令和7年度全国発明表彰「恩賜発明賞」を受賞
2025年5月27日(火)12時18分 PR TIMES
旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「当社」)は、令和7年度全国発明表彰(主催:公益社団法人 発明協会主催)において、「ニッケルを用いた電極長寿命化技術の発明(特許第6120804号)」(以下「本発明」)が、最高位の賞である「恩賜発明賞」および「発明実施功績賞」を受賞したことをお知らせいたします。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/79452/193/79452-193-22186f37b184bee2adadc6ed6ebeb692-3900x2600.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]イオン交換膜法食塩電解プロセスの外観
1.受賞内容
今回の受賞は、イオン交換膜法食塩電解プロセス(以下「本プロセス」)において、電極の劣化を抑制し、長期間の安定運転を可能とした発明が評価されたものです。本プロセスは、イオン交換膜を使用して食塩水を電気分解し、塩素、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)および水素を製造するシステムです。当社では、1975年に本プロセスを販売開始して以来、50年にわたる実績と食塩電解に必要な材料・設計・運用支援を含む工程をワンストップで供給できる技術の幅広さにより、全世界で30か国、160工場以上(2024年12月時点)で採用されています。
従来、本プロセスの運転においては、塩素および苛性ソーダの需要変動による一時的な需要減少による停止、設備トラブルや発電所停止などに伴う緊急停止などにより食塩電解装置が停止した際、逆電流※1の影響で電極(特に陰極)が劣化し、電解電圧の上昇による消費電力の増加や、陰極の寿命短縮といった課題が発生し、安定運転の継続が困難となる場合がありました。
これまでは、この逆電流を抑制するために機械設備を使用した対応が図られてきましたが、この方法でも、動作不良や操作ミスなどにより、陰極の劣化が発生する問題があり、機械設備に依存しない本質的な解決策が求められていました。
この課題に対し、本発明は、従来とは異なる着想のもと、機械設備を用いた対応ではなく、特定の多孔質構造を有するニッケルを「逆電流吸収層」として電解装置内に設置することで、ニッケルの化学反応を利用して陰極への逆電流の影響を無効化する技術です。陰極の劣化は、電解停止時に発生する逆電流により、陰極の電位がある特定の電位に到達した後に進行します。原理上、この電位より手前の電位で化学反応を起こす元素を設置することで、陰極が特定の電位にまで到達することを抑制することが可能となりますが、技術的困難さから実用化はされていませんでした。
本発明の特徴は、長期間にわたり安定に機能する「逆電流吸収層」の構造を特定し、それを工業的に実現するための方法を明確にしたことです。この「逆電流吸収層」は、多孔質でありながら高強度を保つというトレードオフの関係を克服し、さらに大面積への加工が可能であることが求められます。これらの課題に対し、溶射法※2を適用することで解決を図り、工業化に成功いたしました。溶射法によって形成された「逆電流吸収層」は、ニッケルの化学反応が可逆的に起こるため、電解の停止と再開を繰り返しても逆電流の吸収機能が損なわれず、陰極を安定して保護することを実現しています。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/79452/193/79452-193-14341f2372a6d0d1ea745441fbb74a12-1845x2099.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]“特定の構造を有するニッケル”のイメージ図
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/79452/193/79452-193-4feccbe9a71efd649b32378cee365578-2053x2061.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]電解中と電解停止中のニッケルの化学反応に関するイメージ図
本発明の技術が搭載された電解装置は、既に世界各国の化学メーカーに販売されており、世界の人々の生活を支える塩素、苛性ソーダの安定製造に貢献しています。今後もさらなる採用拡大が見込まれています。また、本発明技術は、グリーン水素製造用のアルカリ水電解など、他の電解プロセスへの応用・展開についても取り組みを進めております。
2.受賞者 *本表彰の受賞時点の所属を記載
「恩賜発明賞」
・船川 明恭
旭化成株式会社 交換膜事業部 交換膜技術開発部長
・蜂谷 敏徳
旭化成株式会社 膜・水処理事業部 膜・水処理品質保証部長
「発明実施功績賞」
・工藤 幸四郎
旭化成株式会社 代表取締役社長 兼 社長執行役員
3.受賞者コメント
恩賜発明賞 受賞者 船川 明恭 コメント
「塩素や苛性ソーダは、暮らしを支える多くの製品の基盤となる重要な原料です。今回の受賞を励みに、今後も社会に貢献できる電解技術の開発に取り組んでまいります。」
恩賜発明賞 受賞者 蜂谷 敏徳 コメント
「顧客でのトラブルをきっかけに、数多くの課題に向き合いながら多くのメンバーと工夫を重ねてきました。粘り強く取り組んできた成果がこうして評価され、大変うれしく思います。」
※1 逆電流:電解停止時などに、通常とは逆方向に流れる電流。電極の劣化や触媒の溶解を引き起こす原因となる。
※2 溶射法:材料を加熱して溶融またはそれに近い状態にし、物体表面に吹き付けて皮膜を形成する表面処理技術。この技術は、大面積の基材への加工も可能であり、幅広い用途に対応できる特徴を有している。