ジェラール・ピケが世界に広める「キングス・リーグ」はスポーツか余興か

2025年1月18日(土)16時0分 FOOTBALL TRIBE

ジェラール・ピケ氏 写真:Getty Images

7人制サッカーの国際大会、第2回キングス・ワールドカップ・ネーションズ2025がイタリアで開催され、1月12日の決勝戦でブラジル代表が初優勝した。同大会は、2022年11月に元スペイン代表DFジェラール・ピケ(2023年引退)が立ち上げた7人制サッカー、キングス・リーグ(Kings League InfoJobs)の世界大会である。


スペイン発祥のキングス・リーグなるこのスポーツは、サッカーとフットサルの間を取ったような広さで行われ、ルールはブラジル発祥の7人制サッカー「ソサイチ」をベースに定められている。ピッチサイズは自由とされているが、ソサイチ同様おおよそ50メートル×30メートルで行われることが多いようだ。試合は20分ハーフで行われる。ピッチは天然芝とは限らず、フットサルのように人工芝やゴム床、木床で行われることもある。


ここでは、このキングス・リーグの詳細を検証し、果たしてスポーツなのかエキシビションなのかという点について考察する。




キングス・ワールドカップ・ネーションズ2025 写真:Getty Images

エンターテインメント性溢れる独自のルール


キングス・リーグの特色は、エンターテインメント性が溢れた独自のルールだ。試合はゴールキーパーとフィールドプレーヤー1名で始まり、1分毎に1人ずつ加わり、7対7となるのは試合開始5分。それ以降自由に選手交代が可能(退いた選手も再出場可能)。後半には、試合前にランダムに選んだ「シークレットカード」を使うことができる。内容は以下の通りだ。


キングス・リーグのシークレットカード



  • ダブルゴール:4分間、自チームのゴールの点数が2倍になる

  • 出場停止:4分間、相手チームの選手を1人退場にできる(GK以外)

  • ペナルティキック:流れやファール関係なしにPKを得られる

  • シュートアウト:ボールがフィールドの中心に置かれ、選手は5秒以内にGKとの1対1を実施

  • スタープレイヤー:自チームのコーチが選んだ選手が決めた選手のゴールの点数が2倍になる。その選手はアームバンドを装着する

  • ジョーカー:上記すべてのカードあるいは相手チームのカードを奪い、使うことができる


また、プレジデント(オーナー)が、5分〜18分の間あるいは20分〜38分の間にPKを1本蹴ることができる「プレジデントペナルティ」なるルールも存在する。さらに、18分で試合が中断され、スタンドからゲストが振った巨大なサイコロの出た目の数に応じて、残り2分の間のピッチ上の人数が決定。その人数の選手がゴールラインに集まり、前半の残り2分はボールの奪い合いとなる。


他にもここでは書き切れないほどの特殊ルールが存在し、サッカーをベースとしながらも、とことんエンタメに特化しており、ルール変更も頻繁に行われている。


イタリア代表 VS 日本代表 写真:Getty Images

スポーツかエキシビションか


チェアマンのピケ氏は、このスポーツを立ち上げた動機として若者のサッカー離れを指摘し、「サッカーの90分という時間は長過ぎる。タイムパフォーマンスを重要視するファンに受け入れられるコンテンツとして世界に発信したい」と胸を張っている。タイパ重視の流れは日本のZ世代だけの話ではないようだ。


スペインでは人気が爆発し、バルセロナの本拠地カンプノウや、アトレティコマドリードの本拠地エスタディオメトロポリターノを満員にした。YouTubeやTikTokなどでの配信では、約200万人が視聴したという。また、キングス・ワールドカップ・ネーションズは、日本でもDAZNや、キングス・リーグ公式YouTubeで配信された。


キングス・ワールドカップ・ネーションズ2025で、人気YouTuberの加藤純一氏がオーナーを務める日本代表のムラッシュFCは、いきなり初戦で開催国イタリア代表を破る大金星を挙げたが、その後アルゼンチン代表とモロッコ代表に敗れ、準々決勝進出を逃した。しかし、この試合結果を日本のスポーツメディアが報じた様子はない。これはスポーツではなくエキシビションと判断されたのだろう。


肝心の試合内容だが、ドロップボールで試合が開始されると同時にハイテンションなゲームが展開される。オフサイドルールがなく、スライディングタックルも禁止されているため、多くの得点が生まれ、確かに若者には受けそうではある。


しかしながら、これをサッカーとして見ると物足りなさを感じる。あまりにもせわしなさ過ぎて、サッカーの醍醐味の1つでもある「戦術」があるようには思えないからだ。さらにゲーム性を高めるために採用されたシークレットカードによって試合の「流れ」も排除され、ドタバタとした点取り合戦に終始している印象を受ける。一度見るとその目新しさに惹かれるが、2、3試合も見ればどの試合も同じような展開で飽きてしまうのだ。




イケル・カシージャス 写真:Getty Images

米国や日本でブームを巻き起こす可能性は


冬季と夏季の2シーズン制で開催されているキングス・リーグは、12チームのリーグ戦に始まり、上位8チームによるプレーオフで優勝を争う。


元スペイン代表GKイケル・カシージャス、元アルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロといった往年の名選手や、スペインの人気YouTuberのイバイ・リャノスといったインフルエンサーがクラブオーナーを務める。ゲストプレーヤーとしては、FWロナウジーニョ、FWネイマール、FWアンドレイ・シェフチェンコ、MFアンドレア・ピルロ、MFホアキン・サンチェス、FWジブリル・シセ、DFジョアン・カプデビラ、FWハビエル・エルナンデス、DFパブロ・サバレタといった大物も過去にプレー。日本からは元代表DF那須大亮も、第1回の同大会に参戦した。


ピケ氏は欧州での成功を手にし、今度はアメリカ大陸でキングス・リーグを広めようとしているが、スポーツビジネス大国の米国で成功するかは不透明だ。現在、最も勢いのあるリーグの1つであるメジャーリーグサッカー(MLS)の牙城を崩す作業は簡単ではない。


日本においても、キングス・リーグがブームを巻き起こす可能性は限りなく低いと言わざるを得ないだろう。カードやサイコロによってどんでん返しが起こるルールが、公平性を是とする日本人には到底受け入れられないと考えるからだ。この競技に真摯に向き合っている選手にとっては耳が痛いだろうが、つまるところ、成功したYouTuberが資金を出して始めた“サッカーもどき”の域を出ないだろう。

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