心のありようは、空間に表れる。部屋が散らかってきたら心が乱れたサイン。空間を磨き、自身の心を磨く。禅僧が教える《心が整う掃除道5ヵ条》
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一見、汚れていないようでも場を整える。禅の世界で掃除を大切にする理由は、「心」にありました(構成:島田ゆかり イラスト:堀川直子)
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「掃除道」のすすめよりつづく
「誰かの役に立った」という思いが心を豊かに
それでは、執着をなくすにはどうしたらよいのでしょうか。日本には昔から「見立て」という考え方があります。これは「ものを本来あるべき姿ではなく、別のものとして見る」という茶の湯の精神に由来するもの。割れた茶碗を金継ぎで修復し、命を蘇らせるのは、まさに見立て術です。
「着なかった服でも捨てるのはもったいない」「せっかくいただいたのに、ゴミにするなんて申し訳ない」と感じたら、発想を変えて新しい役割を与えましょう。これも、見立ての一種です。
誰か必要な人に差し上げたり、フリーマーケットで売ったり。「いつか使うだろう」と、手放せない人は少なくありませんが、その「いつか」が来ることはほぼありません。
昨今は災害も多く発生していますので、被災地で役に立ちそうなものを寄付するのもいいでしょう。「誰かの役に立った」「無駄にしなかった」という嬉しさは、何よりも心を豊かにしていきます。
そしてもうひとつ、有象無象のものに執着しないためには、日頃からの「もの選び」も重要です。心が磨かれた人は、愛着を重視してものを選びます。
たとえばペンを買うときに、適当に選んだものと、じっくり吟味して選んだものでは、愛着がまったく違うはずです。適当に選んだものは手荒に扱ったり、失くしたりしても気になりません。
しかし、愛着があるものは常に慈しみ、ものとしての命を輝かせる扱いができます。ぜひ、みなさんの身のまわりのものを見直してみてください。愛着があるものはどれくらいあるでしょうか。存在さえ忘れているものはありませんか? 掃除道とは、そのように大切なものだけを残していくことでもあるのです。
心のありようは、必ず空間に表れます。再び部屋が散らかってきたら、心がストレスを感じ、乱れてきたというサイン。まずは何も考えずに、無心で掃除をしてみましょう。
誰もが幸運を願っていますが、考えているだけでは幸せはやってきません。空間を磨き、自身の心を磨くこと。一日ひとつ、手を動かしてみる。誰のためでもなく、自分のための「掃除道」なのですから。
<心が整う掃除道5ヵ条>
【1】スケジュールを決める
(イラスト:堀川直子)
朝起きてから「今日はどこを掃除しよう」と考えると、寒いからやめよう、時間がないので明日にしようなど、さまざまな言い訳が浮かんできます。
何も考えずに動けるよう、1週間、1ヵ月分の掃除スケジュールを決めましょう。
月曜日は「窓のサッシを拭く」、火曜日は「玄関の靴をしまう」など、簡単なものでかまいません。
<心が整う掃除道5ヵ条>
【2】毎朝5分、掃除を生活に組み込む
スケジュールを決めたら、あとは無心に掃除をするだけ。顔を洗って歯磨きするのと同じように、毎日のルーティンにすること。いつもよりたった5分早起きすればいいのです。
朝のその5分が心を整え、人生が好転するのですから、十分に早起きの価値があります。
<心が整う掃除道5ヵ条>
【3】自分の手を動かす
最近はロボット掃除機を使う人も増えてきましたが、「掃除道」は自分で体を動かしてこそ、意味があります。
掃除をすると無心になり、頭が空っぽになって余白を作ることができ、それが心の余裕に繋がるのです。
ロボット掃除機を使う場合は、「今日は寝室だけ」など、場所を決めて使いましょう。
<心が整う掃除道5ヵ条>
【4】ものの命を生かす
まだ十分使えるのに使っていないもの、存在さえ忘れていたものが、家にたくさんありませんか?
ものは使ってこそ、生かされるのです。与えられた命を輝かせたものに囲まれて暮らしていると、心も輝いていきます。
ものを輝かせることができるのは持ち主だけ。家の中を見直してみましょう。
<心が整う掃除道5ヵ条>
【5】気持ちよさに気づく
掃除の醍醐味は、気持ちよさに気づけることに尽きます。整った部屋が気持ちいいと感じ、お気に入りのものを使うことに喜びを感じる。丁寧な暮らしが快適だと気づけば、もう散らかった部屋では過ごせなくなります。
思考も心もスッキリして、生き方や人間関係、自分自身も変わってきたと実感できるはずです。