GW明けに依頼が増える 退職代行を利用する新卒社会人「話が違う…」 精神科医が分析する“長期休暇”と“決断エネルギー”

2025年5月6日(火)7時0分 TBS NEWS DIG

退職の意思を代理で伝えるサービス「退職代行」の依頼者数が、年々増えている。特に長期休暇明けは増加し、「GW明け」は1年で一番多いという。一体なぜなのか。

退職代行をした“新卒者” 「そういうことをする会社なんだ」きっかけは不信感 

なぜ自分で退職の意思を伝えずに、退職代行に依頼するのか。退職代行を使った経験があるという上原さん(22)に話を聞いた。
上原さんは、2025年4月に印刷業の会社に入社。しかし10日後、雇用契約書へサインする際に、募集要項には記載があったはずの「退職金」が無いことに気づいたそう。
退職代行を使って退職した上原さん(22)
「そういうことをする会社なんだなと、少し不信感を持ちました」
その後、先輩社員に話を聞くと、残業時間も事前に聞いていた内容より5〜6倍多いことが判明。会社への不信感が募り、今後を考え、別の道へ進むことにしたという。

退職代行を使って退職した上原さん(22)
「新卒で入って20日くらいで『辞める』と伝えた上、その後もいないといけない。それは少し気まずい…」
そこで、退職代行を利用し、退職の意思を示したという。
上原さんは「結果的に速やかに辞められて、会社への気まずさも感じないので、気持ち的に楽になった」と話す。

「給料が求人票と違う」代行会社の代表も納得“新卒者の退職理由”

退職代行モームリ 代表取締役 谷本慎二さん
「(実際の依頼の中には)給料が求人票と違う金額を提示されたというのがあります」
そう話すのは、「退職代行モームリ」の代表取締役・谷本慎二さん。

「退職代行モームリ」へ依頼にくる、新卒者が退職をする理由では、ハラスメント系を含めた「人間関係」が2位。それを上回るのは「入社前後でのギャップ」。勤務実態や職場環境が、入社前のイメージや契約内容と異なるというもの。
前述した退職代行の利用経験者・上原さんも「入社前後のギャップ」をきっかけに、会社への不信感を抱いていた。
退職代行モームリ 代表取締役 谷本慎二さん
「(実際にあった退職理由に)雇用形態が違うというのがありました。正社員として入社したら、半年間の契約社員だった、別の違う会社に派遣された、などです。
このような契約の相違をされていたら、嘘をつかれたのと同じことですので『それは確かに退職するだろうな』と思いますね」

退職代行への依頼者数は基本的に、長期休暇明けに増えるとのこと。中でも、GW明けは一番多くなる傾向にあると、谷本さんは話す。
その背景にあるのは「新卒者」の存在。通常の依頼者だけでなく、4月からは新卒者がプラスされることで、依頼者数が増加するという。

休み中に「決断するエネルギー」を充電→退職という決断に…

早稲田メンタルクリニックの院長・益田裕介さんは「GW明けなど、長期休暇明けに退職が増える理由」をこう分析する。
早稲田メンタルクリニック 院長 益田裕介さん
「休みの間に『決断するエネルギー』が貯まるからです」
体力が回復すればするほど、何かを決めるために必要なエネルギーが貯まっていく。そのため、休み明けは大きな決断がしやすくなるという。
では、なぜ「退職」という決断をするのか。
早稲田メンタルクリニック 院長 益田裕介さん
「パーソナリティ機能が低く、かつ、回避的な人は退職しやすい傾向にあります」
「パーソナリティ機能」とは、精神科などで用いられる言葉。自己の認識や評価などの「自己機能」と、他者に関する共感性などの「対人機能」の2つから成り立っている。
また、パーソナリティ機能は、生まれながらの要素と後天的な要素のハイブリットで決まる。後天的な要素とは記憶や経験のことで、知識を蓄えることで、高めることができるという。
例えば「なぜあの人はこんなことを言ったのか?」と疑問に思っていたことも、知識を増やすことで「こういう事情があったのか」と自分で理解することができる。また、他者だけでなく、「自分はこういう人間なんだ」と自分への理解も深まっていく。
こうして自己機能および対人機能が高まっていくと、自然とパーソナリティ機能も高くなるという。
早稲田メンタルクリニック 院長 益田裕介さん
「新卒の人は若い。若いと成長しきっておらず、知識が少ないため、パーソナリティ機能が低いことが多いです」

なおかつ、パーソナリティ機能には「否定的、回避的、反社会性、衝動性、精神病性」という5つの特性がある。
その中の「回避的」は、話しかけられても黙ってしまったり、そもそも人と交流を持とうとしなかったりするといった行動をとりがちな特性を指す。そういった人は、引きこもりになったり不登校になったりしやすく、「退職」という決断もしやすいのだそう。
その上で、退職代行を使うのは、より回避的な特性が強いと考えられるという。

早稲田メンタルクリニック 院長 益田裕介さん
「『退職』を決断する前に、家族や上司、病院の先生など、信頼できる人との『相談』を決断した方がいいですね」
前述した退職代行の利用経験者の上原さんは、自分自身は後悔していないが、「あっという間のやり取りで退職できてしまうので、迷っている中で利用すると後悔するかもしれません」と話していた。
手軽だからこそ1度しっかりと考えてみてほしい。仕事を続ける、退職をする、直接伝える、代行を使う、どれを決断するにしても、後悔のない選択を…。
==========
<取材協力>
益田裕介(ますだ ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック 院長
精神保健指定医、精神科専門医・指導医
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。
著書に『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)、『精神科医がやっている聞き方・話し方』(フォレスト出版)がある。

TBS NEWS DIG

「退職」をもっと詳しく

「退職」のニュース

「退職」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ