「社会の上の方はマヒしているが、深層は変化が起き始めている」……知日派米ジャーナリストは語る
2025年5月2日(金)15時30分 読売新聞
「『失われた30年』に誰がした」リチャード・カッツさん
「こうすれば日本の経済を回復させられると、議員や官僚に分かりやすく伝えたかった。ポジティブなシナリオを示した」。知日派のジャーナリストが、本書をまとめた目的について、力強く語った。
キーワードは「ガゼル」。急成長する生産性の高い新興企業を、足の速い草食動物になぞらえた呼称だ。ガゼルが次々に生まれ、古い大企業と入れ替わる新陳代謝がなかったことが、30年の苦境の最大の原因だと説いた。「日本には新しい世代による新しい会社がもっと必要だ。また、起業して失敗しても安心できるような社会のセーフティーネット(安全網)を整備しなければならない。それなのに改革に抵抗する勢力は多い。古い勢力との戦いという意味で、原題を『日本の未来のための戦い』としました」
1951年、米国マサチューセッツ州の小さな街で生まれた。好奇心が強く、世界が見たいとコロンビア大に進学、経済史を学ぶ中で日本に興味を持ち始めた。書くことも学ぶことも伝えることも大好きで、大学卒業後、フリーで日本に関する記事を書き始めた。以来45年あまり。「日本はどん底に落ち込んでも、いつも不死鳥のようによみがえるのが面白い」と語る。
「執筆のための取材で出会った若い世代の起業家たちは、清新で野心的だが、日本のために役立ちたいとの思いも強く、希望に思えた。デジタル分野での技術革新もあり、今は過去30年で最高の“復活のチャンスの時”。社会の上の方はマヒしているが、深層では変化が起こり始めている」
そこまで日本を応援してくれるのはどうしてか尋ねてみた。社会の変化には常に興味があると答えたうえで、付け加えた。「『なぜ妻を愛してる?』なんて聞かれても答えようがないよ」(田中恵理香訳、早川書房、3960円)小林佑基