【内田雅也の追球】「青春」の血が騒いだ。

2025年4月26日(土)8時0分 スポーツニッポン

 ◇セ・リーグ 阪神4—1巨人(2025年4月25日 甲子園)

 甲子園に立つ江夏豊を見ただろうか。

 阪神の球団創設90周年記念レジェンズデー第1弾。田淵幸一(本紙評論家)、掛布雅之に加えサプライズゲストとして東京から甲子園にやって来た。始球式で投手を務めた2015年以来10年ぶりの甲子園だった。

 昨年2月に体調を崩してから車いすと酸素吸入器を欠かせなくなった。それでも試合前、ファーストピッチセレモニーでマウンドにのぼった。

 捕手・田淵、打席に掛布。ボールは持たず、車いすに座ったまま、投げるそぶりをする、という筋書きだった。だが、江夏は立ち上がったのだ。

 だから見守った藤田平、江本孟紀川藤幸三……らOBも球団関係者も驚いた。さらにプレートを踏み、振りかぶった。吸入器の管が体にまとわりつくのも構わず、左腕を振ったのだ。

 事前説明を行った球団本部部長・馬場哲也は「立っていただければ最高とお伝えしましたが……最高以上でした」と感激していた。掛布は空振りし、田淵は捕った。ないはずの白球が誰の目にも映っていたはずだ。

 「20代を過ごしたタイガースが青春時代。甲子園は青春の地」と江夏はいつも話していた。この日も登板後、物思いにふけった。「甲子園はふるさと。ここで野球をやれたことを誇りに思う」

 「28」のタテジマ、「9番ピッチャー、江夏」のアナウンス、大観衆のざわめき、浜風、土の匂い……甲子園は江夏に青春を思い起こさせた。

 <青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う>とサムエル・ウルマンの詩『青春』にある。<年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる>。ならば、野球を愛する江夏は今も青春を生きている。

 今のメンバーがベンチで見つめていた。監督・藤川球児も胸を打つ光景だった。「血が騒いだのが分かりました。さすがと言いますか、すごかったですね」

 病と闘いながら、懸命にマウンドに仁王立ちして投げる。あの姿を見て奮いたたない者などいない。自分たちは健康で思う存分プレーできるではないか。

 だから、猛虎たちははつらつと投げ、打ち、守り、走った。村上頌樹の快投、大山悠輔の快打、佐藤輝明の快弾、中野拓夢の快守、快走……快い「青春」の輝きを放っていた。 =敬称略=

 (編集委員)

スポーツニッポン

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