要介護認定を受けた夫94歳、妻92歳の老夫婦。金銭管理を代行する長女夫婦による「経済的虐待」の実態とは。対処法を介護のプロが解説【2025マネー記事セレクション】

2025年4月29日(火)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

2024年に『婦人公論.jp』で反響を得た「マネー」に関する記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年12月11日)
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厚生労働省が公表した「介護保険事業状況報告(暫定)」によると、令和6年8月末時点の要介護(要支援)認定者数は、718.5万人だったそう。そのようななか、介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀さんは「長期戦の介護を乗り切るには、必要な情報を得ることと、そして事前の備えがとても大切」と話します。そこで今回は、河北さんの著書『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』から、「介護破産」を避けるための援助のポイントを実例とともにご紹介します。

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娘に財布を握られ病院も行けない老夫婦を救え


夫婦共に要介護認定を受けている老老介護のYさん夫妻

都内在住のYさん夫妻(夫94歳、妻92歳)。子どもは長女次女の二人ですが、それぞれ所帯を持ち今は夫婦二人暮らしです。ご夫婦共に要介護認定を受けており、夫は要支援2、妻は要介護1で認知症があります。

妻は数時間前のことは覚えていない、外出したら帰れない、同じ話を繰り返すなどの症状があり、それを94歳の夫がサポートするといういわゆる「老老介護」の世帯でした。

夫は辛抱強く妻を見守り、近所のデイサービスにも仲良く一緒に通う姿も見られていました。

「通院したい」という親の意向、長女は認めず


そんなある日、夫婦でデイサービスに行った際、夫がデイサービスの職員にこんなことを言いました。

「本当は妻を病院に連れて行きたいんだけど、前に外で転んだから外へ出るなって長女に言われているんだ。でも、長女も忙しいみたいでなかなか病院に付き添えないみたいだから、お宅のデイサービスの車で病院に連れて行ってもらえないかな?」というのです。

また、妻には糖尿病があり、放置したことで最近ますます視力が低下したようだと心配していました。

妻があまりにも「見えない見えない」というので市販の目薬を使わせているらしく、これを放置しては危険な状況だと判断した介護職員は、すぐにケアマネジャーへ連絡をしました。

この話を聞いたケアマネジャーも、すぐに通院介助が受けられるよう話を進めてくれたのですが、その話を聞きつけた長女は「両親に病院へ行くお金はないです。介護サービスも、勝手に増やされても困るので待って下さい。」と言ってきたのです。

定期預金や保険を解約すればお金はあるはず、ところが……


困ったケアマネジャーは、Yさん夫妻に確認しました。「長女さんが、病院にいくお金も追加の介護サービスのお金もないっていっているんだけど、実際はどうかしら?」と聞くと、夫は

「いや、1年前に俺の預金200万円を解約して長女に渡したから、お金はあるはずだよ。」と答えました。そして「お金のことは、長女に任せてるから。」とも言ったのです。

この時ケアマネジャーは、両親にはお金があるにも拘らず通院させない、介護サービスを利用させない長女の行為は、高齢者虐待の一つである「金銭的虐待」に該当するかもしれないと感じました。

これはチームで話し合いにあたった方がいいと考えたケアマネジャーは、地域包括支援センターへ連絡。Yさん夫婦と長女次女を交え話し合いの場を持つことにしました。

ところが、話し合いに出席予定だった長女は直前で「用事がある」と言って欠席。仕方なく、当日はキーパーソンの長女抜きで話し合いが始まりました。

競馬好きな長女の夫による「経済的虐待」と判明


話し合いの場に出席した次女によると、両親は持ち家であり年金も月20万円近く受け取っているため生活には困らないはず。またある程度貯えもあり、病院にも行けないということはないはずだと言いました。

そこで次女から長女へ連絡を取ってもらい、Y夫妻の200万円の預金はどうなっているのか問いただしました。

しかし、「忙しいから、まだ銀行へ行っていない。」というばかり。

そして何度か長女とやりとりをするうち、なにかやましいことがあるかのようにラインが一切既読にならなくなったというのです。

その後は区が介入。長女のことを調べたところ、長女の夫による預金の使い込みが判明。自分の生活費やギャンブルなどに使っていたことがわかりました。

援助のポイント・対処方法


「経済的虐待」は珍しいことではない

高齢者虐待の中でも、1位の身体的虐待に次いで多いのは「経済的虐待」です。お金のことは、介護事業者も把握することは難しく、公共料金や介護サービス利用料が滞ってはじめて「お金がない」ことが分かったりします。


(写真提供:Photo AC)

今回はキーパーソンとなった長女が親の金銭管理を代行していましたが、そもそも「夫がギャンブル好き」なのに、なぜ金銭管理を任せたのか?という適正も気になるところです。とはいえ、「親のことは長男・長女がやるもの」というY夫妻の考え方もあったのかもしれません。

兄弟の一人が親の金銭管理をするのであれば、毎月通帳の記帳頁を全員で共有する、親に見せるというルールを最初に作っておくべきでしょう。

「日常生活自立支援事業」

子が親の金銭管理を行うことが一般的ではありますが、子どもがいない世帯もありますし、遠く離れた場所に住む子どもに金銭管理を任せるのは現実問題難しいでしょう。

そんな時は、社会福祉協議会が行う『日常生活自立支援事業』を利用し、お金の入出金や保管までお願いすることができます。相談は無料です。

お金のことで家族が揉めないために


親のお金を管理する子がギャンブル好きであったり、借金がある場合は親のお金を使い込んでしまう可能性も考えられます。子の適性を見極め、必要ならばこうした支援事業を利用すると良いでしょう。

一方、真面目に親のお金を管理しているのに、兄弟からお金の使い道を疑われてしまうケースもあります。

「どうせ分からないからって、少し多めに引き出しているんじゃないか。」とか、「内緒で小遣いもらってるんじゃないか?」などと、心ないことを言われてしまうこともあるようなのです。

個人的には、仮に介護をしてくれる子に親が小遣いをあげたとしても、それがそんなに悪いことか?と筆者は思いますし、金銭感覚に問題がない親のお金の使い方を干渉してくるのは、親のお金を「自分のお金」とどこかで思っている証拠なので、良いことではありません。

とはいえ、大切な親子間・兄弟間だからこそ、お金で揉めるのを避けたいですね。こんな時は第三者を入れることで解決できることも多いため、ぜひ紹介したサービス(日常生活自立支援事業)などをご活用し、無用なトラブルを避けましょう。

※本稿は、『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

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