一流の人は「10兆円」のスゴさをこう伝える…「話に説得力がある人」と「そうでない人」の決定的違い

2025年3月6日(木)18時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

話に説得力を持たせるにはどうすればいいか。明治大学の齋藤孝教授は「会話の中に具体的な数字を入れる意識を持つと、情報の客観性や説得力が高まるだけでなく、話す人の社会的な評価も高まる」という——。

※本稿は、齋藤孝『最強の言語化力』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


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■「めっちゃ広かった」では伝わりにくい


言語化において、相手に説得力を感じさせるためには、具体的な数字をできるだけ取り入れて話す習慣が重要になってきます。これにより、話の内容がより客観的で中立的となり、ひいては話しているその人の信頼性を高めることに繫がっていきます。


また、思考と行動から思い込みや偏見が除外されることで、正しい答えにたどり着く確率も上がります。


朝起きた状況を伝える際に「今朝は5時に起きたから眠いよ」というのと、「今朝はすっごく早く起きたから眠いよ」というのでは、聞く側が受けるイメージはやはり違います。「めっちゃ広かった」より「100坪はあったよ」のほうがイメージは鮮明に伝わります。


さらに次のようにもう少し長い会話で比較すると、違いはよりはっきりとわかるかと思います。


■数字がある会話とない会話の違い


数字あり「野球を観に行ってきたんだけど客が4万人も入ってたよ。かなり混んでた。でも売店は5分くらいしか並ばなかったな。あと、ビールが100円値上げされてたよ。ご時世だからしかたないけど」




数字なし「野球を観に行ってきたんだけど客がめちゃめちゃ入ってたよ。かなり混んでた。でも売店はそんなに並ばなかったな。あと、ビールの値段がちょっと上がってたね。ご時世だからしかたないけど」

後者でも日常会話としては問題ないのですが、少なくとも、話に数字を入れる意識が低い人であることはわかります。そういう人は、日頃から文脈に事実を入れて具体性を高める意識が欠けているのかもしれません。


■数字なし=客観的な視点が欠けている


話し方は日常の習慣として身体に染みついているものですから、普段「数字なし」の人がいきなり「数字あり」で話せといわれても必ず口が止まってしまいます。急にいつもと違うことをしようとしてもストレスになるだけです。


ということは、これが職場であれば「この人はいつもこういう話し方をしているのだな」という評価をされることになるでしょう。つまり、客観的な視点を欠いた思考で仕事をしている人だと判断されるわけです。


数字に対する意識を持つ人は、数字が入ることで情報が主観に左右されず、話が説得力を持つことを感覚的にわかっていますし、主張の信頼性が担保されると自己への評価が高まることも自然に理解できています。


■日本の国家予算は100兆円、GDPは600兆円


会話の中に数字を入れる意識をより高く持つためには、疑問が発生した時点でスマホなどで即座に調べる習慣をつけるのはもちろんですが、まずは基本的な数字くらいは暗記して覚えてしまうことです。


端数まで正確な値でなくてもいいのです。日本の人口なら「1億人くらい」、国家予算は「100兆円くらい」、日本のGDPが「600兆円くらい」といった数字は、聞かれて答えられないと社会人として心配されるレベルと自覚すべきです。


肝となる数字を暗記しておくべき理由のひとつは、それが基準となって別の数字を理解する助けになるからです。


「アメリカの人工知能(AI)に対する民間投資額が約10兆円で世界1位」というニュースに触れたとき、ただ単に「10兆円スゲー!」ではなく、「日本の国家予算の1割にも達している!」という形で理解できます。


それ以外でも為替相場、平均寿命、高齢化率など、基本とされる数字はビジネスパーソンでなくても記憶しておいたほうがいいでしょう。


■「日本の高齢化」を数字で説明できるか


先日、飲食店で食事をしていたときのこと、近くの席の会社員らしき男性2人が「今、日本のGDPって世界何位だっけ?」「おいおい、しっかりしろよ。アメリカの次だろ。2位だよ」と話していたのが聞こえてきて、思わず箸が止まってしまいました(実際は中国、ドイツに抜かれて4位)。


職場で上司に「課長、日本は高齢化が進んでますので」といったとして、「君はどのくらい進んでいるか知ってるのかね」と返され、「いや、具体的にはちょっと……」ではどうにもしまりが良くありません。課長からすれば「実態をわかってもいないのになんとなくで話をする社員」という評価になってしまいます。


そのとき即座に「約30%ですね。しかも中山間地では40%が当たり前の時代です」と答えることができれば、具体性をもって思考をしていると理解されるはずです。


写真=iStock.com/filo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filo

■自社のバランスシートは把握しておく


また、数字と仕事との関係でいえば、少なくとも自社の決算書くらいは読み込んでおき、財務状況を大枠でもいいので把握しておきましょう。


自分が受け取っている給料の源泉がどのような流れで生み出されているのか、現在進行中のプロジェクトの予算額が企業規模と比較してどの程度なのか。目の前のお金は、全体との関わりを知ったうえでないと正しく判断することはできません。


以前、ある卒業生が入社して間もない会社に対して「うちの会社はケチで困る」といった愚痴ばかりこぼすので、どのくらいの利益率をあげている企業なのか聞いてみたところ、きょとんとして答えが返ってきませんでした。自社のバランスシートを見たこともなかったのです。


1万円の純利益を生み出すために、どの程度のコストがかかっているのか。福利厚生で社員ひとりにつき1万円の拠出をするために、自社の商品をどれくらい売らないとペイできないのか。不平不満をこぼす前に、まずは数字という客観的事実と向き合い、そのうえで愚痴をいうならいう、改めるなら改めるとしたほうがいいでしょう。


■客観的な数字が理論を支えてくれる


数年前、ある大手メガバンクの投資部門の方とお話ししたのですが、金融関連の数字はほぼ完全に網羅したうえでスラスラと話をされていたのが印象的でした。しかも、一般には馴染みの薄い専門性の高い数値には、さりげなく説明を加えてくれるなど、コミュニケーション力が総合的に高い人であると感じました。



齋藤孝『最強の言語化力』(祥伝社新書)

結局のところ、その方の話が合理的ですっきりと感じられるのは、記憶した数字のデータが理論を支えているからです。公正かつ客観的な数字が論拠となっているため、第三者から曖昧な記憶や感情的な主張で突っ込まれても決して揺るぎません。


それゆえ「バブルのときに超インフレになったのを君は銀行員のくせに知らんのか!」と詰め寄られても、「いえ、バブル期に高騰したのは土地と株です。実態は資産バブルでした。物価上昇率そのものはせいぜい3%くらいだったんですよ。超インフレなんてとんでもない」と冷静に返せるのです。


このように、話に具体的な数字を取り入れて説得性を高めることで、情報の客観性や説得力が高まります。さらに話す人の社会的な評価も高まるのです。


信頼性のあるコミュニケーションを日常化するためには、数字を使った言語化の意識を今まで以上に高く持ってほしいと思います。


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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

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