「モノではなく家族」号泣する人、別れられず連れて帰る人も…“処分するラブドールのお葬式”をする持ち主たちの深い愛情

2025年5月6日(火)18時0分 文春オンライン

 ラブドールをモノではなく人間としてあの世に送る。僧侶による読経と引導を経て、この世と別れさせる真面目な儀式を請け負うサービスが「 ドール葬儀社 」だ。合同葬が執り行われるということで、東大阪の会場に足を運んだ。



2体のラブドールの合同葬の様子 筆者撮影


◆◆◆


刀で守られ、引導を渡されるラブドール


 2025年4月某日、東大阪にある閑静な住宅街で粛々と別れの儀式が執り行われた。経机を挟んで読経する僧侶と相対するのは、2体のラブドールだ。壁を背にして着座し、脚には守り刀が置かれている。


 一室を改造した真っ白な空間。引導を渡される2体のドールの左右にはスタジオ常駐のドールが座っており、30分弱の葬儀の成り行きを見届けていた。当然ながら身動き、瞬きひとつしない。


 これは、2020年1月にスタートした「ドール葬儀社」の合同葬の様子だ。対象は等身大のラブドール。結婚や引っ越しなど様々な事情から長年大切にしてきたラブドールを手放す人がいる。その際に単なる不要品として処分するのではなく、大切なモノとして丁寧にお別れをしたい。そうした要望に応えるサービスだ。


 今回のように他のドールと一緒に行う合同葬なら、料金は1体3万3000円、単体での式を希望するなら5万5000円となり、ドールのオーナーの立ち会いも可能になる。葬儀後の解体まで手がける「エンジェルプラン」も9万9000円で提供している。いずれのコースも人気があり、全国からコンスタントに依頼が届くという。


友人から託されたドールがすべての始まり


 創設者で写真家の新(あらた)レイヤさんは、人間がラブドールになりきって写真に収まる「 人間ラブドール製造所 」や、望む死に様で遺体になりきる「 シタイラボ 」など、ユニークなサービスをいくつも展開している。


 その一角に「ドールのお葬式」が加わったのは、結婚を控える友人から1体のラブドールを託されたことがきっかけだった。


「式の前日に『捨てるなり何なり好きにして』と言って持ってきたんです。長いこと押し入れに入れていたみたいで、もう関節なんてボロボロでした。それで産廃業者に処分を頼むことにしたんですが、顔に足跡をつけられたりして、扱いがすごく雑でした。もう私怒っちゃって『こんなところに処分任されへん!』と再び引き取ったんです。それが始まりですね」(新さん)


 そのときのドールは新たなボディを得て、常駐ドール「リンネ」さんとなった。


 廃棄物としてのラブドールは大型の不燃ゴミとみなされる。最終処分先はゴミ処理用の埋め立て地だ。四肢や首などの部位ごとに解体し、最終的には細かく粉砕されて他の不燃ゴミと一緒に固められる。行き着く先は同じであっても過程を大切にしたい。その思いを共有してくれる産廃業者を探し、かねてから交流のあった僧侶にも協力を仰ぎ、現在にいたる。


 ちなみにドールに体液が付着していると医療廃棄物扱いとなり、処分のハードルが上がってしまう。このため新さんはボディの清掃を徹底しているが、依頼されるドールの7割は使用した痕跡がないそうだ。


ドールに宿った“魂”に読経する


 儀式を取り仕切るのは加藤禮詮(かとうれいせん)僧。5歳で親元を離れて仏門に入った祈禱を専門とする僧侶で、現在は大本山金剛霊仙寺の管長を務める。


 ドールのお葬式では生駒山修験宗の作法に則り、人形供養ではなく、人に施すのと同じ経を読み、同じ引導を渡す。


 艶やかな衣装をまとったラブドールに向けて葬儀する。ややもすればキッチュな雰囲気に傾きそうな組み合わせだが、実際の式中は一定の緊張感が確かに流れていた。それは加藤導師が腹から発する読経のクオリティによるところが大きいと感じた(筆者はかつて葬儀社で働いていたが、下手な読経が空気を壊しかけた場面に何度か遭遇している)。


 人にするのと同じ経を読む。加藤僧はその根拠をこう語る。


「簡単に言えば、お葬式はいわば故人を簡易的にお坊さんにする儀式です。それによって仏様とのご縁が結ばれて、仏様が故人の魂を導いてくださる。この魂というのは、家族同然に大切にされた人形にも宿ります。だから人間と変わりなく」(加藤僧)


 新たに大仏やお墓を建立するときは開眼(かいげん)供養という法要を行う。これは対象に魂を入れる宗教行為だ。しかし開眼供養を経なくても、村人が毎日お参りしている地蔵や人が大切してきた愛用品などは、人の思いの積み重ねで魂を宿すこともあるという。これを「自然開眼(しぜんかいげん)」と呼び、ラブドールもこのプロセスを経て魂が宿った存在とみなしているわけだ。


「(等身大のドールは)人間の気持ちが入りやすい。いとも簡単に入りますよね。だって家族ですもん。その家族を手放したら、モノ扱いで粉砕されてしまう。その前に人として御招魂(魂)を抜くということが重要になってくるんじゃないでしょうか」(加藤僧)


「事情を知らない家族からしたら、ただの変態」


 実際、まさしく家族としてドールの葬儀に立ち会う人は珍しくないそうだ。ある壮年の男性は正式な喪服をまとって参列し、式の最中に大号泣して崩れ落ちたという。別れがあまりに悲しく、再び連れて帰るケースもあった。


 性的な道具という関係性をとうに超えているのはよくあることで、先述のとおり、届くドールのうち7割は性交渉の痕跡がみられない。とはいえ、周囲にはそうした関係性はなかなか理解されない。


 新さんのもとには、過去に1件だけ持ち主の遺族からの依頼が届いたことがある。夫の遺品整理の過程でドールと遺言書を発見し、そこでドール葬儀社の存在を知った女性から、「気持ち悪いからすぐ引き取って処分してください」と頼まれたという。


「事情を知らない家族からしたら、ただの変態ってことになるんですよ。そういうこともあって、オーナーさん同士で何かあったときに譲りあう文化もできています」(新さん)


 ドールのお葬式の依頼者は30代半ばから70代までと幅広いが、ボリュームゾーンは40代後半から50代だという。体力が落ちて等身大のドールを扱うのが辛くなってきたという人や、親の介護で生活形態が変わったのを機に手放すという人が多いそうだ。


 好むと好まざるとにかかわらず、人は衰えるし、自由にできるプライベートな空間は人生の局面で変わっていく。変化の過程で守りきれなくなる秘密もある。そのとき変態扱いされないよう、大切なものを大切なものとして終わらせてくれるサービスを知っておくことは、重要なことかもしれない。


(古田 雄介)

文春オンライン

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