【内田雅也の追球】再起に向け「考えるな」

2025年4月20日(日)8時0分 スポーツニッポン

 ◇セ・リーグ 阪神0-3広島(2025年4月19日 甲子園)

 阪神・木浪聖也の心中は察して余りある。自身の2失策がともに絡んで3点を失った。敗戦後、しばらくベンチ裏から出てこなかった。

 2日前(17日・神宮)も9回裏「あと1人」で同点につながる失策を犯していた。前日は先発メンバーから外され、雪辱を期した一戦でまたも失敗したのである。

 取り返すべき打撃でも4打席無安打。9回表には3個目の失策をおかすおまけまでついた。

 試合前練習中の一塁ベンチ。OBの川藤幸三が木浪を呼び止め「ここやぞ」と胸をたたいていた。気持ちで負けるなとの意味だ。「エラーしようが、何しようが、平気な顔でグラウンドに立つ。そんなもん、プロなら当たり前のこっちゃ」

 むろん木浪も承知のうえだ。だが、いざ打球が飛んでくると邪念がもたげたのではないか。最初の守備機会だった2回表先頭のゴロをはじいた。転がり来る何秒かの間に大事にいこうとか、足を動かしてとか、何か考えていたように見える。

 「考えるな」は野球における究極の助言である。プレーの合間にはとことん考えるわけだが、いざボールが動いている間は考えてはいけない。体が動かなくなるのだ。

 茶道に同じ教えがある。実に細かで多くの手順があるが、師匠は「考えるな」と言う。森下典子『日日是好日』(新潮社文庫)で読んだ。「頭で考えない。手が知っているんだから、手に聞いてごらんなさい」。すると、スイスイとお点前ができた。稽古を積んできた「自分の手を信じなさい」というわけだ。

 木浪も幾多のゴロを練習してきた自分を信じたい。眠れぬ夜を越えて、再起してもらいたい。

 「考えるな」は、上達や克服には練習しかないことを意味している。

 この日は球団創設の1936(昭和11)年、初の対外試合を行った記念日だった。甲子園でセネタース、金鯱に連勝している。観衆は4225人だった。それでも選手たちは懸命だった。

 この日の観衆は4万2605人と10倍にも増えた。大観衆のため息は銀傘にこだまし木浪の心の傷を深めたことだろう。ただ、大リーグにはこんなことわざもある。「エラーをするのは選手。それを許すのがファン」

 ファンもまた再起を待っている。同情など無用だろう。より強い気持ちでまたグラウンドに立つしかない。それがプロである。 =敬称略=

 (編集委員)

スポーツニッポン

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