メジャーを席巻する日本人の“技” 元ヤ軍捕手が語る山本由伸らが覚醒した理由「日本は全て理論的。アメリカは球速ばかり」
2025年5月27日(火)6時0分 ココカラネクスト

千賀と山本は共にメジャートップ水準のパフォーマンスを披露している。(C)Getty Images
“無視される”力を持つ山本
ふたりの日本人エースの存在感が米球界で高まっている。千賀滉大(メッツ)と山本由伸(ドジャースの)の両右腕だ。
彼らに関心が集まるのは、何よりも図抜けた成績によるところが大きい。防御率はともにリーグでふたりだけの1点台(千賀は1.46、山本は1.86)。1投球回あたり何人の走者を出したかを表す数値を示す指標「WHIP」に至っては、山本は驚異の0点台(0.91)を記録するなど、サイ・ヤング賞を手にできる高水準を叩き出しているのだ。
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メジャー屈指の支配力を発揮する両右腕。その快投を目の当たりにした米球界では、日本人投手の質の高さがクローズアップされている。
米野球専門YouTubeチャンネル『Foul Territory』のホストを務める元ヤンキースの捕手であるエリック・クラッツ氏は、「投手には正確に、狙った場所に投げてもらう必要がある」と言及。リーグトップ水準の投球を続ける千賀と山本に限らない日本人投手の安定感を語った。
「今の野球界ではそういう考えが全て無視されている。最近の選手たちは『ミットはどこに構えてもいいよ』って感じなんだ。そういう意味でヤマモトのように正確に投げ抜く投手は極端な例かもしれない」
日本人投手の再現性の高さを評したクラッツ氏は、現役時代にヤンキースでバッテリーを組んだ田中将大(現巨人)を「最高の日本人投手、いや歴代でも一番かもしれない」と強調。名門のエースとして君臨した男のエピソードも披露している。
「フレディ・フリーマンのスカウティングリポートを一緒に見ていた時に、マサは言ったんだ。『フリーマンって高めのスライダーが苦手らしいね』って。それで俺は『いや、それはないだろ。高めのスライダーなんて失投じゃないか』って言ったんだ。
それでも彼はいいアイデアだから試させてくれって聞かなかった。その時にマサは『絶対にミットの位置だけは正確にしてくれ』って言っていた。それで投げたらスカウティングは完全にひっくり返された。フリーマンは2回も三振したんだ」
「蚊のお尻にも命中させられるぐらいの精度を持っている」
日本人投手の稀有な力を語ったクラッツ氏は、「日本のピッチャーはものすごく緻密にフォームを作り込んでいる。だから、狙い込んできた球種であれば、蚊のお尻にも命中させられるぐらいの精度を持っているんだ」とも力説。そして、よりパワーを重視する現代の投手たちにコントロールの重要性を説いた。
「もちろんタイプによるけれど、アメリカの投手にも精密なコントロールは絶対必要なんだ。日本の野球はすごくメカニカルだ。本当に凄いレベルだ。彼らの野球文化には『適当にやってこい』なんてものはない。バランスが重視されていて、すべてが理論的だ。しかも、幼いころから反復練習で技を身に着けていくんだ。
アメリカはどう? 少なくとも投手に関しては、今じゃ97マイルは投げられなきゃドラフト1位なんて無理だ。それでも『10巡目でもいいか』なんて思っている選手もいない。ほとんどの選手は球速ばかりを追い求めている。日本人みたいに『フォームを徹底的に磨いて、狙ったところに投げるぞ』なんて方向には見向きもしていない」
最後には「お前の球の威力vs俺の球の威力なんて話をしている時代はやめた方がいい」とも語ったクラッツ氏。育成レベルにまで及んだ指摘は、捕手としてマスク越しにメジャーで異彩を放つ日本人投手の凄みを目にしてきたからこその提言だった。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]