【国本雄資のフカボリSF】3つの瞬間に凝縮された王者・坪井の強さ。ダンディライアン苦戦の背景

2025年5月27日(火)7時10分 AUTOSPORT web


 5月18日、大分県日田市のオートポリスで第5戦が行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権。土曜日の悪天候によりフリー走行がキャンセル、日曜日に予選と決勝を行う変則スケジュールとなるなか、坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)が今季初優勝を果たし、開幕から続いていたDOCOMO TEAM DANDELION RACING勢の連勝を止める結果となりました。


 前回のもてぎ大会よりスタートしたこの連載では、2016年王者であり、昨年限りでスーパーフォーミュラから退いた国本雄資選手が、レースを独自の視点で分析。今回、公式放送の解説として、現地を訪れていた国本選手はレース後のミックスゾーンなどでも積極的に情報収集する姿が見られましたが、どこに着目したのでしょうか。


■KCMG予選好調の理由は“小回り”


 今回は悪天候によるスケジュール変更でフリー走行がなくなって、計時方式の予選へと変わったことで、各車セットアップの合わせ込みには苦労したと思います。あの時間だと、セッション中には車高などの簡単な調整しかできないでしょうから、結果的に持ち込みのセットアップを当てたチームが前方のグリッドにつけたのかなと思います。



 そのなかで、今季開幕から連勝してきたダンディライアンの2台は、合わせ込みがうまくいかなかったように見えました。クルマは結構硬く、ちょっと曲がりづらそうな印象でしたね。とくにコーナーのミッドから先のアンダーステアが大きく、そこでタイムロスしていたのではないでしょうか。


 TEAM MUGENに関しては、前回のもてぎ編でもお伝えしたとおり、高速コーナーでエアロがうまく使えるクルマになっているので、オートポリスでもそういったコーナーを中心にパフォーマンスが高かったように思います。彼らはオートポリスでは速いだろうと予測していたのですが、その通りになりましたね。


 予選で2列目を占めたKids com Team KCMGの走りも印象的でした。彼らは、すごく曲がるクルマになっていたと思います。オートポリスは、ブレーキをそれほど踏まずにスロットルのコントロールで走り抜ける中速コーナーが多いのですが、そういったところでフロントの入りが良く、周囲のクルマよりも小回りができていて、「これは速いな」という雰囲気がありました。


 僕が乗っていた頃から、KCMGはフロントの入りがすごく良いクルマでした。当時は逆にリヤのグリップがうまく使えないことが悩みだったのですが、最近はそのあたりもうまく行っているように見えてはいたので、オートポリスの予選なら前に来るだろう、という雰囲気は感じていました。とくに福住仁嶺選手は最後のアタックで引っかかってしまっていたので、あれがなければフロントロウまで来ていたかもしれません。



福住仁嶺(Kids com Team KCMG) 2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

■オートポリスは『アタック妨害』が発生しやすい?


 それにしても、あの方式だと22台が一斉にアタックすることになるので、コース上のトラフィックは厳しいものになりますね。オートポリスのコースレイアウトだと、ミラーで見えないところから急にアタック車両が迫ってくる感じになるんですよ。もちろん他車のアタックを邪魔しないように走らないといけませんし、邪魔されてイラっとくるのは分かるのですが、そのあたりもすごく難しいサーキットであることは確かです。


 あと、予選終盤でイエローフラッグが提示されて最後のアタックが実質途中で終了する形となりましたが、ああいった際にもう少しルールをうまく運用できたらいいな、と。一度赤旗にして、全車がワンアタックできるくらいの時間、セッションを延長するとか。全車のアタックが済んでいないのなら、そういった形で追加のアタック機会を増やすというのは、考えてもいいのかなと個人的には感じました。



ポールポジションを獲得した野尻智紀(TEAM MUGEN)/2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

■スタート直後に訪れたターニングポイント


 決勝については、なんと言っても優勝を飾った坪井選手ですね。彼は本当に、「決めるところを決めて」勝ったと言えます。印象的だったポイントは、3つありました。


 まずは、スタート直後にオーバーテイクシステム(OT)を押して順位を上げたこと。これがとても大きかったと思います。ふたつ目は、その次の周に逆に岩佐歩夢選手にOTを押されたのですが、そこを守り切ったこと。そして最後は、ピットアウト直後のコールドタイヤでのバトルで、野尻智紀選手に競り勝ったことです。ポイントとなるところを見極めて、しっかりと実行する。それが今回の坪井選手の強さだったと思います。


 スタート直後にOTを押すのは、結構勇気が必要です。「押して抜けなかったらどうしよう」とか「(自分が使えないタイミングになる)次の周に抜かれてしまうんじゃないか」などと考えると思うのですが、坪井選手は「スタートが決まった!」と思った瞬間にはOTを押しに行っている。そこで3つポジションを上げているので、その一瞬の判断はすごく良かったですね。



スタート直後、イン側から順位を上げる坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S) 2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

 また、坪井選手自身の強さはもちろんですが、1号車のタイヤのウォームアップも良いというか、『タイヤが冷えているときにもバランスが取れているマシン』なのかな、という印象も受けました。それが垣間見えたのが、野尻選手との同時ピットアウトです。1コーナーでほとんど同じタイミングでブレーキングしたと思うのですが、そこで野尻選手だけアンダーステアがガーッと出てしまって。


 でも坪井選手のクルマはそこでフロントがググっと入ってくれて、ちゃんとクリッピングポイントを外さずに走れていたように見えました。そういう冷えた状況でもうまくフロントに荷重が乗るような、バンプラバーだったり、スタビライザーのセットがあったのかな、という風に感じています。これは、僕の憶測ですけどね。それがスタート直後のポジションアップにも、効いていたのではないかなという気もしています。


 もちろん、アウトラップの坪井選手、野尻選手を抜いて首位に立っていた岩佐選手も、素晴らしいレース運びだったと思います。トップを走っていてトラブルでリタイアしてしまった経験は僕にもありますし、本当に気の毒で心苦しいのですが、チャンスはまた必ず来ると思うし、そこで彼らしいレースを見せてくれることに期待しています。



トラブル後、コース脇にマシンを止めた岩佐歩夢(TEAM MUGEN) 2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

■ポジティブに捉えたい高星明誠の走り


 予選のところでも触れたKCMGについては、フロントが良く入るというマシンのキャラクターのままレースに行って、リヤが苦しくなってしまったように見えました。ダンディライアンもフロントが入りづらいままの状態だったようで、スタートでアンチストールシステムが介入して順位を下げてしまった太田格之進選手は、とくに辛い戦いになったと思います。オートポリスのレイアウトはもともと抜きづらいですし、そこに来てアンダーステアのクルマだと、それがさらに難しくなってしまいますから。


 ただ、牧野任祐選手は早めのピット戦略が成功しての6位入賞でした。次の周にピットに入った小林可夢偉選手をオーバーテイクできていましたし、抑えるべきところは抑えられていたと思うので、勝負強さは発揮できていました。


 オートポリスは路面のミューやレイアウトが特殊ですし、さらに今回はスケジュール変更でフリー走行もないという状況だったので、ダンディライアンについては、あまり今後の心配は無いのではないかと思っています。



牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING) 2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

 あと、僕が昨年所属していたITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPULの高星明誠選手ですが、今回はいろいろと変えてきたようで、いい方向に向かっているように見えました。決勝では最後、10位を走っていたところで9位を狙いに行ってポジションを落としてしまいましたが、そういった攻めた走りも今年初めて目にすることができたので、ポイントが獲れなかったとはいえ、ポジティブな内容だったのではないでしょうか。


 さて、次は6月上旬の富士でのテストを経て、後半戦に突入しますね。テストはいろいろと試行錯誤できる機会になるので、またちょっと違った陣営が速さを見せてくる可能性はあると思います。もちろん、昨年富士では坪井選手が本当に圧倒していたので、そこが軸にはなってくるとは思いますが、TEAM MUGENも復調してきていますし、後半戦の戦いも面白くなりそうな予感がしますね。



高星明誠(ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPUL) 2025スーパーフォーミュラ第5戦オートポリス

くにもと ゆうじ


1990年生まれ、神奈川県出身。2007年、フォーミュラ・チャレンジ・ジャパンで4輪レースにデビューし、2年目にタイトルを獲得。2010年には全日本F3選手権王者となる。翌年からフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)にステップアップすると、2016年にはドライバーズタイトルを得た。2017年はトヨタGAZOO Racingよりル・マン24時間レースを含むWEC世界耐久選手権にスポット参戦した。スーパーGTでは2012年から現在まで、GT500クラスのトヨタ/レクサス陣営で活躍。一方、スーパーフォーミュラは2024年限りで現役を引退した。カメラの腕前はプロ級で、例年WEC富士戦の際はTGRオフィシャルフォトグラファーとしてコースサイドから写真撮影に勤しんでいる。



2016年スーパーフォーミュラ王者で、2024年限りでシリーズから退いた国本雄資

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