21万トン備蓄米放出も効果薄…価格高騰の中、水面下で進む「コメ争奪戦」《新潟・秋田が見せた戦略とは?》

2025年5月8日(木)7時0分 文春オンライン


コメの値段の高騰が止まらない。果たして、この高騰はいつまで続くのか。また、高騰の抑止に有効な手段としては何があるのか。



ベストセラー『対馬の海に沈む』の著者、ノンフィクション作家の 窪田新之助氏のレポート「コメの値段はこの秋も上がる」 から一部紹介します。



◆◆◆


備蓄米放出でも高値継続


 いま多くの人が気になっているのは、コメの価格が今後どうなるのか、ということだろう。政府は2月半ばになってようやく、需給を緩和するために計21万トンの備蓄米を放出することを決めた。


 1年以内に同等・同量の国産米を買い戻すことが条件だ。初回の入札は3月10〜12日だった。24年産が10万トン、23年産が5万トンの計15万トンを対象とした。農林水産省は残り分の追加入札を3月26〜28日に実施するという。政府が備蓄米を放出すると決めたことで、先高観がやや後退したのは確かだ。



2024年8月のコメ不足 Ⓒ時事通信社


 米穀安定供給確保支援機構は毎月、向こう3カ月のコメの「見通し判断DI(動向指数)」を発表している。DIが100に近づくほど需給は締まり、価格は高くなる。最新の調査によると、需給のDIは前月から10ポイント減って72に、価格のDIは前月から23ポイント減って54になった。コメの取引関係者がこうした判断をした要因として「国の政策」と回答した割合が、前月の7%から28%へと急増したことから、政府による備蓄米の放出が影響していることが窺われる。


 ただ、私が取材した卸売業者は価格が下がるとまでは見ていなかった。3月中に計21万トンにまで積み上げても、民間在庫量は昨年の水準まで回復しないからだ。


 ある卸売業者は、全国の民間在庫量について月別の推移をシミュレーションし、まさに「令和のコメ騒動」を予言していた。そのシミュレーションによると、6月末の民間在庫量は備蓄米を抜きにすれば62万トンとなる。前年同時期は115万トンで、その54%に過ぎない。これに備蓄米が放出されたところで、民間在庫量は83万トンにしかならない。これは、昨年同期の72%である。この卸売業者の役員はこう危惧している。


「政府が備蓄米をさらに放出しない限り、非常にまずい状況になるのは目に見えています」


新潟・秋田が見せた戦略


 一方で産地では、25年産のコメが早くも争奪戦になりそうな気配が漂いつつある。そんな中で先手を打ったのは新潟県だ。


 JA全農にいがたは例年なら8月に、コメを出荷した農家に支払う一時金「概算金」を示してきた。ところが25年産に限っては2月28日と大幅に前倒しして、概算金を2万3000円(一等60キロ)とすることを公表した。前年比35%増であり、概算金の上昇率としては前例がない。しかも同額はあくまでも下限を示した「最低保証価格」であり、流通の状況を踏まえながら夏に最終決定する。


 JA全農にいがたから遅れること10日。JA全農あきた(秋田県)は、概算金方式から買い取り方式に改革することを検討している、と報道機関に明らかにした。


 これだと何が「改革」なのか分からないと思うのでもう少し説明すると、JAがこれまで採用してきた概算金方式は委託販売を基本にしている。要はJAが農家に代わって販売する時期や値段、相手を決め、精算に至るまでの一切の業務を請け負う。すべてのコメを売り切るには時間がかかるので、まずは概算金という一時金を農家に支払う。販売の見通しが立った時点で儲けが出ていれば、そこから農家に追加払いをするという仕組みだ。


 JA全農あきたはこの概算金方式を取り止め、最初から農家に値段を提示して買い取るという。農家にとってみれば、概算金よりもまとまった金が入る。だから、JAに出荷する気持ちも湧いてくると、JA全農あきたは考えたのだろう。


 JA全農にいがたにせよJA全農あきたにせよ、背景にあるのはコメの集荷率が落ちていることだ。全国のJAの集荷率は04年に44.7%だったのが、22年には39.0%にまで下がっている。卸売業者や量販店、中食・外食業者がJAより高値を提示するようになったためだ。農家に好条件を提示することで、巻き返しを図るつもりなのだ。



※本記事の全文(約10000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「 文藝春秋PLUS 」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(窪田新之助「 コメの値段はこの秋も上がる 」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・本当に「スタック」しているのか
・中食業者からの警告
・「高温障害」が引き金に
・B銘柄をかき集めろ
・「農業ムラ」は市場もつぶした



(窪田 新之助/文藝春秋 2025年5月号)

文春オンライン

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