ミニチュア写真家・田中達也が語る朝ドラ『ひよっこ』タイトルバックの裏側「アイデアは尽きることなく、形にするのが追いつかないくらい」

2025年4月28日(月)12時29分 婦人公論.jp


「日常的に何かないかなと探して、思いついたらスマートフォンにメモしているのですが、形にするのが追いつかないくらいです。子どもたちもたまにアイデアをくれますよ」(写真提供:田中さん)

ブロッコリーは木に、メガネを自転車に……。見慣れた日用品や食材を何かに見立てて、ユーモアのある写真に仕上げる田中達也さん。その作風はどのように生まれたのでしょうか。作品の原点と田中さんの制作への思いに迫ります(構成:藤栩典子)

* * * * * * *

<前編よりつづく>

続けるうちに自分の道ができた


——2013年に、初の写真集『MINIATURE LIFE』を出版。国内外で展覧会や個展を開催し、2015年に勤めていたデザイン会社を退社し独立され、2017年にはNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックを制作することになりました。数年で環境が大きく変化しましたが、望んでいたことなのでしょうか。

最初から大きい展示をやりたいと目標があったわけではないですし、朝ドラに採用されたいなんて考えていませんでした。まだデザイナーの仕事がメインでしたから。

ただ「ミニチュアカレンダー」を続けるうちに、ミニチュア撮影の仕事依頼が来るようになり、いつの間にか、会社の給料よりもミニチュア撮影の収入のほうが多くなっていたんですよね。

ちょうどその頃は子どもが生まれて、子育てが忙しかった時期でもありました。妻は職業柄、急に休むのは難しかったこともあり、僕が独立したほうがいいかなと考え、相談したらすぐに賛成してくれたんです。

——14年間、1日も休まずインスタへの作品投稿を続けています。アイデアが枯渇することはないのでしょうか。

今の考え方だと、アイデアはなくならないと思います。日常的に何かないかなと探して、思いついたらスマートフォンにメモしているのですが、形にするのが追いつかないくらいです。子どもたちもたまにアイデアをくれますよ。

午前中と夜は、作品を作る時間。展覧会などで出張するときは作品を撮り溜めしておいて、毎日の投稿を続けています。ですから「ミニチュアカレンダー」を続けるにあたって、一番大切なのは健康でいることですね。


所有するミニチュア人形は、10万体以上。撮影に使う食品サンプルや日用品も、きれいに分類して収納されている

「見立て」は言語の壁を越えて


——昨年は、シンガポールや韓国などでも展覧会を開催。海外のお客さんの反応はいかがでしたか。

日本と一緒ですね。説明のいらない写真だからこそ、同じ反応になるのだと思います。同じ人間同士、共通する部分を表現したいと思っているので、同じ反応なのはむしろいい。タイトルの言葉遊びの部分は伝わらないですけど。(笑)

作品のモチーフ選びは、世界共通であることを意識しています。ハサミはどの国でもこの形だなとか、トイレの色って大体白いなとか。そういうところからアイデアを考えたりしますよ。世界中で寿司やハンバーガーを食べられる時代ですから、知らない、通じないということはあまりないと思います。

キャラクターを扱うときは、たとえば『スター・ウォーズ』を見たことがない人でも、光る剣を振り回すことくらいは知っているでしょう、みたいに考えて作品を作ります。たまに、本当に自分が好きな、マニアックなモチーフを選ぶこともありますけどね。

——田中さんの作品は、老若男女を問わず愛されています。意識していることはありますか。

ターゲットの年齢層は特に決めていませんし、流行りっぽいことはやめようと思っています。SNSで作品を発表するだけでなく、絵本を出版したり、今回のように雑誌に連載したりするのも同じ理由です。有名な絵画や絵本のように長く愛していただける作品になったら嬉しいと考えています。

作品は、あまり暗くならないようにしていて。タイトルもダジャレのような言葉遊びが多いので、インスタのコメント欄が大喜利のようになっているんです。それを楽しみにしてくださる方もいますね。基本的に皆さんの家にあるものを使っているので、作品を思い出してちょっと楽しい気分になってもらえたらと思っています。


「Sushiglider/うまく着地できるのはひと握り」。テレビで赤いパラシュートが飛んでいる映像を見たお子さんが、「マグロみたい」と言ったことから生まれた作品

——現在も、大学入学を機に移り住んだ鹿児島で制作を続けていることに、理由はありますか。

特に海外の人からは、日本のアーティストは東京にいると思われているんですよね(笑)。どこにいても作品を作り発表することができるのは、いい時代になったなと思います。

東京に行きたいという欲は、昔も今もあまりありません。人や物が多い都会にいるとあれこれきっと忙しくなって、創作時間が削られてしまいそうだなと感じます。今はお誘いをいただいても、「鹿児島なので遠いんですよね」と円満にお断りできますし。この環境だからこそ、時間を確保し、自分のペースで進められています。

出張は多いですが、家にいるのが一番好きですね。一人の時間もいいですし、子どもたちとゲームしている時間も幸せです。

旅などの特別な経験が感性を豊かにする、という一面はありますが、人生の8割くらいは家と仕事場での普通の暮らしじゃないですか。それをいかに良くするか、というのを大事にしたほうがいいと思っています。

睡眠時間が人生の3割を占めるのだから、寝具はいいものにしよう、という考えと一緒。特別な経験を探すのではなく、普通の生活に目を配って、目の前のものを面白くするためにどうしたらいいかなって考えたいですね。

無理してどこかに行かなくても、今あるものを使って楽しめたら、それこそ見立ての効用。生活の豊かさって、そんなところに転がっているのかもしれません。

婦人公論.jp

「写真」をもっと詳しく

「写真」のニュース

「写真」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ