介護を楽にする可能性のある<老健>とは?専門家「在宅介護に困ったら施設に入れることに罪悪感を持たないで。介護者の人生を優先してほしい」

2025年5月27日(火)6時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

厚生労働省が公表した「介護職員数の推移」によると、2023年度の要介護(支援)認定者数は705万人で、年々増加傾向にあります。そんななか、「介護者の人生を優先してほしい。そして在宅介護に困ったら、施設に入れることに罪悪感を持たないでほしい、入所をためらわないでほしい」と話すのは、介護老人保健施設に勤める医師・田口真子さん。今回は、田口さんの著書『最高の介護 介護のお医者さんが教える満点介護!』から一部を抜粋しお届けします。

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介護者の人生を優先してほしい


この記事を今読んでくださっているあなたは、ご家族の介護をがんばっている方かもしれません。

もしくは自分自身や親の将来の介護に漠然とした不安を持っている方かもしれません。

親や配偶者など介護が必要になったご家族を心配し、少しでも快適に暮らせるように援助してあげたい、自分ができることをできるだけやってあげたい。

そういう優しい気持ちで介護をがんばりたいと思っているあなたに、わたしが最初にお伝えしたいことは「介護者の人生を優先してほしい。そして在宅介護に困ったら、施設に入れることに罪悪感を持たないでほしい、入所をためらわないでほしい」ということです。

在宅介護? 施設介護? どっちがベスト?


家で最期まで過ごしたい人は大勢います(わたしもです)。でも、施設には施設の良さがあることも知っていただきたいのです。そのうえで在宅介護を長く続ける方法もお伝えできればと思います。

そしてもう一つ大切なのは、在宅介護をしているから介護施設と無縁ではないですし、介護施設に預けたからといって介護から卒業できるわけでもありません。

むしろ、在宅介護をしている人にこそ、介護施設をよく理解してうまく活用していただきたいのです。

可能ならば、在宅介護と施設介護の境界線を曖昧にして、皆さんの都合に合わせて両方をうまく使いこなしていただきたいくらいです。

在宅介護と施設介護をうまく使う


長年お母さまの在宅介護をしている井上さん(仮名、以下同)は、わたしが上手に介護されているなあと思っているひとりです。最初はわたしの施設のデイケアに通われていましたが、お母さまはすでに要介護5、食事を含めすべての日常動作に介護が必要になり、現在は平日は介護老人保健施設(老健)のショートステイで過ごし、週末は在宅で介護しています。

老健からは訪問リハビリテーション(リハビリ)スタッフが訪問し、できるだけ楽に介護ができるよう、ベッドの位置、手すりの位置などを助言したり、拘縮予防(手足が硬直してしまうのを防ぐ)のマッサージの方法を娘さんにお伝えしたりしています。そして、お母さまが入院すれば、その後しばらく老健に入所し、体調が戻ればまた在宅生活へ、を繰り返しています。

いつかずっと入所になるかも、と言いながらも、もうしばらくがんばります、と娘さんは笑顔でおっしゃっています。そして、自宅で無理になったらすぐ入所できる場所があるというのは、介護のストレスが軽減します、ともおっしゃっています。


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

そうなのです。介護が始まったら、可能な限り早い段階で井上さんのように、「地域の老健」とつながりを持つことをわたしはおすすめしています。老人ホームのすすめや、ほかの介護本でもあまり取り上げられない「老健」。この施設を正しく理解し、うまく活用することが介護を楽にするポイントだと思っているのです。

「老健」とは?


そもそも、「老健」とはどんな施設でしょうか。正式名称を「介護老人保健施設」といい、要介護1以上の人が入所でき、要支援の人でもショートステイやデイケアなど入所以外のサービスが利用できます。

多くの人のイメージでは「長期利用ができない、リハビリ目的の入所施設」だと思いますが、普通のリハビリ病院と大きく違うのは、ここが「地域の介護の拠点施設」だという点です。

厚労労働省の定義では、「介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」とされています。

つまり、決して入所だけが目的の施設ではなく、在宅生活が営めるように支援する施設というのがその本来の姿です。国は、前述の井上さんのケースのように、「必要な時に必要に応じて老健のサービスを使ってほしい」と考えており、「老健から在宅へ」を推進していますので、入所施設としてだけ考えれば、短期間しか入所できない、使えない施設と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際には入所を考えるずっと前から使うべき施設なのです。

けれども、多くの老人介護や老人ホームのハウツー本ではあまり「老健」は取り上げられていません。どの本にも載っていないので、老健という施設の存在を実はとてもお得で便利に使えるがゆえに、「誰かが秘密にしているのでは?」と思うほどです。

※本稿は、『最高の介護 介護のお医者さんが教える満点介護!』(講談社)の一部を再編集したものです。

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