浦和RLのAWCL敗退原因を検証。監督交代は実を結ぶのか【現地取材】
2025年3月28日(金)15時0分 FOOTBALL TRIBE

AFC女子チャンピオンズリーグ(AWCL)2024/25の準々決勝が、3月23日に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にて行われた。
日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)所属の三菱重工浦和レッズレディースは、中国の武漢江大と対戦。45分ハーフの前後半と、15分ハーフの延長戦を終えても両軍ともに得点を挙げられず、試合の決着はPK戦に委ねられる。8人中2人のキック失敗に留まった武漢に対し、8人中3人失敗の浦和RLが準々決勝で姿を消した(PK戦スコア:5-6)。
AWCL準々決勝敗退を受け、浦和RLは3月26日に楠瀬直木監督の解任、ならびに堀孝史氏の新監督就任を発表。2022/23、2023/24シーズンのWEリーグ連覇や昨年のAFC女子クラブチャンピオンシップ制覇など、同クラブに数多のタイトルをもたらした名将との契約をシーズン中に打ち切るという荒療治を決断した。
ここではAWCL準々決勝を振り返るとともに、現地取材で得た同クラブFW島田芽依の試合後コメントを紹介する。そのうえで浦和RLの敗因や、同クラブが今後突き詰めるべき課題に言及していく。

パスの受け手に問題が
この試合における両軍の基本布陣は、浦和RLが[4-2-3-1]で武漢が[5-4-1]。武漢は攻撃時にDFソン・フェイが左サイドハーフから最前線へポジションを移し、[5-3-2]に隊形変化していた。
前半7分に浦和RLのMF栗島朱里(左サイドバック)からDF高橋はな(1トップ)へのロングパスが繋がると思われたが、高橋がオフサイドの反則をとられる。このシーンに限らず、浦和RL陣営の相手最終ライン背後を狙う姿勢は旺盛だったものの、パスの受け手が武漢の5バックに張り付きすぎる場面がしばしば。パスの受け手がオフサイドの反則をとられかねないポジションにいることで、攻撃に関われない場面が多かった。
浦和RLとしては、パスの受け手が相手最終ラインの数歩手前から助走をつけ、その背後へ走るプレーを増やしたかったところ。パスの受け手の立ち位置や動き方に問題があった。

島田が挙げた改善点は
基本布陣[4-2-3-1]の右サイドハーフとして先発し、試合後に筆者の取材に応じた島田は、パスの出し手と受け手の意思疎通を課題に挙げている。島田自身も、前半26分に栗島からのロングパスを受けようとしたところオフサイドの反則をとられており、動き出しや立ち位置の質を高める必要がありそうだ。
ー浦和の選手たちが、相手最終ラインと同一線上に並んでしまっている印象を受けました。もう2、3歩下がって助走をつければ、相手最終ラインの背後へうまく抜け出せると思いましたね。同一線上に並ぶとオフサイドにかかりやすいですし、ゲーム(攻撃)に関われない選手が多かったように見えましたが、島田選手はどう感じていらっしゃいますか。
「左サイドで味方がボールを持っているときは、外から相手が見えている(逆サイドにいる島田が、大外から相手最終ラインを見れる)ので、並ばないように凄く意識していたんですけど、パスの受け手と出し手のタイミングのところでオフサイドにかかってしまいました。もう少しタイミングをとらないと(味方と合わせないと)いけないなと思いました」

栗島と伊藤を活かしきれず
この試合では左サイドバックの栗島と、左サイドハーフを務めたMF伊藤美紀が相手ウイングバックとサイドハーフの中間に立ち、度々フリーに。この2人にいち早くボールを渡せばチャンスになり得る場面がいくつかあったが、密集地帯である武漢のセンターバックとボランチ間への縦パスや、繋がる可能性が低い相手センターバック背後へのパスを他の選手が送ってしまう場面がちらほら。ゆえに相手の守備ブロックを崩しきれなかった。
また、敵陣のサイドにボールが到達してもクロスのバリエーションが乏しく、これも武漢の守備を崩せなかった原因のひとつ。サイドの深いところへ一旦ボールや選手を送り込み、パスワークの起点を作る。そこから後方の味方選手にボールを渡し、このパスを受けた選手がすかさずクロスボールをペナルティエリアへ送る。こうしたサイド攻撃が武漢戦では少なかった。

浦和RLが思い出すべきゴールは
2023/24シーズンのWEリーグ最優秀選手に選ばれ、得点女王にも輝いたFW清家貴子が、昨夏にブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン(イングランド)へ移籍。強力なアタッカーを失ったなかで、如何にしてパスワークの質を高め、攻撃力や得点力を維持するのか。これが浦和RLの現状の課題だ。
どの試合でもボール保持率は高く、敵陣の深いところまでボールを運べているが、あとひと工夫が足りない。そんな同クラブが思い出すべきは、2023/24シーズンのWEリーグ第17節サンフレッチェ広島レジーナ戦における先制ゴールだろう。
ここでは浦和RLが敵陣右サイドのゴールライン付近で攻撃の起点を作り、遠くへ飛ばなかった相手選手のクリアボールを栗島が回収。栗島がすかさずペナルティエリア内へ浮き球を送ると、これに伊藤がヘディングで合わせ、ゴールネットを揺らした。
味方からのパスか、それとも相手のクリアボールかの違いはあるが、サイドの深いところで攻撃の起点が作られ、その後方に立っていた選手のクロスからゴールが生まれたことに変わりはない。ゴール前に立っている相手選手の死角(背後)から、助走をつけてクロスボールの落下地点に入れば、小柄な選手でもヘディングで得点できる。先述のゴールシーンは、このサッカーの真理が身長150cmの伊藤によって証明された瞬間だった。

「相手の見えないところからゴール前に入る」
伊藤は前述の広島戦後に筆者の取材に応じており、クロスボールへの合わせ方の極意を明かしている。画竜点睛を欠いている浦和RLが今後突き詰めるべきは、この点だろう。
ー伊藤選手は小柄(身長150cm)ですが、空中戦においてクロスボールにピンポイントで合わせることができています。そのためのコツを、全国のサッカー少年・少女の皆さんのために教えていただけますか。
「『せえの!』で(相手守備者と同時に)競り合っても難しいので、私は相手の見えないところからゴール前に入るというのを意識しています。見えないところからゴール前に入ってこられると、相手としても対応が難しいと思います。それを練習のなかでやり続けました」
「クロスを上げる人とタイミングを合わせるのも大事ですね。あと、私の場合は『こういうボールが欲しい』というのを、クロスを上げる選手に伝えています」
ーどういうクロスボールであれば、伊藤選手は合わせやすいですか。
「滞空時間のあるボールですね。こうしたクロスが上がると、相手としてはどうしてもボール(だけ)を見てしまいますし、体も止まってしまいます(その場でジャンプする形になる)。ふわりとしたクロスボールのほうが、私としては後ろから勢いをつけてゴール前へ入りやすいですね」
WEリーグ3連覇の可能性を残すなか、功労者である楠瀬監督が任を解かれることに。AWCLベスト8止まりのショックも小さくないなか、3月30日に行われる現WEリーグ首位INAC神戸レオネッサとの上位決戦(リーグ第16節)で、浦和RLは復活できるのか。堀新監督のもとで、同クラブの攻撃がどのようにアップデートされるかにまずは注目していきたい。
(※)本記事の試合時間は、1分以内の秒数を切り上げて表記。