「怒りに出口を与えるな」カッとなったときに思い出したい古代ローマの哲学者セネカの言葉
2024年5月20日(月)10時15分 プレジデント社
※本稿は、さわぐちけいすけ・小川仁志『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「私の原動力は怒りなの」
出所=『哲学を知ったら生きやすくなった』
出所=『哲学を知ったら生きやすくなった』
■そもそも怒りなんて感じないほうがいい
出所=『哲学を知ったら生きやすくなった』
出所=『哲学を知ったら生きやすくなった』
■「怒りに出口を与えるな」
【編集部】ストレスの多い時代、余裕がなくてつい怒りっぽくなる人も多いですよね。ょっとしたことですぐ「キレて」しまって後悔したり。
【小川】怒りは自然に湧き上がる感情ですが、他人や自分を傷つけるやっかいなものです。怒りについて悩んだときに参考になるのが、古代ローマの哲学者・セネカの言葉です。
セネカは暴君で知られる皇帝ネロに仕えた経験から、怒りを悪だと批判し、「この世で最も遠ざけるべきものだ」と言っています。
【編集部】やっぱり、怒ることはよくないのですね……。
【小川】はい。その理由は、怒りは「破壊」であり、仕返しをしたいという「報復の欲望」だからです。報復すると、それに対してまた報復され、さらに怒りが増幅するという憎しみの連鎖が生まれる。そうならないようにするためにも「自分自身の怒りと闘い、怒りに出口を与えるな」と説いているのです。
【編集部】怒りを表に出さない。それができれば理想的ですが…。
【小川】怒りが生じるのは避けられないことだとしても、それと闘うことはできるはずです。闘う相手は別の人間ではなく、自分自身の怒り。
セネカは「人間は相互の助け合いのために生まれた。怒りは破壊のために生まれた」と言っています。つまり人間同士は相手を破壊するために存在しているのではないということです。そもそも怒るのは、何か不正なことがあるからですが、セネカは、人はそれを理性で正すことができると考えた。
■正しい怒りの表現とは
【編集部】でも、ついカッとなってしまうのが、人間。そんなときも理性を働かせるにはどうしたらいいのでしょう?
【小川】待つことですね。セネカは怒りに任せて声を上げるのが勇気ではなく、「怒りが収まるのを待つことこそが勇気だ」と言っています。
【編集部】どれくらい待てばいいでしょうか?
【小川】それは怒りの程度にもよりますけど、少なくとも相手の言動に即反応してはいけませんね。私が実践しているのは、言い返すにしても、頭の中で10秒くらい数えるとか、メールだったら一晩寝てから返事するとかいった方法です。人間の場合、一晩寝たら怒りも収まりますから。
【編集部】カッとなったら、収まるのを待つ……。とはいえ、やっぱり、自分の意見や傷ついた気持ちを、相手には分かってほしいです。
【小川】気持ちを伝えることを我慢する必要はなく、冷静になってから、伝えればいいのです。
セネカはゆがんだ物事を理性的に正すことは、懲罰の姿を借りた「heal(治す・癒やす)」だと表現しています。怒りが収まるまで待ち、冷静に意見を言うことで、最後に「癒やし」が訪れる――。この3ステップこそが助け合いであり、正しい怒りの表現です。
■怒りは弱さの裏返し…
【編集部】マンガではミルもヤスミも「怒りに任せるといい結果にならなかった」と言っていますね。
【小川】その一瞬はストレス発散ができて気持ちがいいかもしれません。でも、相手も自分も傷つけて、結果的に苦しむことになる。
逆に冷静に対処できたときは、自分を誇らしく思うはず。同じことを言うにしても、感情で叱責するか、理性を使うのかで受け入れられ方も全く違う。
【編集部】理性を総動員して、あくまで冷静になることが大事なのですね。
【小川】みなさんもご存じの哲学者・ソクラテスは、奴隷に罰を与えなくてはならないとき、「もしも私が怒っていなかったら、お前を打ったところだ」と言った。つまり冷静でないときは罰を与えてはいけないと逆説的に言ったのです。
さわぐちけいすけ・小川仁志『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)
例えば子どもを叱るのは、子どもが何か悪に陥ったり、悪い習慣が付いたりすることから守るためですが、冷静でなければ守りではなく、単なる破壊になってしまう。
【編集部】今回のヤスミもそうですが、疲れがたまったり自分に余裕がなかったりすると怒りが大きくなりがちですよね。
【小川】私は怒りというのは、弱さの裏返しだと思います。すぐカッとなる人は、自分の余裕のなさが怒りに置き換えられているともいえる。ですから、普段から時間的・精神的なゆとりを持ち、弱っているときには自分をいたわってあげるなど、工夫も大事だと思います。
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さわぐち けいすけ(さわぐち・けいすけ)
漫画家
2017年から漫画家として活動。社会に生きる人々の心境を描く書籍制作の依頼を手掛け、SNSの中ではPR漫画やオリジナル漫画などを制作し投稿。Xフォロワー19万人。主な著書に『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)、『偶発的ルネッサンス少女』(朝日新聞出版)、『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)、『だからお前はダメなんだ』(大和書房)、『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)など。
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小川 仁志(おがわ・ひとし)
山口大学国際総合科学部教授
京都府生まれ。京都大学法学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。伊藤忠商事勤務、フリーターの経歴を持つ。市民のための「哲学カフェ」を主宰。
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(漫画家 さわぐち けいすけ、山口大学国際総合科学部教授 小川 仁志)
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