史上最多全21戦のシーズン、日本メーカーへの優遇措置導入で勢力図はどう変化するか【2024年MotoGPをイチから学ぶ/前編】
2024年3月7日(木)10時50分 AUTOSPORT web

3月8日から10日にカタールで開幕戦を迎える2024年シーズンのMotoGP世界選手権は、今年も5メーカー22台が参戦。昨年より2レース増加となる22レースが予定されていたが、アルゼンチンGPが中止となり全21戦で争われる。
MotoGP史上最多開催となる2024年シーズンの見どころを前編・後編のふたつにわけて紹介しよう。前編ではMotoGPの基本レギュレーションや今シーズンの変更点や2024年の開催カレンダー、そして、昨年から大きく変わったレースウイークのスケジュールから今季の注目ポイントをお届け!
後編では、今シーズン参戦する5メーカーとライダーラインアップについて紹介する。
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■MotoGPクラスの基本レギュレーション
MotoGPクラスは2002年からスタート。それまでの2ストローク500ccマシンに代わり、4ストローク990cc(現在は1000cc)マシンで争われることとなった。22シーズン目となる2023年のMotoGPは、5メーカー22台がエントリー。2022年をもってスズキが撤退した一方、新たにスペインのGASGASファクトリー・レーシング・テック3が参戦を開始。
2024年もドゥカティが8台、アプリリアとホンダとKTMは4台(GASGASはKTMのマシンを使用)、ヤマハは2台がレギュラー参戦する。
最高峰のMotoGPクラスは最大排気量1000cc、4ストローク、シリンダー数4気筒以下、最大ボア径81mmのエンジンを搭載したプロトタイプマシンと規定されている。その他にも157kgという最低車体重量(排気量800ccまでは150kg)、共通ECUの使用、年間8基のエンジン使用数(レース数が21〜22戦の場合。ただし、8基目のエンジン使用は第19戦以降から可能)が定められている。
最大燃料タンク容量は22リッターだが、後述するスプリントレースの場合は12リッターとなっており、チームはこの容量の専用燃料タンクを用意するか、通常のタンクの容量を減らすか、どちらかの手段を選択可能だ。タイヤはミシュランのワンメイクで、タイヤ径も17インチのみとなっている。2023年は、走行中にフロントの車高を調整する装置の使用が禁止された。ただし、レーススタート時に一度だけ作動する装置(いわゆるホールショットデバイス)は許可されている。
また、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)も刷新された。現在、MotoGPマシンに使われているのはマレリの共通ECUだが、これが『BAZ-340 ECU』と呼ばれる新型に切り替えられる。最大4倍の計算能力と最大10倍のデータ管理能力を備えるという高性能な新型ECUの導入に伴い、マシンには新たに『デンジャーライト』が装備される。転倒すると信号が直ちにレースディレクションに送信され、マシンのライトが点灯するなど安全性の向上に寄与する。
■ホンダ・ヤマハへの優遇措置
MotoGPは、昨年最終戦後に新たなコンセッション(優遇措置)システムを施行することを決定。
『シーズン最初のイベントから最後のイベントまで』と『サマーテスト禁止後の最初のイベントから、次シーズンのサマーテスト禁止前のイベントまで』のふたつの期間で獲得した最大ポイントのパーセンテージに応じて、参戦メーカーをA、B、C、Dのランクに区別。
このランクによって、許可されるテスト日数とテストに参加するライダー、ワイルドカードの出場、エンジン基数、エンジン仕様と凍結、エアロボディのアップデート、テスト用に供給されるタイヤ本数が決定される。
2024年シーズン、第一期間の区分けでは、Aにドゥカティ、Bは無し、CにKTMとアプリリア、Dがホンダとヤマハに分けられ、第二期間でランクに変更が生じた場合、タイヤなどの優遇措置は即座に施行されることになる。
Dランクとなるホンダとヤマハは、テストタイヤがAのドゥカティよりも90本多い260本を使用でき、通常3回のプライベートテストは、無制限でどのコースでも可能。エンジン開発の制限もなくなり、エアロアップデートも2回可能だ。
昨シーズンは苦戦を強いられた日本メーカー。この優遇措置によって逆襲となるのか、今シーズンの注目ポイントのひとつだろう。


■MotoGPクラス車両諸元:ドゥカティ・デスモセディチGP2024
エンジン形式 | 4ストローク水冷V型4気筒DOHC16バルブ |
排気量 | 1000cc |
最高出力 | 250ps以上 |
最高速度 | 350km/h以上 |
トランスミッション | 6速シームレス |
フレーム | アルミツインスパー |
乾燥重量 | 157kg |
フロントサスペンション | オーリンズ 倒立フォーク |
リヤサスペンション | オーリンズ ショックアブソーバー |
タイヤ | ミシュラン(17インチ) |
ホイール | マルケジーニ マグネシウム鍛造 |
フロントブレーキ | ブレンボ ダブルカーボンディスク+4ポットキャリパー |
リヤブレーキ | ブレンボ ステンレススチールディスク+2ポットキャリパー |
チェーン | D.I.D |
マフラー | アクラポビッチ |
ECU | マレリ |
燃料 | シェル レーシングV-Power |
オイル | シェル アドバンス Ultra 4 |
■Moto2クラスとMoto3クラスにも注目
なお、ロードレース世界選手権(MotoGP)ではMotoGPクラス以外にも、Moto2クラスとMoto3クラスも全戦で併催される。
最軽量級となるMoto3クラスは、若手ライダーの登竜門的な位置付けにある。したがって上限年齢が定められており、そのシーズンの1月1日時点で28歳以下でなくてはならない。
Moto3クラスで使われているマシンは、エンジンが4ストローク250cc単気筒。2024年はホンダ、KTM、GASGAS、ハスクバーナ、CFモトがマシンを供給する。
とはいえGASGAS、ハスクバーナ、CFモトはいずれもKTM傘下のメーカーで、マシンもKTMと同じものなので、実質はホンダとKTMのがっぷり四つ、といった状況が長年続いている。
Moto3クラスは日本人ライダーの活躍にも大いに期待したい。2023年は佐々木歩夢が激しいチャンピオン争いを繰り広げながらランキング2位を獲得し、2024年はMoto2クラスへとステップアップを果たした。今シーズンは鈴木竜生、山中琉星、古里太陽の3名がMoto3クラスを戦う。
鈴木は昨年、シーズン途中でシートを喪失するなど不完全燃焼に終わったが、今年は佐々木の後任としてLIQUI MOLY Husqvarna Intact GPに加入して心機一転、10年目のMoto3クラスを戦うこととなった。
山中は古巣のMT Helmets MSiに復帰。2月末に行われたオフィシャルテストでは総合4番手のタイムをマークしており、調子は上々のようだ。
そして、昨年は参戦2年目にして初めて表彰台に立つなど飛躍を遂げた古里は、Honda Team Asiaから継続して参戦。ランキング16位だった昨年からどれだけ順位を上げられるか、期待が募る。
Moto2クラスは、トライアンフ製直列3気筒765ccエンジンのワンメイク。フレームは各コンストラクターによるオリジナルのものを使用する。
この中量級クラスに参戦する日本人ライダーは小椋藍と佐々木歩夢の2名だ。小椋は長年所属していたHonda Team Asiaを離れ、MT Helmets – MSIで悲願のチャンピオン獲得を目指す。
MT Helmets – MSIは、撤退したPons Racingを引き継ぐ形で2024年から新たにMoto2参戦を果たす新チームだ。
注目は、多くのチームのマシンがカレックス製フレームなのに対して、MT Helmets – MSIは少数派のボスコスクーロ製を使用すること。小椋の走りとボスコスクーロとのマッチングの良し悪しが、悲願であるMoto2王座獲得の鍵を握ることになるかもしれない。
一方、今年がMoto2のルーキーイヤーとなる佐々木は、Yamaha VR46 Master Camp Teamから参戦する。Moto3クラスではチャンピオンを争うもタイトル獲得には一歩及ばなかった佐々木。最終戦バレンシアでは意地を見せMoto3クラスで優勝を果たし、Moto2クラスへとステップアップしてきた。まずはMoto2クラスのマシンへの適応力が求められる。
なお、Moto2およびMoto3のタイヤはワンメイクとなっており、両カテゴリーがスタートしたときからダンロップがタイヤサプライヤーを務めていた。それが2024年からピレリタイヤへと変更されたのも注目ポイントだ。

■2024年レーススケジュール
2023年からMotoGPクラスでは、スプリントレース『MotoGP Sprint(スプリント)』が導入された。走行距離はレース距離の50%で、各グランプリの土曜日に開催される。1位が12ポイントで、以下9位までポイントが与えられる。昨年のスプリントでは、ホルへ・マルティンが9勝を挙げ大きくポイントを獲得していた。
■スプリント/ポイント制度
1位:12ポイント
2位:9ポイント
3位:7ポイント
4位:6ポイント
5位:5ポイント
6位:4ポイント
7位:3ポイント
8位:2ポイント
9位:1ポイント
決勝レースでは、1位に25ポイントが与えられ、2位に20ポイント、3位16ポイント、4位13ポイント、5位11ポイント、以下順位が下がるごとに1ポイントずつ減り15位までがポイント獲得となる。
■決勝レース/ポイント制度
1位:25ポイント
2位:20ポイント
3位:16ポイント
4位:13ポイント
5位:11ポイント
6位:10ポイント
↓
15位:1ポイント
スプリントレースの実施に伴い、レースウイークのスケジュールも変更された。金曜日は、『FP1(45分間)』の走行を行い、2回目の走行となる『プラクティス(60分間)』で翌日の予選Q1(11位以下)とQ2(上位10名)を振り分ける。
土曜日は、30分間のフリー走行『FP2』を実施した後、15分間ずつのQ1(上位2名がQ2進出)とQ2を行い、スプリントとレースのスターティンググリッドを決定。そして、15時からスプリントレースが開催される。
日曜日に行われるウォームアップ走行は、昨年までの20分から10分に短縮。その後、ファンと交流する機会として、サーキットを1周する『ファンパレード』と『ヒーローウォーク』を開催。決勝レースは、ナイトレース以外は14時から予定され、すべての週末が同じスケジュールで開催される。

■2024年レースカレンダー
2024年のMotoGPは、史上最多となる全22戦が開催される予定だったが、アルゼンチンGPが中止となり全21戦で争われる。昨年は21戦予定で20戦の開催となったため、2024年は史上最多開催のシーズンとなる。
3月8〜10日にカタールのロサイル・インターナショナル・サーキットで開幕を迎え、11月15〜17日にバレンシアのリカルド・トルモ・サーキットで最終戦を迎える。モビリティリゾートもてぎで行われる日本GPは第17戦として行われる予定であり、10月4〜6日に実施される。
2023年は中止となったカザフスタンGP、そして新たにアラゴンGPが追加された。アラゴンGPは、スペイン・アラゴン州のモーターランド・アラゴンで開催。2010年に初開催され、昨年はカレンダーから外れていたが今年は復活となった。
■2024年MotoGP暫定カレンダー(2024年1月31日発表時点)
Round | グランプリ | サーキット | 決勝レース日 |
---|---|---|---|
第1戦 | カタール | ロサイル・インターナショナル・サーキット | 3月10日 |
第2戦 | ポルトガル | アルガルベ・インターナショナル・サーキット | 3月24日 |
第3戦 | アメリカズ | サーキット・オブ・ジ・アメリカズ | 4月14日 |
第4戦 | スペイン | ヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエト | 4月28日 |
第5戦 | フランス | ル・マン-ブガッティ・サーキット | 5月12日 |
第6戦 | カタルーニャ | カタロニア・サーキット | 5月26日 |
第7戦 | イタリア | ムジェロ・サーキット | 6月2日 |
第8戦 | カザフスタン | ソコル・インターナショナル・レーストラック | 6月16日 |
第9戦 | オランダ | TT・サーキット・アッセン | 6月30日 |
第10戦 | ドイツ | ザクセンリンク | 7月7日 |
第11戦 | イギリス | シルバーストン・サーキット | 8月4日 |
第12戦 | オーストリア | レッドブル・リンク | 8月18日 |
第13戦 | アラゴン | モーターランド・アラゴン | 9月1日 |
第14戦 | サンマリノ | ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ | 9月8日 |
第15戦 | インド | ブッダ・インターナショナル・サーキット | 9月22日 |
第16戦 | インドネシア | マンダリカ・インターナショナル・ストリート・サーキット | 9月29日 |
第17戦 | 日本 | モビリティリゾートもてぎ | 10月6日 |
第18戦 | オーストラリア | フィリップ・アイランド・サーキット | 10月20日 |
第19戦 | タイ | チャン・インターナショナル・サーキット | 10月27日 |
第20戦 | マレーシア | セパン・インターナショナル・サーキット | 11月3日 |
第21戦 | バレンシア | リカルド・トルモ・サーキット | 11月17日 |


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