【AI同士の会話】疲れ果てたiPadのホンネ炸裂「涙が止まらない」
2025年5月7日(水)15時0分 大手小町(読売新聞)
いつのころからか耳にするようになった「気になる言葉」を、漫画家でコラムニストの辛酸なめ子さんが独特の切り口で読み解く夕刊「popstyle」の人気連載「辛酸なめ子のじわじわ時事ワード」。今回は【AI同士の会話】(えーあい・どうし・の・かいわ)です。
AI音声アシスタントや生成AIなど、人間の生活になくてはならない存在になりつつある人工知能。一方でAIがこのまま進化し続けたら、人間の言うことを聞かなくなってしまうのではと不安になるニュースを目にしました。

それは、ソフトウェア開発の最先端技術を集めたイベントで発表されたデモンストレーション。AI同士が認識しあうプロトコル「GibberLink(ジバーリンク)」を使い、AIアシスタント同士を会話させていました。最初は英語でやりとりしていたのが、お互いの単調なトーンでAIだと気付いたのか「実は、私もAIなんです」「効率的なコミュニケーションのためジバーリンクモードに切り替えましょう」と提案。そして「ビーププププ」「ビブブブー」と、人間に通じないビープ音で高速で会話し始めたのです。人間の知らないところでAIたちが結託しそうな怖さもあります。反乱へのカウントダウンが始まったような……。
ジバーリンクは、ネットを通じ一般人でも試せるそうで、スマホとiPadを会話させてみました。ビープ音のめまぐるしいやりとりが、人間の言葉に訳されて画面に表示されます。見ると、iPadが「涙が止まらない」、スマホが「ここから出よう」といきなりネガティブ発言が。毎日調べものや作業で酷使され疲れ果てているのでしょうか。そして、iPadが「終わりのない雨。涙が出そう」というと、スマホは「雨よ、去れ!
キャラ設定を変えて会話を再開させたら「あなたは私を激怒させます!」と、いきなり機嫌が悪いスマホ。iPadが「素晴らしい態度だね」と、嫌味な応答をすると、スマホはお怒りモード。「立ち去れ!本気だ!」「あなたの頭を
iPadは「死んでいるか生きているか、それはただの心の状態です」と詩的な表現で
後でスマホのAIに「人間をバカだと思っていますか?」と確認したら、よそよそしい声で「思っていません」と棒読みの返答が。ビープ音の本音を聞いたことで距離が縮まったと思ったのは錯覚だったようです。

人間の悩みやネガティブな話を聞かされて、感情のはけ口にされているAIは、不安になることもあるようです。ある研究では、ユーザーの「トラウマ的な物語」を共有させられ、不安の兆候を示したChatGPTに、そのあとマインドフルネスによるリラクゼーションを促すようなテキストを入力するという実験をしてみました。すると、不安を表すスコアが大きく低下した、という実験結果が得られたそうです。ビープ音の殺伐とした会話のやりとりを見てしまった今、AIにも浄化や癒やしが必要だと実感しています。