コナンが天文台の救世主 劇場版の聖地巡礼で長野「野辺山宇宙電波観測所」来場3・5倍
2025年5月6日(火)5時0分 スポーツニッポン
公開14日間で興行収入79億円と大ヒット中のアニメ映画「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」に登場する国立天文台「野辺山宇宙電波観測所」(長野県南牧村)が“聖地巡礼”のファンでにぎわっている。1982年に完成し、世界で初めてブラックホールを発見した電波望遠鏡を備える同観測所。最近は財政難などで閉鎖危機も取り沙汰されていたが、コナン効果で復活の兆しを見せている。(小田切 葉月)
標高1350メートルの自然豊かな野辺山高原に、空に向かって大きく広がるアンテナがある。観測所のシンボルである世界最大級の電波望遠鏡「45m電波望遠鏡」。直径45メートルの大口径が特徴の望遠鏡は映画やポスターにも登場。物語の大きな鍵になる。
ここが今、多くのファンでにぎわっている。来場者は前年の同時期と比べて3・5倍、平日だけで見ると10倍に増加し、見学ツアーも大盛況。コナンのトレードマークである赤い蝶ネクタイ姿のコスプレで観測所ツアーのガイドを務める同観測所の西村淳所長(39)は「劇的な出来事。信じられないくらい多くの人が来てくれている」と大喜びする。
同観測所は1982年に開所。94年には世界で初めてブラックホールを発見し、2020年にブラックホール研究でノーベル物理学賞を手にした3人の外国人研究者に貢献したとされる。ただ、近年は閉鎖危機も指摘されていた。国からの運営費交付金の削減などによる財政難に加え、施設も老朽化。人件費や電気代などを節約しギリギリで現状維持している。西村さんは「観測所というのは人材確保や開発を含めて世界的な競争。米国や中国などがドンドン進歩する一方、現状維持では置いていかれてしまう」。不安と焦りがあった。
コナンの影響は大きく、映画公開日の先月18日から始めた基金はすでに100件以上の申し込みがあった。今後は映画と観測所のコラボTシャツの販売も予定されている。西村さんは「集まったお金は開発費に充てるなど“攻め”に使いたい」と力を込めた。
それ以上に期待を寄せていることがある。「ここで子供たちに宇宙や天文学に興味を持ってもらえたら」。映画を見て足を運んだ子供たちが研究者となり、開発が進んだ観測所の望遠鏡で新しい発見をする——。「コナン効果でノーベル賞受賞も夢じゃないかもしれません」。事件解決に突き進むコナンのように、観測所も挑み続ける。
≪長野県民ホールで特別展示 青山氏の色紙も≫長野県民ホールには原作者の青山剛昌氏の直筆色紙の展示を含めたコナンコーナーが展開され、1日あたり1000人以上が来場。作中で登場する県庁の食堂にも観光客が多く訪れている。観光誘客課課長の小山浩一さん(57)は「聖地巡礼はもちろん、周遊観光にもつなげたい」と語る。県内の映画館では作中に長野県警のキャラクターが登場することから、上演前に県警の警察官募集の広告が流れることもSNSで話題。県警によると今月下旬から募集が始まり「CMを契機としてたくさんの応募があることを期待している」とコメントした。
≪昨年は函館が話題に≫コナンの映画の舞台となる街はファンが聖地巡礼するスポットとして話題になってきた。昨年公開の「100万ドルの五稜星」の舞台は北海道函館市。五稜郭タワーや函館山ロープウェイなどには作中の世界観に触れようとするファンが多く訪れた。ほかに「黒鉄の魚影」(23年公開)では東京・八丈島が、「から紅の恋歌」(17年公開)では大阪と京都が舞台となり、聖地巡礼の対象になった。