科学者が人間の視覚を操作し、これまで誰も見たことのない新たな色「オロ」を見せることに成功

2025年4月21日(月)20時0分 カラパイア


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 アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、人間の視覚を人工的に操作し、「オロ(Olo)」と名付けられたこれまで誰も見たことのない新たな色を見せることに成功した。


 実験に参加した5人の被験者によると、それは「見たこともないほど鮮やかな青緑」であるという。


 この技術は、網膜の視細胞を個別に刺激することで、自然な条件では決して見えない色を脳に感じさせるというもので、色覚異常の補助や視覚の仕組みの解明にも応用が期待されている。


 研究チームはこの技術に「Oz(オズ)」と名付けた。これは童話『オズの魔法使い』の物語に出てくるエメラルドの都にちなんだもので、視覚を通じて人間の世界の見え方そのものを変えるという発想が重ねられている。


 本研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adu1052]』(2025年4月18日付)に掲載された。


私たちはどうやって色を感じているのか?


 私たちが光を感じられるのは、網膜にある「桿体細胞[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%BF%E4%BD%93%E7%B4%B0%E8%83%9E](かんたいさいぼう)」と「錐体細胞(すいたいさいぼう)」のおかげだ。


 暗いところで機能する桿体細胞は、光の明暗を感じ取ってくれる。一方、錐体細胞は明るいところでしか機能しないが、明るさだけでなく、赤・緑・青の色まで感じることができる。


 錐体細胞から色を感じ取れるのは、3種類の錐体がそれぞれ違う光の波長に反応するからだ。すなわち「L錐体」は長い波長、「M錐体」は中波長、「S錐体」は短い波長に敏感で、脳はこれらの反応パターンを解釈してさまざまな色彩を認識している。


 このうち、M錐体は緑と解釈される波長にとりわけ敏感なのだが、「L錐体」と「S錐体」が得意な波長にも反応する。だから通常なら、M錐体だけが活性化することはない。


 今回のカリフォルニア大学バークレー校をはじめとする研究チームが出現させたオロ色のプロジェクトは、このM錐体を単独で活性化させたら何が起きるのかという疑問から始まった。



「M錐体」が反応する波長は「L錐体」と「S錐体」の波長と重複している。だから通常はM錐体だけが活性化することはない/Image credit: By BenRG – Own work, Public Domain,[https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7873848]


未体験の色「オロ」を出現させるオズの魔法使いのマジック


 そのために考案された網膜刺激手法は「Oz(オズ)」と命名されている。これは「オズの魔法使い」で語られた、まばゆすぎて緑色のメガネが必要になるエメラルド[https://karapaia.com/archives/52267055.html]の都のエピソードにちなんだものだ。


 Oz法には、人それぞれに固有の網膜マップが必要になる。そこで研究チームはまず、網膜の映像を複数撮影し、これをつなぎ合わせて組織の全体像を作成。


 次に補償光学光干渉断層計を利用して、錐体細胞に光を当てたときの形状変化を測定し、各種錐体がどう分布しているのか調べ、網膜のマップを完成させた。


 そのうえで、5人の被験者の網膜に微弱な可視光レーザーを照射し、M錐体だけを狙い撃ちする。その結果、目に映ったのが「olo(オロ)」という初体験の色彩である。


 「olo」とは、色空間の三次元座標「0, 1, 0」からつけられた名称だ。すなわち「0, 1, 0」は、M錐体だけが刺激されていること表している。これをアルファベットに見立てたのが「olo」だ。


 人類が初体験したその色を想像するなら、まずは緑色レーザーポインターの光を思い浮かべるといい。


 それを極限まで鮮やかにしたのがオロ色だ。一度オロ色を体験すると、レーザーポインターの光すら淡く感じられるほどの鮮やかさであるという。



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オロ色の先にある光と科学の魔法


 カリフォルニア大学バークレー校の博士課程の学生ジェームズ・フォン氏によると、「究極の目標は網膜上のすべての光受容細胞をプログラム制御できるようにすること」であるそうだ。


 それを高い精度で実現できれば、さまざまな眼の病気の状態を再現して視力障害のメカニズムを調べたり、容体の欠損で色覚異常になった眼に色を取り戻すことも可能になるかもしれない。


 理論的にはテレビやスマートフォンのディスプレイへの応用もできそうだが、フォン氏によれば現在のOz法は「特殊なレーザーと光学機器が不可欠であるため、スマートフォンやテレビには搭載されない」とのこと。


 なのでオロ色を体験できるのは、今のところ、ごく一握りの幸運な人のみということになる。


References: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adu1052[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adu1052] / Scientists hijacked the human eye to get it to see a brand-new color. It's called 'olo.'[https://www.livescience.com/health/neuroscience/scientists-hijacked-the-human-eye-to-get-it-to-see-a-brand-new-color-its-called-olo] / Five people view a never-before-seen color called ‘olo’[https://www.popsci.com/health/new-color-green/]

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