「一番危ないのは自分がない人」空気を読みすぎて自分が空気のようになってしまったZ世代が抱える困難
2024年4月18日(木)8時15分 プレジデント社
■「空気を読む」は超高難度のコミュニケーション能力
「言わぬが花」というように、日本人は昔から言葉でストレートに表さないことを美徳としていました。自分の気持ちをはっきり言葉で表現しないほうが、コミュニケーションにおいて波風が立たない、というわけです。
しかし、言葉にしないということは、逆に相手の側に「察する」必要が生じてきます。
相手の表情を見て、「じつは、本当はこう思っているのではないか」「この言葉の裏には、こういう意味が含まれているのではないか」と、相手の気持ちや考えを探る必要があるわけです。
そこで求められるのが「空気を読む」能力です。仕事で知り合った人と「今度、飲みに行きませんか」「いいですね、ぜひ行きましょう」という会話があったとき、相手が本当に飲みに行きたいと思っているのか、単なる社交辞令で口にしているのかを適切に判断できないといけません。
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel
この「空気を読む」というのは、1対1の間の空気だけではありません。これが集団になった場合、その場全体の空気を探りながら、自分はどうすればよいのかを判断するという、非常に難易度の高いコミュニケーション能力が必要になります。
■コミュニケーションは1対1から無限大へ
そもそも日本人の中には、「空気を読む」という土壌がありました。しかし、インターネットが登場したこの20年で、その傾向と難易度はさらに加速していきました。
コミュニケーションといえば対面が基本。それが150年前に声だけのコミュニケーションである電話が登場し、「声」から空気を読むことが求められ、さらにインターネットによって「文字」だけのコミュニケーションへと移行し、今は「文字」から行間を読んで空気を読まないといけなくなったのです。
さらに、対面であれば、空気を読むといってもせいぜい多くて30人から40人、学校の1クラスや部活の仲間、会社の一部署程度です。
ところがネット上になれば、1対30どころか、1対100人や1000人は当たり前。何気ないつぶやきや、ちょっとした愚痴がバズってしまい、一晩寝て起きたら1万人を相手にしていた、なんてこともあります。
■炎上の果ての「思考停止」状態
日々、ネット上のあちこちで炎上し、芸能人や著名人は、ほんのちょっとした一言で袋叩きに遭い、芸能人生命を絶たれたり、仕事を失ったりすることも珍しくありません。「言葉」は、戦国武将が持つ刀のような鋭さで、次々と嫌いな人を切りつけていきます。
また、ネット上の誹謗中傷が原因で命を絶つまで追い込んだりすることもあり、ネット・リテラシーが大きな社会問題になっています。
「ネット戦国時代」ともいうべき状況を生まれたころから経験してきたZ世代は、当然、自分が戦に巻き込まれないように、必死で「空気を読む」ことをしてきました。
クラスLINEや部活LINEのグループ、Instagram、YouTube、TikTok、Twitter(X)と、スマホを開けば情報の海へとつながり、瞬時に多くの情報を処理して空気を読んで、返信や投稿をしないといけません。
こういう生活を続けてきた結果、どうなったかというと「思考停止」です。とにかく情報が多すぎて頭がパンパンになり、脳のCPUが足りなくなって情報処理が追いつかず、考えることを放棄してしまったのです。
■情報過多の中で育ったZ世代が抱える困難
生まれたときから情報過多の中で育ったZ世代は、空気を読むことをよりいっそう強いられてきた世代です。
そのため、心の中ではいろいろな気持ちが渦巻いて爆発寸前ですが、それらの感情を内面に押し込んで、表面は冷静をよそおって傍観するコミュニケーション戦略を取るようになりました。
そして、この爆発寸前だった気持ちを一気に鎮火させ、思考停止にさせたのがコロナ禍です。
コロナ禍で学校が休校となり、会社が休みとなり、居酒屋など夜の飲食店やスポーツジムが営業自粛や時短営業となり、対面でのコミュニケーションがいっさい絶たれました。
これまで自分が意思決定をするための情報源の1つであり、しかも大部分を占めていたであろう身の回りの友人、会社の上司や同僚、趣味の仲間との交流が絶たれた結果、ますますSNSに依存する傾向が強まりました。
■ノイジー・マイノリティーと陰謀論
SNSでは、検索履歴などから似たような情報が流れるようになり、「フィルターバブル」というように、特定の考え方に偏り孤立しがちです。さらに、SNS等で同じような考えを寄せ集め、あたかもそれが普遍の正義だと思い込む「エコーチェンバー現象」に陥ることもります。
しかし、そこで中心となっている人々は、「ノイジー・マイノリティー」という、声が大きいだけの少数派という可能性もあります。
それを信じてしまうと、「ワクチンは人口削減計画」だとか、「アメリカのトランプ前大統領は光の戦士だ」というような、いわゆる陰謀論にハマってしまうのです。
写真=iStock.com/Arkadiusz Warguła
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Arkadiusz Warguła
また、その逆に、「マスク警察」「ワクチンハラスメント」「私人逮捕系ユーチューバー」のように、自分が正義であると信じて暴走する人まで出てきている現状です。
■空気に流されないように自分で意思決定の軸を持つ
陰謀論にハマる人、「○○警察」になる人を否定するわけではありません。なぜなら、本当に危機感を持つべきなのは「自分の考えを持たない人」だからです。
社会の空気に流されている人はもちろんのこと、とくにZ世代は、「空気そのもの」になっていると感じます。
コロナ禍で、自分の意志を持ってマスクをしていた人、あるいはしていなかった人、ワクチンを打った人、打たなかった人はどれぐらいいるでしょうか? 8割の人が「みんながしているから」と、なんとなくの空気で行動していたのではないでしょうか。
「空気に流されるな!」と言いたいのでもありません。「自分は、自分の意志で空気になっている」と自覚してほしいのです。
空気になるのが悪いのではなくて、たくさんある選択肢の中から自分は「空気になる」という選択をする、との意識をしっかり持つことが大事なのです。
空気をなめると痛い目に遭います。空気は毒ガスにもなるのですから、世の中の空気が毒ガスだったら、自分も毒になってしまいます。
■相手の性格×発言から世界を読む
2025年に社会的なパラダイムシフトがくると、あちこちでいわれています。
木原誠太郎『「人間関係」は性格と相性が9割』(プレジデント社)
私は占い師ではありませんが、世界の社会情勢に目を向けると、まるで第三次世界大戦のような代理戦争、認知戦が繰り広げられ、アメリカの大統領選挙の結果によっては世界のパワーバランスが劇的に変わることも考えられます。
このように世の中が大きく変化するときは、思考回路を停止することなく、意思決定の軸を自分の中にしっかり持つことがなによりも大切です。
そして、意思決定を大きく左右するメディア、SNS、友人、知人の発信は、そのまま鵜呑みにするのではなく、「どういう信条を持っている人が発信しているのか」を見極めるのもポイントです。
■相手の性格を加味して情報を取捨選択する
「この人はこう話をしているけれど、じつはその場のノリに合わせているだけで本心は別にある」
「この人は裏表のない人だから、言葉通りに受け取ってもよいだろう」
こんなふうに、相手の性格を加味して情報を取捨選択することが重要です。これは、政治家やニュースキャスター、オピニオンリーダーに対しても同様です。
人間の心の動きを知り、変化の時代を巧みに生き抜いていくために、1500万人のデータを収集した統計学による性格診断である『「人間関係」は性格と相性が9割』を活用していただけたら幸いです。
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木原 誠太郎(きはら・せいたろう)
ディグラム・ラボ代表
1979年生まれ、京都府出身。電通やミクシィでマーケティングを担当し、さまざまな企業のマーケティングコンサルティングにたずさわる。2013年、ディグラム・ラボを設立。「心理学×統計学」で人間の本音を分析し、カウンセリングするプログラム「ディグラム診断」の研究を進めながら、同時に事業展開。著書多数。「あなたはどれに当てはまる? スター★性格診断SHOW」(TBS系)、「性格ミエル研究所」(フジテレビ系)などテレビ出演も多数。
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(ディグラム・ラボ代表 木原 誠太郎)
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