骨壺が蹴飛ばされ、遺骨が滅茶苦茶に…「散骨」「樹木葬」ブームの陰で起き始めた新たな"お墓トラブル"

2025年3月31日(月)16時15分 プレジデント社

三重県大台町の「いのちの森」。この森に安置していた遺骨が荒らされた。 - 筆者撮影

墓守の手軽さなどから従来型の墓石ではなく、散骨や自然葬を行う人が増えている。森林ジャーナリストの田中淳夫さんは「現行の法律で想定されていない散骨や樹木葬は地元住民の反発を招き、時に思わぬトラブルを招くおそれがある」という——。

■様変わりする日本のお墓事情


三重県大台町。紀伊半島の山をかき分けるように奥へ奥へと進むと、道路沿いに「いのちの森」と書かれた木製の看板が現れた。この森が、自然宗佛國寺の開いた森林自然葬墓地である。


筆者撮影
三重県大台町の「いのちの森」。この森に安置していた遺骨が荒らされた。 - 筆者撮影

自然葬とは散骨を意味する。通常の散骨は海洋に撒くことが多いが、山中に撒く森林散骨もある。この「いのちの森」では、生前契約された方が亡くなると、木の骨壺に砕いた遺骨を詰めてこの森の中にそっと置かれる。時とともに骨壺も骨も土に還るというわけだ。この墓地を開いた黙雷和尚によると、開設して約10年、40人ほどが生前契約し、うち12人がこの森に眠っているという。


高齢化の進む日本では亡くなる人が増え続け、それに伴いお墓事情は様変わりしてきた。従来の墓石を設置する墓はさほど増えず、むしろ墓じまいが進んでいる。また従来の様式とは違う多様な墓地が生まれ始めた。


■なぜ散骨や樹木葬が増えているのか


終活サービスを提供する企業が実施した「お墓の消費者全国実態調査(2025年版)」によると、昨年求められたお墓のうち樹木葬は48.5%を占め、従来の一般の墓(17.0%)の約3倍を占めた。ほか納骨堂や合葬墓も増えている。


樹木葬にはさまざまな形態があるものの、基本は石の墓標を立てるのではなく樹木を植える、もしくは樹木の根元に埋葬するものだ。遺骨も墓標とする樹木も、いつか自然に溶け込むことを前提としている。また遺骨を海や森に撒く散骨(自然葬)も増えている。こちらも自然に還ることを願う気持ちがある。


ただし、樹木葬という名称を冠しているものの、実態は遺骨をコンクリートのカロート(遺骨安置場所)に納める墓地もある。樹木さえなく石板を設置する墓地も登場している。樹木葬人気への便乗だろうか。これでは自然に還る理念は活かされず、単に安価で永代供養されることだけが特徴の墓地だと言えよう。


ともあれ、なぜ散骨や樹木葬が増えたのだろうか。私は樹木葬墓地を開いた人々に取材して歩いたことがあるが、まず浮かび上がってきたのは、従来の石墓に継承不安があることだ。


■墓守の必要がなく、安価で済む


少子化で子供のいない家庭が増えた結果、故郷の先祖代々の墓の墓守を次世代が担うことが難しくなってきた。遺族も遠くの故郷まで墓参りに行けないケースが増えた。このまま代を重ねると無縁墓になりかねない。


また都市に移り住んだ子供たちにとって近郊に新たな墓を建てる余裕がない場合もある。長生きすると介護などで貯金を減らしがちなうえ、墓地も高騰しているのだ。そのためか、近年は墓地に埋葬せずに手元に遺骨を残す人も少なくない。その点、散骨や樹木葬は比較的安価で済む。加えて宗教離れ、宗教観の変化も影響しているのだろう。


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千葉県袖ケ浦市の真光寺の樹木葬墓地。木々の間に埋葬する。 - 筆者撮影

散骨や樹木葬は永代供養であり、遺骨を残さないことから墓の継承不安がない。そのため子供らに迷惑をかけないでおきたいと思う親が生前契約をする。あるいは自然が好きだった物故者の遺志を酌んで自然に還る樹木葬や散骨を選ぶ遺族もいる。


従来の墓では宗教宗派に縛られたり、親族以外の人、あるいはペットを一緒に埋葬することを拒否されることがあったりと自由度が低い。それを補う形で樹木葬が伸びてきた面もあるように感じた。


■十数年は「墓参りの場所」もある樹木葬


「墓じまいや墓守の大変さの相談を聞いているうちに、森をお墓にすれば永代供養にもなるし、墓とすることで森を守ることもできると思いつきました」


黙雷和尚は、そう語る。2000年ごろから少しずつ山を購入し始め、現在は24haになった。そのうちの約1haを「いのちの森」としたという。墓地の収益や寄進で森林整備も進めるそうだ。


なお海洋散骨は墓そのものがないので遺族はお参りに行く場所に困るが、樹木葬の場合、将来的に遺骨が森に溶け込むまでの数年〜十数年はお墓参りする場所がある。佛國寺の森林自然葬は、両者を合わせたような形態だ。


■移民の増加で需要が増え始めた「土葬」


樹木葬が伸びる一方で、土葬のできる墓地を求める声も上がり始めている。


もともとイスラム教徒やキリスト教徒などは土葬を望む。教義に復活の概念があり、火葬はタブーだからだ。キリスト教では近年緩んで火葬も認めるが、イスラム教では今も火葬に対する忌避感が強い。


筆者撮影
土葬の墓地は数少なくなったが、まだ各地に残っている。(鳥取県大山町) - 筆者撮影

だが、日本に土葬ができる墓地はほとんどない。日本にイスラム教徒は約23万人。移民を中心に増えているだけでなく、日本人のイスラム教徒も全国には5万〜6万人いるから、喫緊の課題だ。


大分県や宮城県に土葬の墓をつくる動きがあるが、反対運動が起きている。


土葬そのものは法的には認められている。いや、ほんの数十年前まで日本でも土葬が当たり前だったのだ。ところが現在では、開設しようとすると地元で強硬な反対が起きる。主な反対理由として水質汚染への不安などを上げることが多いが、科学的とは言えない。実際に土葬墓地の周辺で水質検査を行った例もあるが、問題はなかった。


■散骨の法律上の定義はあいまい


法律を持ち出すと、実は散骨のほうが定義は明確でない。


当初は墓地でないところに遺骨を撒くのは墓地埋葬法違反ではないかとする声もあった。1990年代に自然葬を薦める団体に対して法務省が出した見解は、墓地埋葬法は「社会的習俗として宗教的感情を保護するのが目的だから、葬送のための祭祀で節度を持って行う限り問題はない」だった。厚生労働省も「土葬を問題にしていて海や山に撒くといった自然葬は想起しておらず対象外である。だからこの法律は自然葬を禁じる規定はない」とした。


■骨壺を何者かにひっくり返される「トラブル」


佛國寺の森林自然葬墓地にも地元住民などから反対の声が出ていた。昨年10月に何者かが森の中の骨壺を引っくり返し、中の遺骨をばらまかれるという事件が起きた。問題は、犯人の特定以前に町が「許可を取らずに墓地を開いたのは違法だ」と、森林自然葬墓地の撤去を要求し始めたことだ。


実は樹木葬は法的には従来の墓地と同じ扱いだ。墓石の代わりに樹木を墓標とするだけの違いで、開設には墓地としての申請が必要だというのが公的な見解である。


佛國寺では樹木葬の開設準備を進めていた2006年ごろから、法務省、厚生労働省、それに林野庁の官僚とともに協議し、「これは散骨に当たるから墓地埋葬法に関わる許可はいらない」と確認したという。


「いのちの森」では骨壺を地中に埋めるのではなく、墓標となる樹木の根本(すなわち地表)に置く形式のため、「埋葬」には当たらないというのが理由だった。それを県も町も了承していた。だから「いのちの森」では墓地の許可を取らなかった。


ところが今回町は見解を変えて撤去を要求しているのだ。その背景ははっきりしないが、町長の交代が関係していると見る向きもある。


■墓地は「迷惑施設」扱いされがち


土葬の墓地開設でも同様である。法律で禁止されているわけでもなく、ほんの数十年前まで日本のどこでも土葬だったにもかかわらず、現在は99.97%まで火葬になったことを理由に拒否する声が強い。


筆者撮影
東京都の小平霊園の合葬墓。数千柱を納めることができる。 - 筆者撮影

一方で、公海上で行う海洋散骨に反対する声はほぼない。また従来の墓地の一角に樹木葬区域をつくるケースでも反対は起きない。私自身は散骨や樹木葬を毛嫌いする仏教僧に出会ったことはあるが、宗教的理由というよりは個人的な見解と思えた。


もともと墓地は「迷惑施設」扱いされやすい。必要なのはわかるが、自分たちの近くにはつくるな、と言われがちだ。ゴミ焼却場などと同じ扱いなのである。


■現代のお墓の価値観に合わせた法律のアップデートが急務


とくに森林散骨や樹木葬、あるいは土葬の墓地を開設する場合に反対運動が起きやすいのはなぜか。結局のところ、現状と違うことをよそ者(とくに外国人)が自分たちの近隣でやろうとしていることへの不快感ではなかろうか。それらの方式の墓地に納められるのは、地元の人ではないケースがほとんどだからである。


墓地埋葬法は、散骨や樹木葬を前提に作られていない。むしろ土葬が前提の時代に作られた法律だ。また、それら各種の墓地開設に関する条件にも触れていない。それが墓への価値観が変わりつつある現代の墓地事情に混沌を生み出している。


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国会議事堂前で墓埋法改正を訴えて坐禅する佛國寺の黙雷和尚。 - 筆者撮影

黙雷和尚は、昨年12月に国会議事堂前、今年2月には厚生労働省前で数週間坐禅を組んだ。墓地埋葬法の改正などを訴えるためである。だが、今のところ返答はない。


今や日本は、死亡者激増時代に突入している。人々のお墓に対する思いも変わりつつある。そして移民も増加している。社会も、人々の価値観も多様化しているのだ。早急に法律を整備して、墓のあり方、埋葬の可否や条件などを明確にしないと、物故者の望まない形で埋葬されるケースが頻発するだけでなく、墓地を巡って不毛のトラブルを引き起こしかねない。


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田中 淳夫(たなか・あつお)
森林ジャーナリスト
1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人—野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)ほか多数。
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(森林ジャーナリスト 田中 淳夫)

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