代遺跡をありがたがるなんて、趣味の範疇でしかないんですよ」


 ひとつの考え方としては、とてもおもしろい。一般的な博物館にあるものが、無価値だとは思わないが、セーラちゃんのような人がいないと、「まぼろし博覧会」は誕生しなかっただろう。世の常識に疑問を投げかけ、我が道を行く。セーラちゃんのスタンスが、だんだんわかってきた。


「精神なんて崩壊したほうがいい」


 冒頭でも触れたが、まぼろし博覧会のことを「入って5分で精神崩壊する遊園地」と呼んだ人がいたが、セーラちゃんはとても光栄に思っているという。


 「よく考えてみてください。私たちの精神って、誰がつくったのかもわからない常識や倫理、秩序にがんじがらめになっているじゃないですか。そんな精神なんて崩壊したほうがいいんです。そして壊れたところから、自分自身で新しい精神をつくり上げればいい。社会に縛られた精神に閉じ込められて生きるなんて、つまらなくないですか?」


 セーラちゃんのアジテーションは、さらに続く。


「今の世の中で、競争が肯定されていることもおかしいと思うんですよ。競争があるからこそ、敗者や不幸が生まれる。たとえば、小学校の運動会で競争するじゃないですか。あれに何の意味があるんですか? 単なる見世物でしょう。もちろん資本主義社会のなかで、競争をなくすことが簡単なことじゃないことは理解しています。でも、難しいからといって諦めたら、何も変わりませんよね」


 彼女がこの博物館を作ったのは、常識やモラルに対するアンチテーゼなのだ。単にサブカルが好きというわけではなく、現代社会に対して「No!」を言い続けるためなのではないかと思う。


(大関 直樹/Webオリジナル(外部転載))

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