甲子園優勝校で異例の「オール5」達成...健大高崎最強世代で「スタンド組」だった築山新の生存戦略と意地
2025年5月2日(金)8時0分 スポーツニッポン
東北・関東エリアのアマチュア野球を担当する記者は取材の際、選手がどのように「強み」を生かして困難に打ち勝つか、というテーマを持って取材している。昨春の選抜では初の甲子園優勝を果たし、今年の選抜では4強入りした健大高崎(群馬)に自分だけの強みを持つ選手がいた。
19日に迎えた選抜後初の公式戦だった春季群馬県大会2回戦。館林商工との一戦で最速133キロ左腕・築山新(3年)が、公式戦デビューを果たした。救援で2回を1安打1失点。上手投げとサイドスローを駆使して幻惑し、5三振を奪う好投だった。地元の群馬県富岡市出身。小学時代から応援し続け、憧れ続けた「KENDAI」の背番号11を背負い、万感だった。
「入部からここまであっという間でした。初めての緊張、不安があったけれど自分の出せる力は最大限発揮できた。健大の背番号を背負って投げられてよかったです」
健大高崎の投手陣は高校野球史上において、屈指と断言できる。この春、選抜史上最速の155キロをマークした剛腕・石垣元気(3年)、七色の変化球を操る145キロ左腕・下重賢慎(3年)。そしてこの夏、146キロ左腕・佐藤龍月(3年)が左肘手術から復活する。プロのスカウトが熱視線を送る3投手は、同学年の投手にとっては何層にも立ちはだかる壁。ベンチ入りすら困難な状況で築山の「生存戦略」は上手投げ、横手投げの使い分けだった。
「1学年上の仲本暖さんが使い分けていたので憧れました。去年の春にサイドスローに転向した後、ケガをしたので“上投げに戻そうかな”と思っていたんですけれど、(上手と横手で投げてきた)経験を生かしたいと思いました」
昨年は選抜優勝、今年は選抜4強、と栄光の歴史を常にスタンドから目に焼き付けてきた築山。選手として勝利に貢献できない日々で「心は折れなかったのか」と問うと、ここにも意外な「生存戦略」があった。
石垣や佐藤龍が野球で実績をつくり、称賛を受ける一方、築山は勉強も頑張った。ベンチ入りを目指して励む練習の日々で、授業中も野球と同じくらい一球入魂した。苦手科目の国語は特に時間を割いて教科書を読み込み、テストでは全教科90点以上をマーク。2年時の成績は強豪野球部では異例の「オール5」を達成した。
石垣が繰り出す158キロなんてとても投げられない。佐藤龍の卓越した投球術は自分にはない。それでも築山は勝負を野球のフィールドに限定せず「高校生活」とした。守備で失策すれば打ってミスを取り返すかのごとく、野球で結果が出ない日々でも勉強で努力が報われる達成感を得た。「自分の中で意地みたいなものがあった。勉強を頑張ることで、しっかり覚悟を持って野球で攻めていける感覚があった」と誇った。
「野球ノートにはずっと“覚悟”“自覚”と書いてきた。夏のベンチ入りが第一目標なので、勉強も怠らずに道を切り開きたい」
全国から逸材選手が集う健大高崎で異彩を放つ文武両道。独自の「生存戦略」を持つ築山新が青春を燃やしている。(記者コラム・柳内 遼平)
◇築山 新(つきやま・あらた)2007年(平19)10月29日生まれ、群馬県富岡市出身の17歳。高瀬小1年から全高瀬少年野球で野球を始め、富岡南中では高崎中央ボーイズでプレー。健大高崎では3年春にベンチ入り。憧れの選手はソフトバンク・柳田。50メートル走6秒7、遠投95メートル。1メートル78、70キロ。左投げ左打ち。